八本目 依頼と武器屋 Ⅰ
この日、ユイ・ナナサワは冒険者であるレイ・スタンス、武器屋であるライク・コークスと共に初めての依頼を受ける。
何故、武器屋も一緒なのかと言うと、実のところユイはまだ自分の武器が決まっておらず、今回の依頼はその武器のお試し会を兼ねているからだ。
ユイは朝、約束の時間にギルドに着いた。
「あ!レイさんおはようございます」
レイはギルドに先に着いていて、依頼の紙を選んでいるようだった。
「ああ!おはようございます、ユイさん」
レイさんと一緒に依頼を受けるのは少し緊張する、でも、それと同時にワクワクもする。まるで学校の入学式をもう一度受けているみたい。
そしてふと思う。
「あれ店主さんは?」
店主さんの姿が見当たらない。もう時間だと言うのに……
「ああ、ライクさんですね。なんかまだ、来てないようなんですよ」
「……そうですか」
困った、武器がなければ、依頼は受けられない。そのため前回、ユイは依頼を受けることがてきなかった。
もう少しすれば来るだろうか、と思っていると……
ガシャ ガシャ ガシャ
「二人ともお待たせ」
大量の武器を持ったライクが足音と共にやって来た。
「ライクさん!?」
「店主さん!?」
「準備してたら遅れてしまって、ごめんなさい」
店主さんは謝っているがそれどころではない。
腰のベルト、肩に斜め掛けになっているベルト、太もものベルト、ありとあらゆるベルトに武器がくっついている。それでは足りなかったのか、背中のかごにも幾つか武器が入っている
その姿はまるで武器でできたの鎧の様だ。
「一体どれだけ持って来たんですか!?」
まさかこんな形でレイさんの驚いた表情を見ることになるなんて……
「ん?だいたい持って来たよ。
ナイフ、短剣、片手剣、両手剣、大剣、レイピア……」
店主さんの数えていた指が何回か折り返した。
「では、こちらの依頼で受理いたしますね。初めての方が一人いらっしゃるそうですが……レイさんがいるなら心配ありませんね!」
受付嬢はニコニコしているが、商売での笑みと言うよりは、こう……ぶりっ子してる様な……
と言うことで、ユイ、レイ、ライクらはパーティーを組み、今回二つの依頼を受ける事にした。
午前に "スライム討伐"
ここでユイに合う武器を絞る。
その後、昼食休憩、一度ギルドへ戻り精算し、そこで昼食を食べる。
午後に "ゴブリン討伐"
ここで最終的にユイに合う武器を決める。
大まかにこんなスケジュールで行くことになった。
まずはスライム討伐と言う事で、ユイらは北にある草原に向かった。
「スライム一匹につき5モルってお得じゃないですか!!」
ユイは初めての依頼だからか先陣を切って草原へ向かう。その勢いは今にもスキップをし始めそうだ。
「ナナサワさん、先頭に立つならせめてなんかしらの武器を!いつ接敵するか分からないからな!」
「ライクさんも早く!敵と言ってもスライムですよ。気楽に行きましょう!」
レイもパーティーを組んでの依頼は初めてのためか、意気揚々だ。ユイとレイは心身を揺らしながらスライム討伐へ向かうのに対して、ライクは2人に糸を引かれる様にして向かう。
ここは北の草原。恐らくギルドから最も近い冒険者の狩場だろう。主にスライムを代表とする小型の弱いモンスターが出没する。
「レイさん!店主さん!いましたよ!あれがスライムですか!」
『プゥニィィ』
「可愛いですね!」
「そうですね!」
「情を持つな、君の5モルだぞ。」
スライム
雑魚モンスターの王、その弱さで言えば横に出る者は居ない。ほとんど無害なのだが、特定の時期に大量発生するのと作物への被害が度々発生する為、討伐対象となっている。
『プゥゥウ!』
「ひゃわぁ!くっついだぁぁ!」
ベシッ! レイのビンタがスライムに直撃する。
『ブッ、』ペチャ
「大丈夫ですか?ユイさん?」
「あ……うん、大丈夫です……」
ライクはそのはたき落とされたスライムと同じ目で二人を見た。
茶番じゃんね。
ここで、ライクが話出す。
「さあ、ここからが本題だ。こいつは強く叩いたところでそう簡単にはやられはしない。確か……打撃には強かったはず……」
先程のスライムは仲間を呼んで来たのか、気付いたら三匹程に増えている。
「つまりは現時点では武器が必要になる。そしてナナサワさんはどの武器を選ぶのか?」
「そ、そうですね……私は……」
翼を得た雛鳥は鳥となり、空を飛ぶことになる。
〜〜
グサッ、
ユイの攻撃が見事に地面に当たる。
「店長さんの武器当たらないんですけどぉ〜!!」
「両手剣はあってないみたいだね。」
ユイが両手剣を持って十数分その攻撃は空を切って、疲労の為か振り方も怪しいまま地面に突き刺さっている。
ユイは初めて剣を持つ、前の世界で経験があるならば、恐らくゲームの中でしかその剣を持ったことがなかっただろう。
「この欠陥武器〜!」
「心外だな。どう思うレイ君、あの様子だ。後で剣術でも教えてあげてくれ」
「僕の剣術は独学ですが……大丈夫ですかね、」
「なら自分も教える。独学だか……」
スライムらを軽く巻いて、ユイを呼び戻す。
スライムは普段、鈍足なのだ。
「ハァ、ハァ……両手剣は私には、重すぎます!もっと、軽いのでお願いします!」
「そうかな、そうかも。それなら……」
ライクは腰のベルトの鞘から片手剣を抜き、
左腕に元から備えていた盾を構えて見せた。
「いいかい、ナナサワさん?これなのだが、盾はこう構えて、剣は……まあ、辛くないように持ってもらって、基本的にはこの型で、とりあえず構えてみて」
「あ、はい」
店長から片手剣と盾を貰う、どちらも鉄の重みを感じつつも、両手剣と比べるとかなり軽い。
きっと、店長は私に剣術的なものを教えようとしているのだろう。
でも、見た感じはさっぱりだ。とりあえず見様見真似で構えてみる。
「こ、こうですか?」
「うん、割といいね。あと、足を肩幅程度に開いて、そのままゆっくり膝を落としながら、利き手側の足を引いていって。」
言われた通りしてみると、腰からズッシリとした感覚が生まれる。自分の体重が地面に真っ直ぐ降りて、両足で大地を踏み締めてる、みたいな?
「よし。そしたら盾が前に来るだろ?まずはその盾でガードして、スライムの攻撃のタイミングを見計らうんだ。しばらくして、タイミングが掴めたらその片手剣でスパンッ!と。」
「スパンッ?」
少し、自分がスライムを倒す姿が少し見えて来た気がする。
「うん、いい感じだ。そしたら剣の方はレイ君に習うといい。」
「えっ!丸投げですか!?ライクさん!!」
「ああ、武器屋のへっぽこ店長より聖剣祭の従者様の剣技の方が優れるさ。」
「そ、そうですか……わかりました。やってみます!」
こうしてユイの片手剣の扱いはレイが教えることになった。
「そうだね…それじゃ、剣を少し借りてもいいかな?」
「え、えっと…」
「剣先を下に向けて、そのまま持ち手を僕の方に」
「こ、こう?」
「はい、少し借りるね」
ー片手剣ー
両手剣より刃渡が若干短く。刀身の厚み、幅と共に少し控えめである。持ち手も短くなっており、片手で扱える様に軽量化や縮小化されている。
しかしながらも、歪みなどは一切なく、安心感がある。
「これは、扱いやすいね……」
「当たり前だ。」
「ちょっとライクさん!」
「すまん。でもこだわりが詰まっているんだよ」
「そんなの分かってますから……」
「ふふっ、二人ってば可笑しい。」
ユイは笑っていた。前とは異なる世界で、笑みを見せられる様な人が出来たのだ。
「……そ、そんなに可笑しいですかね?」
「……まったくだ。自分は黙って置くから、後は頼んだよ。レイ君」
小さくも強靭な刃は、異世界から来た、少女の翼になり得るのか。
〜〜
教えるの苦手ってレイさん言ってたけど、比喩じゃなくて、本当に手取り足取り教えられてしまうとは……
彼のボディタッチは、ちょっと刺激的だったかも……
2度目になる、スライムとの交戦。
ユイは盾を正面に構え、スライムの動きを見る。
『プゥ!プゥ!プゥ!』
ペタペタとスライムの攻撃を防ぎながらタイミングを掴む。今の彼女ならば、レイのビンタが無くとも立っていられる。
『プゥゥ!』
ココ!
レイさんが教えてくれた。
右足を軸に、左足を素早く引いて、それと同時に右手にある片手剣を振り下ろす。
身体で覚えてる。レイさんが足に触れ、手に触れ、武器に触れて教えてくれた斬撃をもう一度……
ユイの攻撃は見事にスライムに当たる。
刃がスライムにプチュっと噛み、そのままの勢いで振り下ろす。彼女の刀身の軌道上にいたスライムは空中で割れ、倒された。
「きれいだな。」
「そうですね。」
翼があるから飛べるのでは無い。翼があっても飛び方を知らないのでは意味がないのだ。
そして、空を知った雛鳥はどこへ飛んで行くのか、どこまで高く飛ぶのだろうか。
8話目読んで頂きありがとうございます。
一年以上この世界を放ったらかしだったので、またここに来れて嬉しく思います。
誤字脱字等ありましたらご指摘ください。




