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新城壁案

「で、できた……」

 翌朝。

 エイルは霞む目の中でその図面を見た。

 それはエイルが徹夜で仕上げた、セプテム城の新城壁設計案だった。

 セプテム城はかつて本城郭の外に三重の外壁を持つ城だったが、今はそのすべてが破壊されかつての第一城壁が半ば原型を留めるのみとなっている。

 エイルは残っている第一城壁を修復、改築し新しい城壁を作ろうと考えていた。

「ふっふっふ、我ながら素晴らしい出来栄え。まだ素案みたいなものだけど、これでみんなに見せられる……」

 徹夜明けでややハイになり、うっとりとした視線を設計案に送るエイル。

 団長室にノックの音が響き、ラウラが顔を出した。

「エイル様、おはようございます……と、もう起きていらしたんですか。というかまさか、いままで寝てないのですか?」

「あ、ラウラさんおはよー。いやー、ついこの図面づくりに夢中になっちゃって」

 ラウラはつかつかとエイルのもとへ歩み寄ってくる。

「いけません! 団長職こそしっかり休むべきです。エイル様、私が見守っていますから今から四時間きちんと寝てください」

「え、ええ、でも私大丈夫だよ。それにこの図面みんなに早く見せたいし、今日もやることいっぱいあるし」

「いけません。筆頭従士として進言します。エイル様、今は休んでください」

「うう~」

 騎士団のご意見番、ラウラに逆らうことなどできるはずもなく。

 エイルは大人しく従って団長室のベッドにもぐり込んだ。

「まったく無理ばかりして……エイル様はもっと自分の身体を大事になさってください」

「あははは、ごめんねラウラさん。徹夜なんて、子供の頃は当たり前だったから。むしろ寝かせてもらえなかったし」

「っ……」

 ラウラが言葉をつまらせる。エイルは自分の発言を後悔した。そんな顔をさせたいわけではなかったのに。

 騎士団内でエイルの過去を知るものは少ないが、ラウラはずっと従士長を務めていた関係で事情をよく知っていた。

 エイルにやさしく布団をかけてから、ラウラは言う。

「……エイル様」

「うん?」

「エイル様はもう奴隷ではありません。私達の騎士団長です」

「うん、ありがとう、ラウラさん」

 まぶた閉じるとエイルはすぐに眠りに落ちた。ラウラは言葉通り4時間ずっとエイルのことを見守っていた。




 ぐっすりと休んで体を回復させた午後。

 そんなわけで、自信満々に新城壁案を騎士団幹部組に見せたエイルだったが。

「う~~ん、これはちょっと」

「なんというか……、斬新な設計だね」

「つーか、だせえ」

「ぎゃうんっ!」

 リフィアは苦笑しハイジーには困惑され、メングラッドからは思い切りダメ出しを受けてしまった。

「え、え~、そんなにダメ?」

「ダメというか、ちょっと今までの城壁の形からはかけ離れているというか……」

「なんだよこの城壁の厚さ10メートル、堀の幅100メートルって。ガキの考える数字じゃねえんだから」

「だ、だって絶対そのくらい必要だから!」

「まあでも、メングラッドの言うこともわかるわ。帝都の城壁でも厚さは4メートル、堀の幅は20メートルよね。エイルの城壁案は前代未聞の規模よ」

 騎士団幹部の困惑は、無理もなかった。

 現在、城壁は敵に向かって高くそびえ立つように作るのが普通だった。高いほうが弓矢や投石で攻撃するには有利だし、敵に威圧感も与えられる。帝都を守る帝国最大の大城壁は20メートルもの高さがあった。

 しかしエイルは、その高くそびえ立つ城壁そのものを否定したのだった。エイルの考える新城壁は、高くそびえるのではなく低く分厚く、がっしりと大地にへばりつくような形をしていた。

 メングラッドの「ダサい」という言葉もここから来ている。低く厚い城壁は、それまでの常識からすると不格好に見えた。

 騎士団の工兵隊長ともいうべきハイジーが手を挙げる。

「団長に質問なんだけどさ。城壁を高く作らないのは、なんで?」

「城壁が高いと、魔王軍の投石や竜の攻撃で簡単に崩れちゃうから。城壁は高くすればするほど、上部の厚みが薄くなるでしょう」

 高い城壁を建てると、壁は上に行くに従って薄くなる。基部はしっかりしていても、上部を攻撃されるとあっさり崩れてしまうということはこれまでもあった。また高い城壁上では兵のいる場所の幅は狭くなり、射手が僅かな人数で守る形となる。城壁の胸間(ギザギザの部分)も幅が狭く小刻みになり、弓や弩は使えても大型の投射兵器を設置することができなかった。

「私の考えだと城壁に高さはいらない。低く、分厚く作って、城壁上には投石機(カタパルト)大型弩(バリスタ)で武装する。これが私の新しい城壁案」

 エイルが説明すると、みんな少し納得顔になった。メングラッドが言う。

「たしかに、今回の魔王軍は連れている竜の数が段違いだからな。竜の火力にさらされても耐えられる城壁、ってことか」

「もしかすると、百頭とか竜が来るかもしれないしね。城壁を厚くするのは正しいかも」

 ハイジーもうなずく。しかしリフィアが思案げな顔で尋ねた。

「だけどこんなに厚い城壁を作るための資材はどうするの?」

「崩れ残っている第一城壁を基盤に作ろうとは思っているけど……第一城壁も高い城壁だったから、低くする分資材が余るはずだし」

「それでもこの規模の城壁には足りないわよ。足りない資材は注文するにしても、揃うまでどのくらいかかるか……」

「資材もそうだけど、堀づくりもすごい規模になるよね。エイル団長の城壁って建てる(・・・)というより掘る(・・)感じだと思うんだけど、工事の人員がたくさん必要になると思う」

 ハイジーもまた不安点を口にする。

 うーん、とエイルはうなった。

「資材に工員、たしかに千名の騎士団じゃ無理があるかなあ」

「千人フルで使えるわけでもねえからな。魔物の警戒に城の補修、避難民の支援や休日もいる。工事に専念できるのなんていいとこ3分の2くらいじゃないか? 魔王軍が来るまでに完成できるか、難しそうだな」

「う~~~~~~ん」

 エイルとしては新しい城壁は魔王軍に対抗するため絶対必要なものだ。しかし今の騎士団では作ることはほとんど不可能とわかった。

 悩みこんでしまったエイルに、リフィアが声をかける。

「ひとまず、新城壁のことはまた後で考えましょう。他にもやることは沢山あるわ」

「うう~、仕方ない、かあ」

 エイルが肩を落として城壁案をかたしたとき、団長室の扉が強く叩かれた。

「団長っ! たいへん、大変です!」

 突然、一人の騎士が叫びながら部屋の中に入ってくる。皆何事かと振り返った。

 聞けば彼女は、城の地下施設の確認を行っていた班の所属だという。

「いったいどうしたの?」

「それが、誰もいないと思っていた地下牢に捕らえられたままの人がいたんです!」

 彼女の言葉にエイルもまた目をみはった。

 城の地下牢に囚人がいるなんて聞いていない。事実だとすれば大事件だ。引き継ぎ書では何の報告もなかったのに……。念の為ラウラに目線を送るが、彼女も首を振った。

「しかも地下牢にいる人が、その、かなり変わっている人でして」

「変わってる?」

「なんて説明したらいいか……その、とにかく来てください!」

「?」

 エイルはリフィアと見つめ合うと、たがいに目をしばたたかせる。

 ひとまずラウラも加えて3人で、状況を確認しに地下牢へと向かった。

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