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【幕間】魔王軍の事情

 一方の魔王軍。

 籠城戦開始時から散々に苦しめられてきたセプテム城へ、ついに大打撃を与えたことで快哉をあげている……かといえばそうではなかった。

 書類を手にした参謀長シャルルが、青ざめた顔で魔王へと報告する。

「陛下、恐れながら申し上げます。ヴリトラ様が着陣してから兵站物資が壊滅状態です。ヴリトラ様は今日一日だけで第二軍一ヶ月分の糧食を食べつくしました。魔石の消費量も異常です。備蓄の3割をすでに吸収しています。……恐れながら、この消費量では後5日もここにいたら食料庫が空になります。冬を前にして、第二軍はなんの活動もできなくなる可能性があります」

 魔王軍にとって、冬に身動きが取れなくなるのは全滅するに等しい。が、すべて織り込み済みのヘルムートは苦笑だけを返す。

「長距離を無理して移動させたからな、余計に腹が減っているんだろう。大丈夫だ。明日セプテム城は落ちる。そうしたらヴリトラは一度本陣地に返すさ。待機しているだけならヴリトラもそれほど食事は必要ない」

 シャルルが深いため息をついた。

「陛下がこの戦争の初期からヴリトラ様を投入しなかった理由がよくわかりました。この様に莫大な物資を消耗されてはまともな用兵ができるはずありません。我が軍の兵站が崩壊してしまいます。仮に補給線を完全に確保し徹底した占領地の略奪を行っても、3ヶ月と持たないでしょう」

「そのとおりだ参謀長。そして我々はこの地を略奪しに来たのではない。征服しに来たのだ。生物のいない荒れ果てた土地を得てもなんの意味もない」

「おっしゃるとおりです」

「なに、たった一晩の辛抱だ」

「……もしパナケイア聖騎士団が降伏してきたらいかがされますか?」

「ん? 当然約束は守るつもりだ。命は助け、捕虜とする」

「恐れながら、生かしておく必要がありますか?」

 シャルルは魔族らしい冷淡な光を瞳に宿す。

 ヘルムートは苦笑した。

「君の気持ちもわかる。何しろこれほど我らを苦しめた城だ。普通ならば落城させて皆殺しだろう。ただ、な」

「ただ?」

 ヘルムートは目を細めると、どこかはにかむような顔になる。

「惜しいと思ってしまったのだ。あの城の守り手がな。我らを向こうにこれほどの籠城戦。間違いなく戦術の天才だ。殺すには惜しい。できるならば――我が幕下に加えたいと。それで一晩降伏の時間を与えることにした。すまないな参謀長。これは私のわがままだから、君にも相談しなかったんだ」

「いえ、私ごときの意見など。陛下の御意のままになされませ」

 そう言ってシャルルはかしこまった礼をする。一方で頭の中はまったく反対のことを考えていた。

 どうか、パナケイア聖騎士団が降伏しなければいい、と。

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