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新甲冑

 結界が破られるという想定外の事態が起きた瞬間、リフィアはすぐさま叫んでいた。

「総員待避ーーーーっ!!」

 指揮所に詰めていた騎士、従士たちが慌てて席を離れる。全員が急いでドアに向かうが、窓の外にはすでにドラゴンの姿が間近に迫っていた。

 リフィアは迷わず正面に向かい駆けると、全力で魔法障壁を展開した。炎の対抗属性である氷障壁が、雪の結晶に似た姿で指揮所の前面に浮かび上がる。

 先頭のドラゴンの火球が指揮所を襲った。

 それは他のドラゴンとは一線を画す攻撃力で、リフィアの出す最大出力の魔法障壁が一撃であっさりと崩壊した。爆風の余波によって窓にはめられていた特殊ガラスが割れ、リフィアの方へと降り注ぐ。

「くぅっ!」

 魔法甲冑を身に着けていなければガラスの破片で傷ついていただろう。思わず顔を腕で覆ったリフィアが次に見たものは、別の五頭のドラゴンが続けて襲ってくる姿だった。

 魔法障壁をもう一度張る余力は、リフィアにはない。

『嘘でしょ、こんなところで終わりなのーー』

 巨大な口を開けたドラゴン達の喉奥に紅蓮の炎が瞬く。それが人生最後の光景なのだとリフィアが観念しかけたとき、

 リフィアと外のドラゴンの間に、突如割って入るなにかがあった。それは空中で静止すると、リフィアのものよりさらに巨大な魔法障壁を展開する。

 五頭のドラゴンが一斉に火炎を吐き出した。迫る火炎を物ともせず、白く輝く障壁がリフィアと指揮所を守る。

 リフィアは呆然とその情景を見つめた。白い光に包まれているそれには、背中に美しい翼が生えている。

「天使……?」

 そんな感想が思わず口からこぼれ落ちる。ドラゴンの火勢が衰え、やがて消えた。純白の天使はついに五頭の竜が繰り出す猛火を耐え抜き、翼をもう一度はためかせた。

 天使が首をめぐらして、瀟洒な造りの(ヘルム)を向ける。その時初めてリフィアは、それが魔法甲冑であることに気づいた。

『リフィア、大丈夫!?』

「エイル、なの?」

『ごめん、遅くなった! 今助けるからもう少しだけ待ってて!』

 魔法甲冑から響くのは聞き間違えるはずもないエイルの声だ。しかしその魔法甲冑はあまりに美しくて、神々しくて、リフィアはしばらく夢の中にいるようだった。

 エイルの駆る魔法甲冑は再び翼を広げると、目で追うのも困難な速度で飛び出した。

 最も至近にいた竜の一頭とすれ違う。すれ違ったドラゴンは、一拍の間をおいた後叫び声を上げた。見れば前足の一つが切り落とされている。エイルの魔法甲冑にはいつの間にか、これも白く輝く光剣(ライトサーベル)が握られていた。

 前足を切られたドラゴンはたまらず戦線を離脱する。仲間の敵を討たんと、残る四頭のドラゴンが咆哮とともに殺到する。

 エイルはドラゴンをまったく置き去りにするスピードで飛んだ。星型に似た光跡を残し四頭の間を飛び回る。

 ドラゴンの足が、翼が、首が、切り落とされ宙に舞った。断末魔の叫び声を上げて竜たちが落ちていく。地上最強を誇る生き物が、なすすべなく倒されていく。

 最初に中央塔を襲ったドラゴン……あのリフィアの魔法障壁を一撃で粉砕したグレートドラゴンが、高天からエイルめがけて突っ込んだ。しかしエイルが迎え撃つ前に急に減速する。何か背中に向けて叫んでいるようだったが、やがて一声咆哮すると、ふいっと背を向け魔王軍本陣へと向けて飛び去った。

 それを合図に城を襲っていたドラゴンがすべて撤退を開始する。翼や足を切られた者は仲間の竜に支えてもらいながら、よろめきつつ飛び去る。エイルは強いて追撃することはなく、騎士団員に警戒の継続を指示しながら竜軍の撤退を見送った。

 全竜が敵陣へと戻ったのを確かめて、エイルはセプテム城へと降下する。大穴の空いた本城郭指揮所へと、小鳥が止まるように翼を畳んで降り立った。

「ふぅ」

 着地して兜を開け思わず息を吐くと、すぐに同じく兜を開けたリフィアが走り寄ってきた。

「エイル!」

「わわっ、リフィア」

「もうずるいわよ! 最高のタイミングで助けに来るんだから! ドラゴンの大攻撃相手に三分保たせてなんて無茶も言うし。でも助けに来てくれて嬉しかった!」

「あははは、うん、遅れてごめん。間に合ってよかったよ」

「ふふふ、私もまさかエイルが飛んできてくれるなんて思わなかったわ。……それがエイル専用の魔法甲冑?」

「ああうん、これが――」

「それは私が説明しよう!」

 にゅっ、と急にニコが出てきたのでエイルもリフィアもびっくりして息を止めた。そんな二人に構わずニコはペラペラと自慢げにしゃべり始める。

「これぞ私とスコラ君の最高傑作、騎士団長エイル専用魔法甲冑『サンタ・マリア』だ! 炉心宝玉はペガサスダイヤモンド! 装甲材はミスリル銀とオリハルコンの合金! 何より特筆すべきは魔法甲冑初の飛行能力を持ったこと! ペガサスダイヤモンドの飛行特性と浮遊魔法の合成、そしてエイルの莫大な魔力量と出力で初めて実現した夢の機能。背部の推進機関からもたらされる最大推力は1000kgf! あらゆる地表から滑走なしで瞬時に飛び立ち最高速度は音速に届く! 最高高度は1700メートル! まさに魔法甲冑の常識を覆す最高の機体だと思わんかね!」

「どういうテンションなの」

「口調壊れてますよ」

「はーっはっはっはっは!」

 得意絶頂で高笑いするニコに、リフィアは呆れ、エイルは苦笑する。

 ふたりとも、なんだか気が抜けてしまった。先程まで籠城戦最大の危機だったにもかかわらず、奇妙なおかしみがこみ上げてくる。

 いつしかニコに合わせるようにエイルもリフィアも笑いだしていた。

▽『サンタ・マリア』【性能諸元】


《エイル専用魔法甲冑》

全高 185cm

重量 55kg(浮遊魔法により起動中の重量は1/3以下)

装甲材質 ミスリル銀とオリハルコンの合金

炉心宝玉 ペガサスダイヤモンド

武装:

・ライトサーベル×1

・ミスリル製魔法剣×1

・アンチマジックシールド×1

特殊装備

・空中機動用ウイングユニット、及び背部スラスター

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