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騎士突撃

「うん、いいね」

 戦況を見ていたエイルが満足したようにつぶやいた。隣でリフィアはまたも驚嘆している。

「上級モンスターのサイクロプスがこんなにあっさり……!」

「狭くて逃げ場のないダンジョン内や遮蔽物のない平野だと怖い敵だけどね。今回は壁に守られたまま一方的に強力な魔法を撃ちこめるし、こんなもんだよ。どっちかというと敵の作戦ミスだね。離れて投石でもされたほうが恐かったと思う」

 エイルは通信担当に次の指示を出した。

「外壁班に連絡。跳ね橋を下ろすよう伝えて」

「はい」

「何をするつもり?」

 リフィアが尋ねると、エイルは珍しく、好戦的とも取れる笑みを浮かべた。

「敵は後退し始めている。このチャンスを逃す手はないよ。ダメ押しに騎兵突撃をする。……ずっとやられっぱなしだったからね。久しぶりに騎士らしい戦いをしてみない?」



「――ああ」

 エイルとは対称的に、シャルルの表情は苦虫を噛み潰したようだった。重要戦力のサイクロプスが12頭も戦死。まったくの無駄死にだ。

 ガップは目の前で自分の戦術が破れたことに怒鳴り散らしている。

「いったい最前線部隊は何をやっている! 勝手に退却するんじゃない。攻めろ、攻め続けろ! 敵の城門を破るまでもどってくるな!!」

「無理です閣下。すでに士気が崩壊しかけています。ここは一旦兵を退()き、立て直しましょう」

「やかましいぞ参謀長! さっきから退きましょう退きましょうと同じことばかりわめきおって! 少しはまともに作戦を立てられんのか!」

「ですから作戦を立てるためにもここは……」

 無駄と知りつつシャルルが諭そうとしたとき、セプテム城の方で異変が起こった。これまで侵入者を固く拒んできた外壁が、跳ね橋を下ろしその門を堀の対岸とつなげたのだ。

 強化した視力でそれを見て取ったシャルルは顔色を変える。先ほどとは比べ物にならない勢いでガップ将軍に詰め寄った。

「将軍閣下! 直ちに撤退命令を! 前線部隊に後退を命じてください」

「貴様っ、まだいうか――」

「はやくっ! 時間がありません。パナケイア聖騎士団が突撃してきます! あの騎士団の突撃の恐ろしさは将軍もよくご存知のはずでしょう!」

 ガップが石を飲み込んだような顔になる。慌てて自分も敵城をたしかめると、今まさに落とし格子が上げられ門が開かれようとしていた。

 将軍が悔しさに歯ぎしりした。

「……撤退だ。伝令兵ーー! 誰かおらんか? 撤退命令を――」

 

 遅かった。


 セプテム城外壁の門が開け放たれる。中には、すでに魔法甲冑を身に纏い馬にまたがったパナケイア聖騎士団の騎士たちが整列していた。先頭は第三騎士隊長ハイジーと第四騎士隊長メングラッドだ。

 メングラッドは獰猛そのものの笑みを浮かべている。対してハイジーは大きな身体に似合わない弱ったような顔をしていた。

「よーやっと暴れられるぜ。やっぱ城に籠もってんのは性に合わねえ」

「私は城の中にいたかったなあ。は〜〜、今日は戦わないで済むかと思っていたのに」

「騎士団の突撃隊長がなに言ってんだよ。ほら、行くぞ!」

「好きでやってるわけじゃないよう~」

 メングラッドが兜を自動装着する。ガキン、という金属の噛み合う音ともに、メングラッドの持つ火属性の赤い光がアイレンズに灯った。ハイジーもまた黒い硬質な兜を自動装着する。騎士団でも珍しい黒甲冑を纏うハイジーだが、兜を被り炉心宝玉が起動すると、全身にハイジーの持つ雷属性の金色が縞模様のように光った。黒と金が合わさって虎のような意匠となる。

 ガン、とメングラッドが籠手を付けた拳を打ち合わせる。

「おーーし、行くぜハイジー!」

「うん!」

 二人の騎士隊長が、正面を見据えたまま配下の騎士へ向けて叫ぶ。


「「パナケイア聖騎士団ッッ、突撃ッッ!」」

『マスハーーールッ!!!』


 メングラッドとハイジーが、突撃とともに前方へ剣を振り下ろす。それに合わせて騎士たちが馬蹄を轟かせて門を飛び出した。

 第3、第4騎士隊は跳ね橋を渡ると同時に左右へと展開し一直線の横列となって突撃する。全員がミスリル銀の甲冑を身に纏った騎士団の突撃は、わずか百騎とは思えない迫力を敵に与えた。

 騎士隊中央部、ハイジーとメングラッドのいる場所には旗を手にした副隊長が続く。十字に巻き付く蛇がパナケイア聖騎士団の紋章だ。それを見た魔王第二軍先鋒は恐慌状態に陥った。


『あの旗は、パナケイア聖騎士団!?』

『俺たちはパナケイア聖騎士団と戦っていたのか!!?』

『嘘だろ、パナケイア聖騎士団の突撃が来る!』

『いやだ、助けてくれえっ、まだ死にたくない!』


 ただでさえ頼みの綱のサイクロプスがいともたやすく蹴散らされて意気消沈していたところに、魔王軍なら知らぬ者のいないパナケイア聖騎士団の突撃を受けたのである。魔物兵の戦意は木っ端微塵に粉砕された。

 人間を舌なめずりして襲うはずの化け物が、悲鳴を撒き散らして逃げ出す。持ち場を離れ、列を乱し、装備を捨て武器さえ投げ捨てて、一目散に逃げようとする。

 いや、わずかにだがその場に踏みとどまる者もいた。何かに懸けるように、あるいは何かを諦めるような表情で武器を構え、騎士団の突撃を迎え討とうとする。人類の敵、魔王軍兵士の名に恥じない態度を示した彼らは、次の瞬間魔法攻撃に飲み込まれた。

 パナケイア聖騎士団の突撃は、普通の騎兵突撃と少し違う。馬の速度と長槍による突撃衝力を最大威力とする普通の騎兵と違い、パナケイア聖騎士団は突撃する敵対象へ向けてまず一発魔法攻撃を斉射する。それによって混乱し防御陣形に穴が空いた敵に向かって突撃するのである。

 聖騎士団の騎士は剣を二つ持っている。一つは光剣(ライトサーベル)。魔力を強固に収束し編み上げることで万物を切り裂く光刃とを作り出す剣。もう一つは魔法剣。ミスリル銀で打たれたそれは普通の剣としても隔絶した切れ味を持つが、何より魔法の杖同様の魔力伝達を持つ。つまり杖の代わりになる剣なのだ。一撃目は魔法剣による魔法攻撃、続いて光剣を携えての突撃がパナケイア聖騎士団の常勝戦法である。

 すなわち、通常の騎兵突撃が敵の堅固に組んだ陣形を打ち破るのに用いられるのに対して、パナケイア聖騎士団の突撃は陣の崩れた敵軍を蹂躙するために行われるのだ。

 これを、すでに混乱し崩れかけている敵に向けてやったらどうなるか。

 魔王第二軍先鋒最前列は、魔法攻撃を受けて一瞬で壊滅した。陣列を乱され慌てふためく魔王軍兵へ、光剣が容赦なく襲いかかる。

 先頭で戦うのはメングラッドだ。二つの紅いライトサーベルを手に、魔王軍を縦横無尽に切り裂いた。先程パナケイア聖騎士団の騎士は剣を二つ持つと書いたが、メングラッドは例外だ。彼女は両手に光剣を持ち敵陣を文字通り切り刻んでいく戦い方を得意とする。曰く、『魔法なんか撃つより斬ったほうが早い』。もちろんこんなでたらめな戦い方ができるのはメングラッドのずば抜けた剣技あってのことだ。

 二本の光剣で空中に赤い軌跡を走らせ、メングラッドは駆け続ける。あとには魔物の屍が山と築かれた。

 第三騎士隊長、ハイジーも負けていない。むしろ突撃に関してはメングラッドよりもハイジーのほうが強力だった。

「はああああああああああっ!!」

 四方八方に雷を撒き散らしながらハイジーが突撃する。黒い甲冑が結合部を雷光のように白く瞬かせる度、周囲の魔物が雷撃を受け黒炭になって倒れ伏す(彼女の騎馬は雷と魔力を通さないよう特殊な加工をされた鎧を着けている)。

 ハイジーは通常より長く造られた魔法剣をまっすぐ突き立て敵陣を切り裂いていく。常に雷電をまとう彼女の魔法剣は光剣と遜色ない威力を発揮した。魔王軍は防ぐこともできず一方的に雷撃で粉砕されていく。津波のごとく思われた魔物の大軍勢が、まるで大海が割られるように左右に切り裂かれていく。この状態のハイジーには味方も近づけない。本来ハイジーの護衛も務めるはずの騎士たちが数メートルの距離をおいて後ろから付き従いハイジーのうち漏らした魔物を屠っていく。

 メングラッドとハイジー、二人の大暴れによって戦意を喪失した魔王軍第一戦隊は半刻で壊乱、否、潰走を始めた。


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