幼女、前世を思い出す
初作品となります…!あたたかい目で読んでくださると嬉しいです!
私は急いでいた。
自転車でただひたすら、走る、走る。梅雨が明けていない今日はまだまだじめっとしていて、朝とはいえ不快な気持ちは変わらない。生ぬるい風が頬を撫でていく。
今日は私の誕生日だと言うのに、電車の時間に遅れそうになっているなんて。
(誕生日に初遅刻とか、マジ笑えない。遅刻したとしたら、きっと、学校の友達に笑われる)
満身創痍で自転車を漕ぐ。横断歩道の青色の信号が、チカチカと点滅していて。私はそこを全力で渡り切ろうとしていた。
急いでいたから、気付かなかった。信号無視した車が、私に迫っていたなんて。私は呆気なく、宙に舞った。突然の衝撃に驚く私の印象に残ったのは、鳴り響くクラクションの音と、私の横を滑っていった自転車、点滅していた青から変わる、真っ赤な信号機____
こうして私は不本意にも、地球とさよならすることになった。よりにもよって、自分の誕生日に。
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と、いうのを、全て思い出したミリアは、驚きのあまり鏡を見て固まった。
瞬きをしてみる。鏡の中の美幼女も瞬きをする。骨ばった手を前に突き出してぐーぱーしてみる。鏡の中の美幼女もぐーぱーする。鏡の中の人物と、自分が同一人物であると言うことに気付き、透き通った紫色の目が大きく見開かれた。艶やかなシルバーブロンドの毛先が揺れる。どうやら、転生後の姿は将来有望な美幼女らしい。
(こりゃ将来は釣書だらけだろうなぁ、)
親戚のおじさんみたいな感想を漏らすミリア。
「何をしているのですか!侯爵家の娘たるもの、いついかなる時も冷静でありなさい!」
驚き挙動不審になっていたミリアに、髪をすいていた侍女長から叱責が飛んできた。この厳しい侍女長の名前はエイミー。黒髪をひとつに纏めて、低めのお団子にしているのが特徴である。
(ひっ、怖いねえ、エイミー…エイミー、?それ、とぅる♡らぶの主人公、ミリア・エヴァンスのお目付役で、ゲスヒロインミリアのわからせ隊長じゃ…)
とぅる♡らぶ、正式名称、マイ・トゥルーラブ。これは、前世で私がプレイしていた乙女ゲームだ。この乙女ゲームの舞台は中世ヨーロッパ風の、よくあるやつである。主人公ミリアは侯爵家の一人娘で、15歳から入学する学園で様々な攻略対象者たちと恋をして、最終的に結ばれたり、結ばれなかったり、とにかくキラキラな青春を過ごすのだ。ここまでは普通の乙女ゲームと何も変わらないと思う。異色なのはここからだ。
エヴァンス家は、財政が傾いたせいで麻薬の密売をしていて、かつミリアに対する攻略対象者たちからの好感度が低いとそれがバレて摘発され、一族郎党処刑されるのである。
そしてミリアがゲスヒロインと呼ばれる理由、それは、家の力を使って攻略対象者に近寄るライバルを蹴散らしていくから。あゝ、なんて恐ろしい。
もちろん蹴散らされた元ライバルは、命があればいい方。ライバルたちの屍(物理)の上で、ミリアの幸せは成り立っているのだ。製作者に圧倒的に足りないのは倫理観。前世からヒロインが終わっているゲームとして有名でした。
(最悪… あのゲスヒロイン、ミリアに転生しちゃったんだ…まんまラノベじゃん!)
一度目の人生が終わり、二度目の人生が始まっただけでも衝撃なのに、転生先がミリア・エヴァンスだったことで頭の中は混乱を極めている。一度状況を整理しなければならない。
ミリアは作中で、周りのライバルをいじめ抜く、甘やかされて育ったわがままな娘として描かれていた。その中で侍女長エイミーは、プレイヤーたちから見ても厳しくミリアを叱る、通称「わからせ隊長」だった。
それがどうだろう、ミリアとしての記憶を遡ってみると、甘やかされた記憶は一切ない。夕食も家族とは月に一回しか一緒に食べることが出来ず、使用人からは冷たくあしらわれている。特に侍女長からのあたりは凄まじく、しつけと称して服で隠れる場所に手をあげられたこともあった。
(なにかおかしいのでは…?)
これは、早急に解決するべき問題かもしれない、と思ったミリア。支度を終え、侍女長が出ていくと、メイドが来て朝食を用意し、そばに控えた。
自室での朝食は前のミリアが望んだようだ。大きな広間で一人寂しく食べるより、慣れ親しんだ自室で食べたい、と告げたような気がする。ため息を吐かれながらしぶしぶ受け入れられた。
(待って、朝食がこれって、どういうこと!?)
ミリアの前には、少しだけ肉が付いた魚の骨と、萎びたレタスのような野菜が皿にのせて置かれていた。とても侯爵令嬢に出すとは思えない朝食もどきである。
(やばい…やばいよ…犬でももっといいもの食べてるよ…)
ミリアは何らかの要因で使用人から虐められていたのか、と理解した。おそらく、大広間で食べなくなったときからこのいじめが始まったはずだ。
(自室なら部下のメイドしかいないから何を出しても分からないもんね。そうだなぁ、こんな朝食もどきじゃなくて、和食が食べたい!出汁が飲みたい!味噌汁〜!)
朝食が到底人の食べ物とは思えないせいで、完全に頭の中が食べ物のことでいっぱいになっている。ミリアの記憶から、この世界でまだミリアは和食に欠かせないコメや調味料に、出会っていないことが分かった。そうと決まれば行動一択。ミリアは猪突猛進型、前世から思い立ったが吉日をモットーとする少女であった。既に彼女の頭の中には、食べたいものが次々と浮かんでいる。
(決めた!和食を作ろう!全ては私のため。私のお腹のため。侯爵家の権力を奮うことも厭わないよ)
想像しただけでおなかがぐ〜っ、と鳴った。侍女長エイミーに聞かれていたらはしたないとブチ切れられる所業である。
(生理現象〜生理現象〜仕方ないよねえ。エイミーがいなくてよかった)
ごはんの力で、お母様が良くなるかもしれない、前のミリアが呟いた気がした。
(そうだ、ミリアのお母さんは、ミリアが10歳の時に亡くなるんだった!)
またもや早急にどうにかしなければならない問題にぶつかってしまった。恐らく、ミリアが四歳の今、母コーデリアは虚弱になっているはずだ。あまり外に長くいられない、とか命に関わらないその程度。でも、それがだんだん酷くなっていく。そういうシナリオだったはず。とにかく、母親の体調改善が急務であると意気込むミリア。
(もしかして… お母様が病弱で、女主人の役目を果たすことが出来ないから侍女長がこんなに幅を利かせているんじゃない?)
鬼の所業。さすがミリア筆頭わからせ隊長エイミー。しかし、そうと分かればあとは対処するだけである。何より母親の体調回復に精を出すことに決めた。
(昔から私はやればできる子だからね。お母様のために頑張るぞ〜!)
こうしてミリアはまず取り組むことを決めた。
①母親の体調改善
②使用人の入れ替え
③和食をつくる
(うんうん、我ながらいいんじゃない?使用人や侍女長については、なんでこんなにミリアに対しての態度が悪いか調べなくっちゃね)
もはや態度が悪いとかの域を超えているが、ミリアは昔から鈍感かつ忍耐強い性格であった。
(よし、待遇改善のために頑張るぞ〜!)
えいえいおー、と決意したところで、おなかが悲鳴をあげた。決意してもお腹は膨らまなかったようだ。