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ロープウェイを作ろう!

 翌日。

 セプテム城本城郭の城壁上に、百名ほどの騎士団員が集まった。胸壁には大きな骨組み台座と滑車付きの乗り台が作られている。

 台座からは細い糸が貼られ、第一城壁と繋げられていた。台座の一番近くにはエイルとニコがいる。

「どうだいエイル、さっそく作ってみたよ。この本城郭と第一城壁を空中で結ぶロープウェイだ。張っている糸は私特性の鋼線。実験では1トンの重量にも耐えたから、騎士たちが鎧付きで乗っても十分安全さ」

「すっご〜〜い! 予想してたのよりずっとすごいよ、さすがニコさん!」

 アラクネの糸による移動を見たエイルは、自分たちも丈夫な糸を伝って空中を移動できないか考えたのだ。そこでニコと相談し完成させたのがこの簡易ロープウェイだ。

「これなら第一城壁へ移動するのに橋を歩かなくすむし、一度に大勢移動できるね。兵員の配置転換が断然スムーズになるよ」

「糸さえ張ればどこにでも道ができるのも魅力だね。敵の攻撃も問題ない。太さ1ミリだから普通の攻撃は当たらないし、万一投石攻撃が直撃しても弾いてすり抜けてしまう。ドラゴンの火球にも数発なら耐えられるよ。何しろ私が作った特殊鋼線だからね、そのへんの抜かりはない」

「さっすがニコさん! ねえねえ、さっそく試乗してみてもいい?」

「もちろんだとも! ぜひ乗り心地を体感してくれ」

「ええ? エイル、初めは他の騎士団員で安全確認してからのほうが……」

「いってきまーーす!」

 リフィアが止めるのも聞かずエイルは滑車から垂れ下がった太い縄を掴むと、そのまま胸壁を蹴って空中へと飛び出した。

「わーーー、これ気持ちいいいいい!」

 エイルを乗せたリフトはなめらかに動き、あっという間に第一城壁の胸壁へとたどり着く。ぽん、と軽やかに着地すると、エイルは後ろを振り返り本城郭側に手を振った。

「ニコさーーん! これすごいよ! こんな楽な移動法初めてー!」

「ハッハッハッハ、初乗りは成功だね!」

 拡声魔法で会話する二人。エイルの様子を見て他の騎士団員も次々とロープウェイを試していく。

「はやーーーい!」

「気持ちーーー!」

「アーーアアーー!(?)」

 またたく間に本城郭から第一城壁へと移る聖騎士たち。ラウラとともに時間を計測したエイルは目を丸くする。

「一本のロープウェイでも10人の移動に1分かからないんだ。これはいいね」

「十数本糸を貼れば百名単位の移動が瞬時に行えますね。外壁ともすぐ繋げられるでしょうし、往復も容易になります」

「なにかあったときの待避もこれならすぐにできるね」

「まこと、よくこんなことを……エイル様の思いつきは本当にすばらしいです」

「えへへー」

 その日の実験でロープウェイの有用性が確かめられた聖騎士団は、さっそくニコとともに複数架線を設置することに決めた。


 ◆◆◆◆


「アラクネ兵が、夜襲で敗北……。敵には損害なし……」

「やつら、信じられん。こちらの作戦をすべて読んでいるのか?」

 夜襲攻撃の失敗で、魔王第二軍司令部は重苦しい空気に包まれていた。起死回生を賭した作戦に失敗し、司令部全員が意気消沈している。

 参謀長シャルルも例外ではない。第一次総攻撃では第二軍司令部の無能を指弾したシャルルだが、今回の作戦はほとんど彼女が立てたものだ。黙念と沈み込むのも仕方なかった。

 同じく沈鬱な表情をしていたガップ将軍が、それでも重たげに口を開く。

「安心しろ参謀長。お主一人に責任を押し付けるつもりはない」

 以前とは正反対のことをガップは言った。

「作戦案を承認したのは儂だ。必要な準備を指示し確認したのも儂だ。第二軍の最高指揮官が儂だ。すべての責任はまず儂にある」

「閣下」

 思わずと言った調子でシャルルはガップを見上げた。その瞳には、初めて老将に対する素直な敬意が表れている。

 フン、と将軍は鼻を鳴らす。

「だが、これからどうする? このまま遠くから攻撃を続けても、あの城を落とす見込みは少ないだろう。囲んで補給を絶とうにも、城の背後へ回るにはセプテム山系をまるごと迂回せねばならん。遮断は不可能だ」

「申し訳ありません閣下。私も、今はすぐには次の作戦の立案が……」

 言葉少なにシャルルがそういうのを見てガップの目にかすかな動揺が走る。いつの間にかガップはこの小さな参謀長を大いに頼るようになってしまった。シャルルならば、なにか新たな打開策を用意できるのではないかと期待していたのだ。

「ともかく、投石と射撃は続けるべきです。散漫な攻撃を続けてもあまり意味はありませんが、敵に回復する隙きを与えては……」

 シャルルがそこまで言いかけたときだった。

 第二軍司令部の頭に突然響く声があった。特別な魔力通信だ。

 魔王軍はエイルたちと違い魔力による通信術はほとんどない。全員が人類であるパナケイア聖騎士団と違い、魔王軍は多種族が混交した存在であるためだ。

 魔王軍全兵へ魔力通信を使用できるのはただ一人だけ。

 通信を聞いて司令部全員の顔色がはっきりと変わる。ガップなどは驚愕の面持ちで呟いた。

「まさか、御自らが来られるとは」

 にわかに明るくなったシャルルが弾んだ声で応じた。

「そういう方なのです、陛下は」

「なんとも軽快に動く方だ。総司令官だぞ」

「ええ、ですが助かりました」

 隠しきれない喜びを胸にシャルルは言う。

「将軍閣下、この戦勝てますよ」


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