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ガップVSメングラッド 2

「ヌゥあぁっ!」

 ガップが長槍を大きく横薙ぎに振るう。メングラッドは鎧を着ているとは思えない身軽さで宙に飛びそれをかわした。飛び上がった姿勢のまま、ガップの首元へ向けて右手の光剣を振るう。

「シッ!」

「むうっ!」

 ガップはすぐに片手を槍から離し、魔力障壁を展開してそれを防ぐ。メングラッドは「ちっ」と舌打ちするとガップの胴体を蹴り、大きく後ろへ飛び退いた。

 魔法甲冑で蹴られたというのにガップの体はびくともしなかった。岩でも蹴ったみてーだ、とメングラッドは思う。体幹の据わりが尋常ではない。ガップ将軍はメングラッドの考える以上に武人として鍛え上げている。

 先の一撃を防がれたこともそうだった。メングラッドは先程、光剣の刀身を微妙に伸ばして斬撃していた。もしガップが間合いを見切って避けたなら伸びた刃先が首元まで届いただろう。しかしガップは切られる直前、光剣の刃が伸びていることに気づき障壁で防いだ。正確に長さを見抜いたのか違和感を覚えた程度なのかはメングラッドにもわからないが、この戦闘中に恐るべき観察力だった。身体能力だけではない。人間より遥かに長い寿命による豊富な戦闘経験をガップは持っている。

 ガップの方もまたメングラッドの絶技に驚いていた。光剣は刀身を形成するのに非常に集中力を要する魔法術だ。イメージにブレがあると光の剣としての形が定まらず、ただ魔力を噴出する筒となってしまう。刀身を形にするだけでもセンスと訓練が必要で、常人で一年はかかると言われる。

 そんな光剣を、メングラッドはわずか数センチとはいえ自在に変化させた。光剣使いとは何度か戦ったこともあるガップ将軍だが、そんな技を使う相手は初めてだった。

 結果、二人が同時に思ったことは、

『こいつ(こやつ)、強い……!!』

 互いの認識を改め直し、二人は慎重に間合いを取る。



 後ろで見守るエイルとリフィアもまた戦いの成り行きに驚いている。

光剣(ライトサーベル)が効かない!?」

「恐ろしい魔力量と密度ね。魔王軍幹部クラス、いえ、正しく幹部なのだったわ」

「ど、どうしよう。メングラッド勝てるかな」

「落ち着いて。彼女の実力は私達が一番よく知っているでしょう。どんな強敵にだって遅れを取るはずがない」

 そうは言いつつも、実際リフィアにもこの先どうなるか読めなかった。

 魔王軍幹部と一対一で戦うなどということは、パナケイア聖騎士団もついぞ経験のなかったことだからだ。

『メングラッド、負けたら承知しないわよ。あなたが負けたら誰より悲しむのはエイルなんだから』

 リフィアは心のなかで呟いた。


  ※※※※


 一騎討ちの決着はなかなかつかなかった。何十合も打ち合って、さすがのメングラッドとガップも互いに息切れしている。

「はーーっ、はーーっ、この、こしゃくな小娘め……」

「ぜえっ、はあっ、クッソこいつしぶてえ。いい加減倒れろや」

 もともとスピードで相手を翻弄し一撃を入れるスタイルのメングラッドはガツガツ切り結ぶタイプではない。決して体力がない方ではないが、今の戦いは疲弊しやすかった。

 対してガップも年齢に加えて最初から全力で攻撃を繰り出したことが裏目に出ていた。最初から力で叩き潰せると思い槍を振るったことでスタミナ配分を間違えていた。

『くっ、若い頃ならばこの程度で息切れなどしなかったものを。儂も老いたということか』

 ガップが肩で呼吸しながら悔しげにメングラッドを見る。お互い限界が近いことはわかっていた。

 息を整えつつガップは考える。

『もう何度もやつと切り結ぶ体力は残っとらん。となれば一か八か、勝負を決する為より強い技を出さねば。次の一撃でさらに大きく踏み込み、やつに肉迫する』

 覚悟を決めたガップは、大槍を構え直す。それを見てメングラッドも再び両剣を持ち上げた。

「行くぞ小娘っ!」

「来い!」

「うおおおおっ!」

 ガップが雄叫びを上げてメングラッドへと突進する。彼我の距離は一気につまり、危険とも言える間合いに入る。しかし大きな踏み込みで得た速度は、ガップの槍にさらなる鋭さを与えた。必殺の突きがメングラッドへ向けて放たれる。

「――っ」

 間一髪のところでメングラッドが避ける。だが無理な体勢で体をひねったため、次の一歩でわずかに体がよろめいた。

 そんなスキを見逃すガップではない。

「もらったああーー!」

 よろめいたメングラッドに向けて大槍を横に振るう。穂先は完全にメングラッドをとらえた、様に見えた。

 ガップが槍を振るった先にメングラッドはいなかった。獲物を見失って混乱したように動きを止めたガップを次の瞬間、上から光刃が襲った。

「なにっ!?」

 ガップは慌てて身をかわすが、避けきれない。赤い光はガップの左肩へ深々と刺さり、そのまま腕ごと斬り放った。

 メングラッドが地面へと降り立つ。よろめいたように見せかけてガップの大振りを誘った彼女は、槍の動きに合わせて光剣を添わせ自分の身体ごと回転し、上へと飛んだのだった。敵の槍が光剣と斬り結べることから思いついた技だったが、実際にできたのはメングラッドの類まれなセンスゆえだった。

「ぬおおおおおおおっ!」

 ガップが絶叫する。光剣で斬られた傷はすぐに焼き固められるため出血はしないが、深手には違いない。ほとんど勝負は決していた。

 赤い光剣を手に、メングラッドがガップへと近づく。左肩を抑えたまま荒い呼吸をするガップは、抵抗する様子もなかった。

「悪いな。これも一騎討ちだからよ」

 とどめを刺すためメングラッドが光剣を振りかぶる。最期を悟りガップは静かに目を閉じた。どこまでも、将軍というより武人らしい魔族だった。

 メングラッドの光剣がまさにガップ将軍の首を狩ろうとしたその時だ。

 突然目の前に炎の渦が出現した。メングラッドはあわてて後方へと飛び下がる。St.ヴェロニカの特性でこの程度の炎には傷も負わないが、一体何事が起きたのかと目を剥いた。

 逆巻く炎の壁が消えた時、そこにはすでにガップ将軍の姿はない。見れば老将は怪鳥ダイオウヒクイドリの背に乗って戦場を逃げ去りつつある。

 メングラッドは怒りで髪の毛を逆立てた。

「てめえ! これは一騎討ちだろうが!!! 逃げんなーーっ!」

 いくら声を枯らして叫んでも、ダイオウヒクイドリは止まることなく走っていく。手綱を握るのは小柄な魔族の兵士であり、背中ではガップ将軍がもがいていた。

 何事か騎手に向かって叫んでいるが、もうその内容はメングラッドには聞こえなかった。



「シャルルっ、貴様何を考えている! これは決闘だぞ! 今すぐ戻れ、戻って儂を――」

「もはや勝負は決しました。これ以上の戦いは無意味です」

「わかっておらんのか貴様! これは一騎討ちなのだ、負けた上に逃げ出したとあれば一生の恥、潔く散らねばならぬのだ!」

「っ」

 シャルルは歯を食いしばると、振り向きざまガップの顔をひっぱたいた。

 パアアン!

「いい加減にしてください!!」

「っ、」

「あなたがいま死んだら第二軍はどうなるのですか! 魔王軍は将軍のみが指揮できる絶対実力主義なんですよ! 将軍を失えば我が軍は崩壊します。ふざけた真似しないでください。あなたは第二軍の軍司令官なんです!」

 顔を張られたままの姿勢でガップは呆然としている。うまれて初めてこんなに叫んだシャルルは荒い息をついたあと、前を向いて再び手綱を握り直した。

「――閣下が負けたことは、率直に言って残念です。ですが私は参謀長です。閣下が死ぬことは許容できません。そんなに死にたいのなら、第二軍を撤退させ本陣へ無事にたどり着かせてから、自害でも何でもしてください」

「…………」

 ガップは何も答えなかった。シャルルはもう振り返ることはせず、ダイオウヒクイドリを本営へと向けて走らせた。

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