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幕間掌編 メングラッドと組み手

籠城準備期間のどこかで入れようと思いながら、結局挟む場所がなかった掌編ストーリーです。せっかく書いたので箸休めにここに置かせてもらいます。

 元来、万の兵でも籠もれるよう造られたセプテム城はすべてが広く大きく設計されている。本城郭中央の中庭もその一つで、1000人の兵士が十分に動き回れるだけの広さがある。騎士団にとってもこれはありがたいので、さっそく訓練場として騎士団員に開放された。

 その日、すこしだけ騎士団長の仕事が空いたエイルは、訓練場の様子見がてら自分も参加することにした。久しぶりに組み手の稽古でもしようかと思って、誰でもいいから手の空いている人組手に付き合って、と近場の団員を誘った。

 1秒後に後悔する。気安く応じて手を上げたのが、ニヤニヤ笑うメングラッドだったからだ。

「よろしく、団長」

「あ〜〜、えーっと、お手柔らかに、お願いします」

 よりにもよって近接戦最強の騎士に当たってしまった。誰でもいいなんて言わなきゃよかった! と悔やむがもう遅い。

 頭部を保護するマスクとグローブを付け、1メートルほどの間合いを置いて二人は構える。エイルは教本に忠実なしっかりと脇を締めた構え、対してメングラッドは両腕をやや開き適度に脱力した構えだった。騎士団員では少ないが、冒険者の武闘家職にこのような構えをするものが多い。

 一呼吸置いて、二人は組打ちを始めた。

 パナケイア聖騎士団では組手も立派な訓練の一環としてある。全身鎧で武装している騎士にとって、格闘戦はそれだけで十分モンスターを殺傷できる威力があった。しかもパナケイア聖騎士団は全員がミスリル銀以上の硬度の鎧を持ち、魔法で身体能力を跳ね上げている。騎士たちの拳はミスリル製のハンマーで敵を叩くのと同じだった。

 だから組手の訓練も単なる護身術ではなくしっかりやる。最低限マスクとグローブで安全に注意は払っているので、二人とも遠慮なく打ち合った。

 どうせ勝てやしないからと、エイルは最初から積極的に攻めていった。たった3年の訓練を積んだだけにしては驚くべき拳速で、エイルの魔力による身体強化がずば抜けていることがわかる。しかし並の騎士団員相手なら十分通用する速さも、メングラッドには完全に見切られていた。

 剣術では文句なく騎士団最強のメングラッドだが、格闘術も負けず劣らず一級品だった。エイルの拳を僅かな動きだけでかわし、カウンターを当てる。拳打、掌打、肘打ち、膝蹴り、上中下段どこに来るかわからない蹴り技。足運びで間合いをずらし、死角に潜り込み、視線誘導し、わざと大ぶりさせて隙きを作り、 痛烈な反撃を浴びせる。たまらずエイルが間合いを取ろうとしても、軽快な足さばきと巧みな重心移動でまるで捉えて離さなかった。しかもメングラッドの打撃は速度はあるものの明らかに威力を落としていた。

 それから30分ほど、エイルはこてんぱんにされた。もしメングラッドが本気だったら最初の3発でノックアウトされていただろう。殴られることよりも体力の限界から地面に膝をついたエイルを、メングラッドは多少息は乱したもののまだまだ余裕そうな表情で見下ろした。


「はっはっは、まあ、今日はこんくらいにしといてやるか」

「お、お手合わせ、ありがとうございました」


 荒い呼吸のもと、おもわず騎士学校時代に戻った口調で礼を言うエイル。メングラッドは快活に笑った。


「しかし団長は格闘戦の方はまだまだだな。オレが稽古つけてやるから三日に一回くらいこれやろうぜ」

「げえっ!? 本気で?」

「あったりまえだろ。オレはまだ寝技も投げ技も使ってねえんだぜ。ま、2ヶ月くらいやればすこしはモノになるだろ」

 もしかしてやっぱり嫌われてるんじゃないだろうか。そう思ってエイルは見上げるが、メングラッドの眼にはただただ年長者としての思いやりの光しかなかった。

 その眼には覚えがある。騎士学校時代の担当教官たちだ。彼女達もまた慈悲と思いやりでもって過酷に生徒をしごき上げたのだった。リフィアなどはその典型だった。

 団長になってもこれだけは変わらないなあ……とエイルは観念する。


「うう、よろしくお願いします……」


 明日からヒュギエイアさんに泣きついて膏薬をもらおうとエイルは心のなかで思った。

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