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専用の魔法甲冑を作ろう!

すみません、体調不良にてしばらくお休みしてました。また投稿再開します!

「そりゃあ、エイルの魔力が総量も出力もでたらめだっていうのはあたしも聞いてたよ」

 騎士団専属の魔法甲冑整備担当技師、スコラはそう言ってグラススコープを額に押し上げた。彼女の前には先の迎撃戦でエイルが使った魔法甲冑、〈St.(セント)ソフィア〉がある。

「だけどたった一回の戦闘で故障させるってどうなのさ」

「面目ないです……」

 スコラの前でエイルは両手指をもじもじと合わせて恐縮している。

 St.(セント)ソフィアはエイルの魔力出力に耐えられず、甲冑の各所に破損や歪みが生じていた。エイルとしても想定外のことだ。魔法甲冑を授与されてからの二年間、エイルの使用していたSt.ソフィアは期待に応えてよく戦ってくれた。騎士団でそれまで経験してきた普通のダンジョン攻略や小規模戦闘では問題なかったのだ。

だがエイルはこの前初めて魔力全開出力での戦闘を、長時間、しかも三千という魔物兵相手に行った。どれもが未経験の出来事だった。そしてSt.ソフィア――パナケイア聖騎士団騎士専用魔法甲冑は、その負荷に耐えられなかった。

「いやー、団長が悪くないっていうのはあたしもわかってんだよ。だいたいSt.ソフィアはそんなやわな甲冑じゃない。全身にミスリル銀を使ってるから耐久性では大陸一の代物だ。その鎧が人間の魔力出力に耐えられないなんて誰も思わないさ」

 腕を組んでスコラはエイルを見上げる。ドワーフである彼女の身長は130cm程しかない。その小さな身体で重い工具を扱い魔法甲冑の製造から整備まで巧みにこなす彼女を、エイルは心から尊敬していた。

「でもね、魔法甲冑はあたしにとって子供みたいなものなんだ。そりゃ全部あたしが作ってるわけじゃないけど、材料の選定や各部パーツの組み合わせ、個人への微調整は全部あたしがやっている。だからそんな子がぼろぼろになって帰ってくると、ついカーッとなっちゃうわけよ」

「いやもうスコラさんが怒るのは本当ごもっとも。ごめんなさい!」

 だから、素朴な敬意を抱いている相手にこうして面と向かって怒られると、シュンとしてしまうのである。

 スコラは頭の後ろに手をやり、クセの強い赤髪をくしゃくしゃと撫でた。

「ああ〜〜、いや、あたしもつい言い過ぎちまった。これに乗ってるあんたが五体満足で戻ってきただけで万々歳だ。喜ばなきゃね。甲冑がどんなに壊れようが直せるけど、直してみせるけど、人間の体はそうはいかないしましてや死んだら元も子もないしね。この甲冑はあんたらの体を守るためにあるんだし」

「は、はい」

「でもね!」

 そこでスコラがずいと身体を伸び上がらせた。小さな体から放たれる技師の迫力にエイルは思わずたじろいでしまう。

「これからエイルが出撃するたびに毎回St.ソフィアを壊してきたら、あたしは毎回グワーーッってなっちゃう。そもそもそんな甲冑で戦うのは危険すぎる。だから団長、早くあんたの専用甲冑を作ったほうがいいと思う!」

「はい、まったくもってごもっともです……」

 太い眉の下にあるスコラの大きな両目は一徹者らしい力強さにあふれてて、エイルはこくこくとうなずくことしか出来なかった。



 スコラのちょっとした不満と技師としての忠言を受けて、エイルは本格的に自分の専用魔法甲冑を作ることに決めた。エイルとスコラは魔法甲冑の整備室から場所を移し、団長室でくわしく話すことにする。

 会議にはエイルの従士長あるラウラが、そしてなぜか「技術者として興味があるから」とニコもこれに加わった。

「そもそもさぁ、専用魔法甲冑ってなんのことだい?」

 ニコの最初の疑問に、ラウラが流暢に説明する。

「パナケイア聖騎士団では騎士団の幹部級、各騎士隊長以上になると個人に合わせた専用の魔法甲冑を特別に製造、支給しているんです。リフィア様であれば〈St.(セント)ヘレナ〉、ハイジー様が〈St.(セント)ウルスラ〉、メングラッド様でしたら〈St.(セント)ヴェロニカ〉がそれです。これらは〈St.ソフィア〉を改造したものではなく鎧の素材選定段階から各人に合わせて作り直している一点物になります。

 例えばリフィア様の〈St.ヘレナ〉は甲冑の一部にウーツ鋼を使い防御力と魔力出力を底上げしています。ハイジー様の〈St.ウルスラ〉はミスリル銀を超えるこの地上で最硬の素材、ヴォルフラム鋼で全身を覆っています。メングラッド様の〈St.ヴェロニカ〉はミスリル銀に希少金属ヒヒイロカネを混ぜ合わせて鍛造されており、通常の〈St.ソフィア〉より軽く機動性に優れつつ、耐火性能が上昇しています。これ以外にも騎士用の〈St.ソフィア〉にはない様々な機能が強化されており、着装者にもよりますが騎士隊長専用甲冑は通常の魔法甲冑の二〜三倍の戦闘力があるとまで言われています。ですが当然、それに注ぎ込まれる技術も資金も二〜三倍では済まず、騎士団全員に専用魔法甲冑を支給できない理由はそれです」

「なるほど。じゃあなーんでエイルにはまだ専用甲冑がないんだい? 騎士団長なら専用甲冑はもらえるはずだろう?」

「ニコ様、エイル様が騎士団長になられたのはたった10日ほど前のことなのです」

「あ、そっか」

「理由はそれだけじゃないんだ」

 ラウラのあとをついで、スコラが眉間にシワを寄せて話した。

「……設計はとっくにできてるんだよ。エイルが騎士団に入ったときから、ブリジッド前団長とは専用甲冑の話はしてたんだ。エイルの魔力量じゃ〈St.ソフィア〉でも保たないっていうのはわかっていたからさ。異例だけど、エイルが騎士団長秘書になったときから幹部扱いで専用甲冑の開発は進めていたんだ」

 そこでスコラはラウラに入れてもらった紅茶を一口飲む。特別に砂糖多めにしてもらったそれはスコラの大好きな飲物だったが、今は深いため息が口をついて出た。

「けどね、計算してみたらエイルの魔力量に耐えるにはミスリル銀よりさらに貴重な素材が必要だってわかったんだ。〈オリハルコン〉。伝説的な魔法金属で騎士団もほとんど保有していなかった。それであたしとブリジッド前団長はほうぼうを駆け回って素材集めから始めるしかなかったのさ」

「へえ、それで素材はどのくらい集まったのかな?」

「ようやく全体の半分ってとこ。設計図も細かな内部パーツも作り終わっているから、あとは鎧の素材さえあればすぐにでも作れるんだけど……とにかくオリハルコンは希少すぎてね、手に入らないんだよ」

 スコラがそう言って肩を落とす。それを見たエイルは、彼女が自分のためにそんなにがんばってくれていたことへの嬉しさと苦労をかけている申し訳無さで複雑な気分になった。

そんなスコラやエイルへお構いなしに、ニコが実に楽しげな声を上げる。

「ほぅ、ほぅほぅほぅ。そいつはいいね、実に素敵だ」

「何が素敵なのさ」

「ふふーーん、ちなみにだが、私が必要な量のオリハルコンを用意できる――と言ったらどうする?」

「え?」

「作れるの!?」

 エイルとスコラが同時に椅子から立ち上がる。ラウラもさすがに驚いた表情でニコを見た。

「作れるとも。私を誰だと思ってるんだい。稀代の天才錬金術師、ニコ様だよ。この世で錬成できない金属なんか私にはないね」

芝居がかった仕草で美しい黄金の腕を広げるニコ。ただし、と彼女は付け加える。

「私は錬金術師だからさ。ちょっと素材になる金属は用意してもらえるとありがたいかな。鉄からでも錬成できるが時間がかかりすぎる。できるだけオリハルコンに近い貴金属……ミスリル銀の予備はあるかい?」

「ある。騎士団本部に頼めば備蓄してあるインゴットを融通してもらえる。大鷲便に頼めばすぐ届けてもらえる」

 スコラが身を乗り出した。ニコが音高く両手を打ち鳴らす。

「なら一ヶ月だ。ミスリルが届き次第一ヶ月で必要なオリハルコンを作ってあげるよ」

「一ヶ月……」

 スコラが顔を曇らせる。魔王軍本格的な攻勢は数ヶ月の間に来ると予想されている。オリハルコンは出来てもそれでは次の攻勢までに甲冑が間に合うか微妙なところだ。

しかしそれもまたニコが助力を申し出た。

「おいおい、私は錬金術師だよ。当然その後の鍛造や組み上げも手伝うに決まっているじゃないか。普通に製造するよりずっと早く良いものが作れると思うな。これでも金属加工はお手の物でね、文字通り」

 そう言ってニコは黄金の手をひらめかすと花や星型など様々な形に変えた。スコラが目を見開く。

「ニコほどの錬金術師と一緒に作るなら……なんとかなるかも知れない!」

「これは、決まりですね」

 ラウラも大きくうなずいた。エイルは一歩前へ出てニコの手を握る。

「ニコさんありがとう……どうかよろしくお願いします」

「なあに、錬金術師として魔法甲冑に興味を惹かれただけさ」

 ニコは気楽な調子で笑うのだった。

各魔法甲冑性能諸元


▽〈St.ヘレナ〉

リフィア専用魔法甲冑

全高:1.8m

甲冑重量:28kg

装甲材質:ミスリル銀、ウーツ鋼

炉心宝玉:ガルグイユ・サファイア(水属性)

特徴

・魔法出力が高く、射撃向き


▽〈St.ウルスラ〉

ハイジー専用魔法甲冑

全高:2m

甲冑重量:51kg

装甲材質:ヴォルフラム鋼

炉心宝玉:剣虎眼石サーベルタイガーズアイ(雷属性)

特徴

・重装甲


▽〈St.ヴェロニカ〉

メングラッド専用魔法甲冑

全高:1.75m

甲冑重量:23kg

装甲材質:ミスリル銀、ヒヒイロカネ

炉心宝玉:レッドドラゴン・ガーネット(火属性)

特徴

・強力な火炎耐性

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