エピローグ
バニル=カーティスの遺体は、ツルギとノクトの手により貧民街の共同墓地に埋葬された。
生きていたこと、密偵であること、それら全てのことを秘匿として。
「わざわざ汚名を着せることはありません」
バニルの名誉を守ったのだ。
やがて時が経ち、密偵の件は捕虜の苦し紛れの虚言、バニルの件も通り魔による犯行として結論付けられ、ツルギの勾留は完全に解除。
街の警戒は徐々に薄れていったことを、二人は遺体が眠らない表の墓の前で報告した。
「ゆっくり眠れ、カーティス」
小さな花束と、咥えていたタバコを供えて。
「ノクトさん、これ」
「カーティスのライター……」
「死者を弔い、思いを馳せて喫煙を始めるのは結構ですが、タバコは控えてくださいね。身体に悪いですし、煙の匂いのするキスなんてロマンチックじゃありません」
「あれは事故だ。二度は無い」
「フフッ、そういうことにしておきます。一度キスしたくらいで恋人ヅラされるのも癪ですしね」
貴様がそれを言うな、と。
ノクトはジトっとした視線をやった。
「あ、ノクトさんを好きなのは変わりませんから。デートはいつでも歓迎ですよ。性欲発散のためのセックスも」
「黙れ。……今までどおりだ。何も変わらない。私も、貴様も」
「わかってます。二人だけの秘密です」
冬の風が一陣吹き抜ける。
「いつの日かあなたを斬ります。それまではちゃんと軍人で在り続けます。ですので、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
左手の敬礼。
ノクトは下がった右手に目をやった。
「その手は貴様の戒めか」
「…………」
「私の前だけでいい。敬礼は右手でしろ」
「……はい」
ツルギは機械の手で敬礼した。
その意趣返しにほんの少しおもしろくなさを抱きながら。
「帰るぞ。午後から訓練だ」
「せっかくの晴れ間なのに。このままおいしいものでも食べに行きましょう。ノクトさんの奢りで。駅前にオブライエンさんが教えてくれたお店がありまして。なんでもザッハトルテが有名なんだとか」
「甘いものは苦手だ」
「でも私の唇は甘かったでしょう?」
「黙れ」
「今度は舌を入れてあげますね」
「黙れ」
軍人足る上司と異常な部下。
共犯者。
その関係に未だ名前は無く、この先名付けられるかも定かではない。
それでも彼女たちは同じ方向を見ていた。
そんな気はなくても百合になる……
これが当方の持ち味ってことか……
百合は百合として、ストーリーが好き、ツルギが好きという方は、どうか今後とも応援をお願いしますm(_ _)m
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また次回の更新でお会いしましょう。




