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セプテム城

 病棟の視察と治療を終えたエイルは、続いて城内の各所を見て回った。

 食料貯蔵庫、井戸、武器庫、厩舎、馬場、鍛冶場、納屋、菜園……騎士団員や避難民が生活する居住塔以外にも、セプテム城には様々な施設がある。

 途中からは従士長のラウラも加わり二人で城内を回った。

「さすがセプテム城。古いけど造りはしっかりしてるし、本城郭の施設は整っているね」

「全盛期には万の兵を養っていたとのことです。これならば避難者の方がさらに増えても問題なさそうですね」

「増えそう? 避難してくる人たち」

「昨日私達は魔王軍の追撃部隊を撃退しましたから」

 ラウラは落ち着いた声で言う。

「昨日の勝利はまだ帝都までは届いていないようですが、周辺地域にはすでに噂として広まっているようです。今朝にはもう近くの森をさまよっていたという避難民の一団が、保護してほしいと城の門前までやってきました。日中を通して徐々に他の避難民たちも集まってきています。おそらくこれから西方領南部の住民が続々やってくるでしょう」

 帝国西方領(リバート州)は魔王軍によって荒らしに荒らされている。その避難民が唯一助けを求められるのは、このセプテム城をおいて他にない。

「帝国軍は避難民を積極的に助けないもんね。私達が最後の砦ってことか」

「ええ、まさに文字通り」

 帝国軍も、防衛の要である中央(アルバ)街道ならば避難の護衛や誘導はするかも知れないが、脇往還の北部(ベルタ)街道沿いは目もくれないに違いない。

 この地域に住む人々が逃げるとしたら、セプテム城を目指す以外にないのだった。セプテム城はベルタ街道を扼す位置に建てられている。

「ひとまず避難民の対応は修道女(シスター)部門に一任しています。今はまだ十分に受け入れは可能ですが、今後を考えると……」

「水、食糧に居住スペース、医療品や毛布のことも考えないとだね」

 パナケイア聖騎士団としては避難民の受け入れをやめることはありえない。とすれば、これから膨大な生活物資が必要となるのは明白だった。

「食糧ですが、幸い帝国軍が籠城用としてかなりの量を備蓄していたので当分心配はありません。小麦も大麦も一年間は十分過ごせる量があります。水も、セプテム城には5つの井戸が掘られているので不足はしていません。節約はしないといけませんが」

「肉とか野菜、保存食は?」

「城内には菜園もありますし、ありがたいことに家畜小屋には方舟術式(はこぶねじゅつしき)が掛けられていました」

「方舟術式!? 私本物見るの初めてだよ!」

 方舟術式とは神代の奇跡を再現した高度な大魔法術式のことだ。

 かつて世界に巨大な洪水が起きたとき、この世のあらゆる生き物のつがいを方舟に入れて守ったという神話に基づいたもので、ごく狭い空間内で多数の動物を飼う奇跡を起こせる。

 方舟術式の掛けられた場所では、家畜は少量の餌でもよく肥え、病気にもかからず運動不足にもならず、子供も次々生まれ育つという夢のような術式である。ただし発動時に莫大な魔力を必要とするため、国家にとって重要な城塞や大都市にしか使われていない。

 方舟術式を掛けてもらえるなんて、セプテム城は昔ホントの名城だったんだなあ……とエイルは感慨深くなった。

「以上から、食料に関しては当面問題ありません」

「となると他の生活必需品だね。近くに交易できそうな街はあるかな?」

「調べておきます。購入のための資金も必要ですね。騎士団本部に伝えて手形を発行してもらいましょう」

「さっすがラウラさん! たよりになるぅ」

 エイルは素直に尊敬した。エイルは戦術は考えられても、各方面への交渉や調整作業は全然わからないのだ。

 そう言うとラウラは淑やかに礼をした。

「ええ、どうかなんでもお申し付けください。私はエイル様の筆頭従士ですから」


 その後エイルはラウラとともにいくつか施設を見て確認を終えると、団長室で武器や回復ポーション、資材の購入量などを検討し書類作成に追われた。そこでもラウラは秘書としてとても頼りになるのだった。


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