予想外の助け
結局会議で朝食を食べそこねたエイルは、食事担当のシスターに頼んで軽食を作ってもらった。ハムとチーズのタルティーヌ(※ソラン風オープンサンド)をかじりながら城内を歩いていると、騎士の一人から呼び止められる。
「団長、ちょっといいですか?」
「んぐ……ごくん。どうしたの?」
「その、避難民の方がお話があると」
見れば騎士の後ろに5人ほどの避難民が並んでいる。女性、男性、老人、若者と構成はバラバラだった。
慌てて残りを口に詰め込んだエイルは、案内してくれた騎士団員に礼を言って、あとを引き継ぐ。
「どうしました、なにかお困りごとですか?」
「ああ、いや……」
エイルの問いかけに避難者たちはすぐには答えなかった。何かをためらうように口を開きかけては閉じる。
なにか言い出しにくいことなのかな、とエイルは考え、思い当たるものを先に列挙していく。
「食料が足りませんか? 水? 薬? 多少は融通できるので遠慮なく仰ってください。燃料用の薪が必要なら……」
「ああ、ちがう、ちがうの。支援物資は十分足りてるわ。ありがとう」
避難民の代表役らしい老婦人が、手を振ってエイルの言葉を止める。エイルはキョトンとした。
老婦人は一度左右の仲間に視線をやり、うなずきあう。やがて意を決したように一歩前へ出た。
「私達にも何か、手伝わせてほしいの。騎士団の人たちが私達を守るために毎日走り回っているのを見て、こちらも何かできることはないかしら、そう思って」
老婦人の右脇に立っていた若い男性も、大きくうなずいて言う。
「薪拾い、家畜の世話、何でもやります。任せてもらえるなら城壁の修復だって」
左脇の若い女性も進み出る。
「戦うことは出来ないけど、洗濯や料理なら手伝えますから」
熱意の籠もった視線だった。後ろめたさや罪悪感からではない、無垢な誠意を感じる。それでもエイルは、彼女らの力を借りることにためらいを覚えた。
「みなさん、そんな、私達のことは気にしないでください。パナケイア聖騎士団はみなさんを助けるためにここに来てるんですから」
「団長さん、私達は無理して言い出してるわけじゃないわ。避難者の全員が手伝えるわけでもない。でもね、何日も騎士団の人に助けてもらって、守ってもらって、みんな自然となにか騎士団の方のためにしたい、手伝いたいって思うようになったの。私はそんな人達をまとめて今日話しに来ただけなののよ」
老婦人はやわらかく微笑んで言う。
「お気持ちは嬉しいですけど、今だってたくさん手伝ってもらってますよ。赤ちゃんや病気の人のお世話に食糧や物資の配分、避難所の掃除まで。騎士団は十分助けてもらってます」
「これだけでは気がすまないの。それに、あまり言いたくないことだけどこの城での生活も慣れてきて、私達にもいくらか余裕が出てきたのよ」
「最初の頃は逃げるだけで精一杯でしたから、今こそ恩返しさせてください」
若い男性が力いっぱい言う。嬉しく思いつつも、エイルは迷った。パナケイア聖騎士団は貧しい人、弱っている人を守るのが信条で、防衛準備を手伝ってもらうのは本意ではない。
ただ、少しでも助けがほしい状況なのも事実だ。
エイルは避難民の真摯な瞳を見つめる。逡巡したあと、彼女らに尋ねた。
「大変ですよ」
「見てます。わかってます」
「私たち騎士団は、みなさんが無事に生きて逃げてくれればそれだけでいいんです」
「それもよくわかっています。騎士団の方はみんなずっと良くしてくれました。帝国軍なんかよりずっと」
「みなさん……」
感極まって、胸にこみ上げるものがある。その時の気持ちを、エイルはどう表現したらいいかわからない。
「ありがとうございます。お願いします」
エイルは深く頭を下げた。避難者たちが朗らかに笑う。
「はい、一緒に戦いましょう!」