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戦果報告と三魔戦術 1

 本郭から第一城壁、外壁へと移動しなければならなかったエイルとリフィアの第一、第二騎士隊は、最初から外壁に詰めていたメングラッドとハイジーたちよりも突撃準備に時間がかかった。

 その間に、魔王軍先鋒は蹂躙されつつある。

「うっひゃ〜〜〜。なんというか、まあ」

 外壁門から外の様子を眺めたエイルは、視線をリフィアに向ける。

「自分で命じておいてあれだけど、すごいね二人は」

 まさしく炎鬼と雷神。騎士団の誇る二隊長の戦いぶりは凄まじかった。ヘンドリックスの会戦からまともに戦う機会のなかったメングラッドとハイジーにとって久しぶりの本領発揮だ。

 騎士として戦いの経験が違う、とエイルは思う。騎士団長になったものの、まだまだ戦闘面ではあの二人に追いつける気がしない。

 隣でリフィアがすねたように言う。

「私だってあれくらいできるわよ」

「え? いやまあ、うん、知っているよ」

「私だって二人に負けないくらい強いから」

「うん、それはよーく知っているけど。どうしたの急に?」

「べつに、なんでもない」

 まるで気づかないエイルにリフィアはぷいっと視線をそらす。「???」となっているエイルをよそに、魔法甲冑を起動させて兜を装着した。

「さ、私達も突撃しましょう。二人にばかり戦わせてはいられないから」

「ええ〜、私達いる? もうあの二人に任せといてよくないかな」

 実際エイルの戦術目標である敵軍先鋒部隊の潰走はすでに達成されていた。第三、第四騎士隊の突破力はエイルの予想より遥かに高かったのだ。

 しかしリフィアは力強く言った。

「何を言っているの。敵は叩ける時に叩くべきよ。私の突撃が二人に負けないっていうとこ見せてあげる」

「なんかリフィアすごいやる気になっていない?」

「全然そんなこと無いけど」

 うそだ〜、と思いつつ口には出さない。エイルは第三、第四騎士隊の方を見る。隊長二人の突破力がすごすぎて、やや敵陣に深入りしつつあった。

「うーん、まあ安全な撤退路の確保は必要か。よし、第一、第二騎士隊突撃準備」

 エイルの号令に合わせて騎士たちが魔法甲冑の兜を閉じる。胸の炉心宝玉が唸りを上げ、兜のアイレンズに光が灯った。

 エイルが魔法剣を引き抜き、敵勢に向けて突きつける。

「目標正面、敵先鋒集団! 第一、第二騎士隊、突撃!」

『マスハーール!!!』

 騎士を乗せた馬たちが土煙を上げ疾駆する。馬を駆る白銀の騎士たちの躍進は、そのまま戦絵巻になりそうな美しさだった。



 ◆◆◆◆



 数時間後、夕刻。

 セプテム城の大食堂は歓声に包まれていた。

「え〜〜っと、それでは初戦の大勝利を祝いまして――」

「「「「乾杯ーーーっ!」」」」

 エイルの掛け声であちこちでグラスが打ち合わされる。テーブルには所狭しと大皿料理が並べられ、飲み物は貯蔵されていたワイン、果実酒、ビールの樽が開けられた。激闘を終えたばかりの騎士団員も、待避所で恐怖とともに勝利を祈っていた避難民も、一緒になって喜んでいる。

 戦闘終了後、セプテム城では騎士団員、修道女、避難民も全員合わせて盛大な宴が催された。

 それもそのはず。籠城戦初日の戦果は攻め寄せてきた敵を撃退したばかりでなく、軽傷者16、死者、重傷者ともに0。文句なしの大勝利だった。

 涼やかな泡を立てるシャンパンのグラスを持ちながら、エイルは目の前の情景に目を細める。

『良かった。誰も死なせずに勝てた。本当に、良かった』

 大活躍した騎士団員たちは、口々に避難民から感謝され、祝われ、もみくちゃにされている。騎士団の方が照れてしまいそうなほど、避難民は喜びも爆発させていた。

 エイルが勝利を祝う宴会を開いたのは、戦った騎士団員をねぎらうためばかりではない。城塞都市の籠城戦では一般に、住民、傭兵(冒険者)、正規兵の順で士気の影響が出ると言われる。戦況の変化にもっとも敏感なのは一般住民なのだ。勝利したときは盛大に祝って、士気を維持する必要がある。

 実際宴のあちこちで、これなら勝てる、生き残れるぞ! と叫ぶ避難民の姿が見られた。もうこの戦いに勝ったかのように騒ぐものもいる。

 騎士団員たちは、それほど楽観的には構えられない。

 いまもセプテム城は5万という圧倒的大軍に攻め寄せられている。包囲こそされていないものの、絶望的な状況であることに変わりはない。援軍の望めない籠城戦では士気の維持に細心の注意が必要だった。

 だからこそ、宴をしてでも士気を高めねばならない。勝っている、自分たちは助かると思い込む。幻術じみているが、そうでもしなければ先に内部から崩壊してしまう。

 幸い、食糧は潤沢だった。援軍こそ望めないものの、騎士団本部の資金援助によって物資の補給も十分できている。後方都市マルメーヌとの補給線も維持されている。城門を破られない限り、このまま一年でも二年でも籠もれるだけの余裕があった。

 そんなわけで、エイルも今日は遠慮なく飲むことにした。ラティアノ人のエイルはもともとお酒は強い方だ。

 パナケイア女子修道会は大陸各地の修道院でビールやワインの醸造も行っている。修道院で作るお酒は美味しいことで有名で、今回も支援物資として大量に届けられていた(特にワインには魔力を大きく回復させる効果があった)。そのせいなのかわからないが、パナケイア聖騎士団には酒豪が多い。リフィアもハイジーもメングラッドも、ワイン3、4本飲んでケロッとしている。

 今も、騎士団員のいるテーブルではすごい勢いでワインやビールが無くなっていた。おかしいなあ、結構な量の樽開けてもらったんだけどなあ、とエイルは内心冷や汗をかく。なんとはなしにそのまま各テーブルの様子を見ていく。

 珍しくリフィアはエイルの隣ではなく自身の第二騎士隊のテーブルで宴に参加していた。ほとんど貴族出身者で占められる第二騎士隊はこんな時でも優雅だ。戦闘の後だと言うのに全員が洗いたての騎士団制服に着替え、シャンパンやワインの入ったグラスを傾けている。穏やかな話題に興じ、ころころと笑い、時折思い出したように手元のカルパッチョやサラダ・マリネをつまむ。すべての動作が洗練されていて、まるで貴族のお茶会だった。

 一方メングラッドのいる第四騎士隊のテーブルは冒険者ギルドの酒場のようだった。ワインよりビール、サラダより肉! という感じに卓上が占領されている。実際冒険者や平民出身者がほとんどの第四騎士隊では、酒場さながらに大声で騒いだり歌い出すものもいた。リフィアなら眉をひそめるだろうが、エイルとしては第四騎士隊の雰囲気は嫌いではないし、ありがたかった。親しみやすい第四騎士隊のテーブルには避難民が詰めかけ、一緒になって楽しんでいる。なんの打算もてらいもなしに、騎士と避難民の心を一つにしていた。

 ハイジーの率いる第三騎士隊の面々はとにかくよく食べている。第三騎士隊は貴族と平民どちらにも偏っていないが、一芸に秀でたものが多いと言われていた。もう一つ、全員が隊長のハイジーのことを大好きなのが特長だ。

「隊長! パエリア取ってきました! どうぞ!」

「ラタトゥイユも!」

「羊肉のグリルもおいしかったですよ、食べてみてください!」

「フルーツの盛り合わせもありましたよ、ぜひ!」

「みんなありがとう〜」

 隊員たちが取り分けた料理をぱくぱくぱくぱくおいしそうに食べるハイジー。

 それを見て幸せそうになる周りの隊員。永遠に回り続ける好循環が起きている。

 さすがハイジー……とエイルも一緒になってほわほわしていると、隣に誰か座る気配があった。

 見ると、意外なことに相手はメングラッドだ。

「メングラッド? どうしたの、隊はいいの?」

「ああ〜……」

 ビールの入ったグラスを片手に、目線を合わせないままメングラッドが頭をかく。少しの沈黙の後、ぶっきらぼうな口調で言った。

「ちょっといいか。その、なんだ、謝ろうと思ってよ」

ちょっと描写がわかりにくくなってしまいましたが、今回のパナケイア聖騎士団の突撃は騎兵突撃のため、騎士隊の中の騎士のみが攻撃をしています。ふだんの騎士隊は騎士従士も含めて一体となって行動しています。(騎士隊は、騎士50名、従士(歩兵)200名、合わせて250名で一個の戦闘単位です)

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