麻薬が切れても治まらない
(マトリ(麻薬取締官)に家族なんていないほうがいい)
新人だった俺に天涯孤独の上司が言った言葉だ。
家族がいるって事は家族を人質に取られる心配が常に付きまとうって事らしい。
当時の俺はふぅんとしか思わなかったが……今なら理解できる。
「……」
居間で高校生の娘と二人きり。
凄まじい警戒のオーラを感じる。
娘は人に虐待された猫。私は興奮状態で何をするか分からないチンパンジーってところかな?
……親1人子1人。私達は仲のいい父娘だった。
・
中華料理屋の地下。椅子に縛り付けられた下着姿の娘と娘の喉元にナイフをあてがう青年。
その青年に銃を向ける俺。
「僕は捕まるの?」
もちろんそうだ。だから娘を解放しろとわたしは彼に言った。
麻薬カルテルに潜入捜査して1年。
『ボス』は意外にも幼さの残る普通の大学生の青年だった。
「……そうかぁ。僕はもう成人してるから重い重い罪になるよね」
「まだ若いんだ。やり直せる」
「嘘だね。日本に生まれてまだ20年だけど。この国がそんなに優しくないのは知っている。だから現実と未来を見たくない薬を買う客は絶えないんでしょ。……いい加減銃をおろしてよ。状況は理解できるでしょ?」
「分かった」
仲間が来るまで何分かかる?
先ほどGPSは壊されたが、壊されたのは中華料理屋の裏道だ。この中華料理屋を特定するのは簡単だろう。
店員達はとぼけるだろうし、反抗するだろう。それに地下への入口はかなり分かりづらかった。
20分。それぐらいはかかるだろうな。
俺は拳銃を床に落とした。
その瞬間。青年は恐ろしいスピードで私の腹と喉を殴った。
「うっ!んごっ!?んごご!?」
青年は膝をついた俺の鼻の穴に勢いよく指を突っ込んだ。
鼻血が吹き出たが、痛みは一瞬で無くなりどんどん気持ちよくなってきた。
宇宙?宇宙かこれ?宇宙が見える。
「んーー!」
娘の声。娘にもなにかしたのか。
「……なにをした」
「パラダイス。自慢の新作だよ。ちょっと吸っただけでたまらないでしょ?娘さんにはシンプルに上と下のお口にジャブちゃんを。彼女。処女じゃないから安心してね。お父さん。僕が保証する」
「あばばばば。おどうざぁぁん」
何がシンプルにだ。泡を吹いて痙攣してるじゃないか!この野郎!地獄に落としてやる!……うわぁ。宇宙〜。
宇宙!宇宙!あっ!目の前に女の子星人!許さないぞー!僕の宇宙ブレードでシュバ〜してやるぅ。
「ズボンの上からでも10代みたいにギンギンなのが分かるよ。パラダイスはね。穴さえあれば動物だろうと蜂の巣だろうと『ぶち込める』超興奮剤さ。僕はおっさんに犯されるのはごめんだから退散させてもらうね〜。あーあ。逮捕かぁ。八つ当たりは出来たからいいかぁー」
記憶はここでない。
天国で宇宙だった事は覚えている。
青年は駆けつけた俺の仲間に中華料理屋の厨房で取り押さえられたらしい。
俺と娘は無理やり引き剥がされ入院。
そして何ヶ月かして自宅に帰ってこれたのだが……
…
「そろそろ大学受験だなぁ」
「うん」
娘は俺に怯えている。
無理もない。
「実はあまりお金出せないかも」
「え?」
嘘だ。
俺は獣医になりたいという娘の夢を利用している。
「お前が卒業するまで学費と仕送りだけでウン千万円はかかる。バイトもしたこと無いお前に稼げるか?無理だろ?」
「……嫌だよ」
「……でもお前がお父さんと「またしてくれたら」。お父さんもお金払いたくなるかもなぁ」
「!?」
この瞬間。俺はチンパンジー以下の畜生に成り下がった。
全てパラダイスが悪い。
麻薬が憎い。俺は命をかけてこの世から麻薬を無くす。
娘よ。その為の犠牲になってくれ。
「最低!」
娘の冷たい視線と罵声が私の股間をより一層硬くさせた。