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籠城準備

 11月末まで籠城する。それを聞いてリフィアが指折り数えた。

「今日が4月18日だからあと約6ヶ月、半年持久するわけね。魔王軍はどのくらいでここまでやってくるかしら」

「リバート州南部の制圧をして、遠征の準備をして……かける準備にもよるけど2ヶ月から3ヶ月以内かな。策源地に魔窟(ダンジョン)を作る時間もあるから」

 魔物は存在するために魔力と瘴気の両方を必要とする。特に瘴気がないと長時間活動することが出来ない。魔大陸の大地は常に瘴気に満ちているが、人類大陸はそうではない。そこで魔王軍が占領地に作るのがダンジョンだった。魔窟核(ダンジョンコア)と呼ばれるものが土地に埋め込まれると、数ヶ月で周辺の大地を侵食し常に瘴気を吐き出す異界と化す。どのようなダンジョンとなるかは核の性質によるが、そのどれもが人獣の侵入を阻む魔族の砦となった。

 うごめく森林、毒に侵された沼地、地下深く広がる迷宮、海中に生まれた神殿もあれば空中に浮かぶ城塞都市のダンジョンもあった。ダンジョンこそ魔王軍の築く人類領域への橋頭堡であり、魔物を守る城塞だ。千年前、人類が魔王軍に勝利し魔王を打倒してからも、各地にダンジョンは残り続けた。そこから営々数百年をかけて人類はひとつずつ攻略していったのだ。

 大陸から全てのダンジョンを一掃してからも、魔王軍が侵攻してくるたびに新しい魔窟は作られた。過去6年間支配を受けたラティアノ半島や年中行事のように襲われるリバート州は特に、毎年帝国軍や冒険者によって攻略されてきた。攻略にはもちろんパナケイア聖騎士団も参加している。だからこそ、騎士たちはダンジョンがどれほど凶悪で始末に負えないものか知っている。

 顔を手で半分覆うようにしたリフィアが静かに呟いた。

「……リバート州南部は、これから酷いことになるでしょうね」

 ダンジョンの作られた土地は瘴気に汚染され農作物は育たない。人間も動物も生きられない、そんな場所が今も続々と増やされているはずだった。魔王軍に支配されるとはそういうことだ。国同士との戦争とは違う。占領された土地が根こそぎ変えられてしまう。

 エイルが少しでも明るい要素を探して口を開いた。

「……魔王軍にとってもダンジョンコアは貴重なものだから、そうほいほいと増やされたりはしないよ。多くても3つってとこじゃないかな。ただ、もし西都ミルヴァが攻略されてそこにダンジョンが築かれたら、帝都の防衛はかなり厳しくなると思う」

 ミルヴァはリバート州の州都だ。帝国西方領(リバート)最大の都市であり、中央(アルバ)街道一番の要衝にあたる。ここを落とされれば、帝都陥落は目前と考えて良い。

「そうね。ソラン帝国軍にはなんとしても持ちこたえてもらわないと困るわ」

「まあ、そこは私達が考えてもしょうがないから、まずはできることをがんばろう。ひとまず魔王軍の再侵攻は3ヶ月後と仮定して、それまでに籠城準備と城壁の再建を終わらせる。それが今後の目標」

「3ヶ月か……ハイジーの見立てはどうだ? 間に合いそうか?」

 メングラッドが隣のハイジーに話を向ける。城壁の修繕や工事に関してはハイジーの第三騎士隊が一番詳しい。

「それなんだけどね、普通にやったら間に合わないから、団長やニコさんと話し合って色々工夫してみたんだ。城壁の建材とか、投入できる労働力とか」

「ふっふーん、建築資材は私が錬成混凝土(アルケミー・ベトン)を用意することになった。建築作業も専用のゴーレムを作ってあげよう。素晴らしいだろう。褒め称えていいんだよ」

 ニコが自慢げに大きく胸を張る。あー、すげえすげえとメングラッドがなおざりに手をたたき、あははとエイルは苦笑した。

 だが、実際すごいことなのだ。加工が容易ながら高い強度と耐久力を持つ錬成混凝土(アルケミー・ベトン)を大量に使えることは、エイルの新城壁実現を大いに助けた。これがなければほとんど不可能だったと言っていい。建築用ゴーレムも、人手不足の騎士団にとってはありがたいことこの上ない。つい自慢したがるところはご愛嬌だが、ニコは言葉通り掛け値なしの天才だと改めて認識する。

 ハイジーが机の上に設計図面と試算の書類を広げた。

「それで、ニコさんのおかげでギリギリだけど建造は間に合いそう。少なくとも第一城壁は2ヶ月で修復できるよ」

 エイルの新城壁案には、第一城壁以外にも掘、外壁、稜堡と防衛のための様々な工夫が詰め込まれている。ただ、少なくとも第一城壁が完成すれば、魔王軍の攻勢があってもまともに戦うことができる。

「ラウラさんと話してシフト表も作ったよ。ニコさんのゴーレムに助けてもらってもかなりきつい作業になっちゃうけど」

 城内の環境維持、補給、看護、避難者の受け入れ、周辺の魔物討伐。

 城壁の建造以外にも騎士団のやることは多い。戦うだけではない。洗濯も掃除も料理も全て重要な軍事活動だ。

 図面や書類を見比べつつ、メングラッドとリフィアがうなずいた。

「たしかに、これなら」

「ええ、間に合いそうね」

「ありがとう二人とも。よし、この工期でセプテム城を生まれ変わらすよ!」

 エイルが拳を握った。はっきりと、全員の顔に希望が差す。

「目指すは7月までの籠城準備完成。パナケイア聖騎士団全員でがんばろう!」

「マスハール!」


 こうしてパナケイア聖騎士団はセプテム城防衛のため本格的に活動を開始する。

 帝国西方領北部の小さな城に今、反抗の狼煙が上がった。


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