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メングラッドと昼食

 翌日から騎士団は、城壁の修理と再建にフル稼働となった。


「レーキ足りないよー! もっと持ってきて」

「どんどん土出てくる。運んでも運んでも終わんない〜」

「ギャーーッ! 水出てきた!」

「早く木材パネルで止めて! 排水も!」

「石材は向こう。礫材はこっち!」

 土木の得意な第三騎士隊を中心として、全員が大工事に取り組む。地面を砕く者、土を掘り返す者、出てくる土を運ぶ者、皆様々な役目に分かれて奮励した。

 第三騎士隊長のハイジーはさすが抜群の働きを見せていたが、負けず劣らずの活躍をしていたのがメングラッドだった。

「掘れ! とにかく掘って掘って堀りまくるんだ!」

 甲冑を身に着けたメングラッドは兜の機能で拡声された大声で指示を出す。両手には普通の人間なら絶対に扱えない巨大なシャベルのおばけが握られていて、凄まじい速度で土をかき出していた。

「堀の幅は百メートル、深さは十メートルも掘るんだ。のんびりやってたら間に合わねえぞ。とにかく何も考えずに掘りまくれ」

「マスハール!」

 メングラッドの発破にヤケクソみたいな了解の声が上がる。城壁に付随する堀の掘削はとにかく重労働の単調な作業なのでストレスが貯まるのも当然と言えた。誰もが音を上げたくなるような作業だが、第四騎士隊は作業速度も落とさず頑張っている。メングラッドが時に声を張り上げ時に気遣いながら、隊員をよく指導しているからだ。

 冒険者出身のメングラッドは過酷な現場での戦い方、持ちこたえ方を肌身でわかっているようだった。作業する隊員たちのやる気をどう引き出すか、気分を切り替えるか、どこが限界かをうまく見極めている。

 昼、監督に来たエイルは現場を見て感心した。特にメングラッドの指揮の仕方は、作戦を考えることは出来ても指揮者としての経験は少ないエイルには学ぶことが多かった。

 ちょうど糧食班が昼食を持ってきたことのを見て、エイルはメングラッドに声をかける。

「メングラッドー、お昼届いたよ。休憩にしたら?」

「ああ、もうそんな時間か。おーしお前ら、一時間大休止! 騎士は自分の班員を確認してから飯取りに来い」

 はあー、という安堵のため息が返事とともに上がった。ほとんどが道具から手を離して座り込み、寝転がるものもいる。糧食班と避難民のボランティアが手伝って彼女たちに昼食を配っていた。

 自分の分の昼食は既に持ってきていたエイルは、メングラッドのもとに行く。兜を開けて風を浴びている彼女に話しかける。

「メングラッド、一緒にお昼食べてもいいかな?」

「あん? リフィアと一緒じゃなくていーのか」

「今日はメングラッドと食べたいなって」

「……べつに構わねーよ、好きにしろ」

 作業場所から上がり、城壁近くにある石材のひとつに腰掛けた二人は昼食を食べ始める。今日はサンドイッチで、具材はターキーエッグ、トマトとバジルソースだった。

 メングラッドは水筒の水を一息に飲み干すと、分厚いサンドイッチにかぶりつく。エイルも自分のサンドイッチを食べながら、彼女に尋ねた。

「どう? 作業の方は」

「最初の計画より捗ってるよ。何しろ騎士団全員使えるようになったからなあ、避難者のボランティアのおかげだ。たぶん一月は短縮できるぜ」

「助かったよねえ。隊員の疲労はどう?」

「今の所許容範囲だが、二ヶ月後はわからねえな。まあできるだけ休みを入れてやってくれ。いざ敵が来た時に全員疲労困憊ってわけにもいかねえだろ」

「うん、計画練り直してみる」

 話しながら、二人で前方の景色を眺める。これから掘る幅百メートル、深さ十メートルの堀というのは、現実にしてみると途方も無い大きさだった。

「しかしよう、こんなバカでかい堀、本当に造る気か?」

「メングラッドは反対?」

「いや設計でも聞いたし納得もしてるんだが、現場で見るとやっぱ想像以上っつーか、こんなでかい堀見たことないからな」

「たしかに、帝国にこんな大きい堀は今までないからね」

 現在帝国最大とされる帝都皇宮の堀ですら、幅20メートル深さは1メートルほどだ。それですら、建てられたのが二百年以上前とはいえ難攻不落の名城と謳われたのだ。エイルの考える堀の規模は規格外中の規格外だった。

 メングラッドは戦場での経験が長いだけに、逆に常識外れの大きさに面食らっているらしかった。

「オレの隊にも半信半疑で工事しているやつは多い。もう一度聞くけどよ、こんな大きさの堀が本当に必要なんだな?」

「絶対必要」

 エイルが断言する。メングラッドがハッと小さく笑った。

「お前おもしろいよな」

「? なにが?」

「普段話してるとよ、あんま自信なさそうっつーか、団員のこととかリフィアとかに色々聞いて頼ったりしてるのに、こういう作戦的なことには必ず断言して言い切るからさ。なんか、そのギャップがおもしれえ」

「え、ええ〜、私そんなおどおどしてる? これでも気をつけてるつもりなんだけど」

「オレにはまだまだ自信たっぷりには見えねえぜ。前がブリジッド団長だったってのもあるが」

 メングラッドは笑って、

「ま、だからお前に断言されると、そうかって逆に納得できるんだけどな」

 そう続けた。

「うーん、でも指揮官として自信なさそうなのは、みんなを不安にさせるからなあ」

「まあ前よかだいぶマシになったよ。お前がブリジッド団長に昇任されて入ってきた時は、なんでこんなビクついたガキが騎士に? って思ったからな」

「だ、だってあのとき私十六歳だよ! ブリジッド団長も私が断ったのに無理やり昇進させて……周りを怖がってたってしょうがないって」

 実際エイルは今でも他の騎士団員に若干苦手意識がある。何しろみんなエイルより歳上なのだ。

 メングラッドが豪快に笑った。

「安心しろ。オレの騎士隊は冒険者出身が多いから、現実的なんだ。騎士団の伝統とかにも興味ないやつが多い。冒険者にとって大事なのは、合理的な作戦を立てられるかどうか、みんなの命を守ってくれるかどうかだ。自信満々に無謀な作戦押し付けるやつなんかいらねえ。お前は結構好かれてるよ」

「へ、へ〜〜」

 エイルは反応に困った。メングラッドにそのように評価されていたとは意外だ。

 なんと言っていいかわからず、自分のサンドイッチをかじる。トマトの酸味とバジルの爽やかな香りが溶け合うサンドイッチは夏の味がした。


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