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リフィアとメングラッド

 ◆◆◆◆


「ちょっと、待って、待ちなさい!」

 一人でずんずん先を歩くメングラッドをリフィアは必死で追いかけた。廊下の途中でようやく追いつく。名前を呼んでも振り返らないので、腕を掴んで強引に立ち止まらせる。

 うっとうしそうに首を返すメングラッドに、リフィアは苛立った。

「メングラッド、あなたさっきの態度は何なの? エイルは私達の騎士団長なのよ」

「オレは認めてねえって言ってるだろ」

「一体何がそんなに気に食わないの。ブリジッド団長を助けられなかったのはエイルのせいじゃない。なによりブリジッド団長自身がエイルを後継者に指名したのよ。たしかに異例だけど、エイルが団長になるには十分な資格でしょう」

 メングラッドがリフィアをじろっと睨んだ。リフィアも負けじと鋭い視線で見つめ返す。

 メングラッドはため息を付いて視線を切った。壁に寄りかかって背を預けると、髪をかきあげながら言う。

「あいつは、十八なんだぞ」

「それがなに? 経験が少ないからって実力も不足するわけじゃないわ」

「そうじゃねえ」

 メングラッドは顔を上げないまま爪先の辺りを見つめている。

「あいつは、エイルは、まだ十八なんだぞ。戦場で指揮を執るっていうのはただ戦うのとは違う。部下の命をまるごと預かるんだ。オレも、お前も自分の部隊を持ってるんだからわかるだろう。部下の命を預かるっていうのはとんでもなく重い。ましてやそれが騎士団千名全員とくる。十八の子に背負わせていいもんじゃねえよ。しかも今あいつは、この城にいる避難民の命まで背負おうとしているんだぞ」

 リフィアが言葉に詰まった。

「ブリジッド団長が何を考えてエイルを後継に指名したかオレは知らないけどよ、たとえどんなに才能があったって、まだ十代のやつに戦の指揮なんかやらせちゃだめだろう。あいつの人生に重りをかけ続けることになる。あいつがそれに耐えられるかどうか、まだ誰もわからないんだぜ。オレたち騎士団の古参組が、後輩に戦の責任も重圧も全部押し付けて平気な顔して指揮に従うっていうのは、違うんじゃねえか?」

 そこまでしゃべって、メングラッドはようやく顔を上げた。その目にはリフィアを非難する色はない。普段よりずっと弱々しい彼女の瞳は、自責の念に揺れていた。

 リフィアは言葉を返せなかった。彼女が心のうちで気づきながらも見ないふりをしていた事実に、メングラッドは一人でより深く向き合っていた。絶望的な状況で、騎士団員の命全てを誰よりも若い騎士に背負わせているという事実に。

 しばらくして、リフィアが絞り出すように言った。

「……メングラッド、今日の戦いを見たでしょう? エイルの考えた戦術のどれも、私達が今まで考え付きもしないものだった。私が、あなたがエイルの代わりのあの作戦を立てられる? 私達の誰が、エイルの代わりができる? あの子は天才よ」

「天才だからって……」

 メングラッドが反論しようとするのをリフィアが手で止める。

「天才だからって背負わせていいわけじゃない。そんなのはわかってる。でもこの戦況で、この状況で他に誰を頼れるの。誰が背負えるの? 一千名の騎士団員と3千人の避難民。この全てを魔王軍の攻撃から守り切る可能性があるのは、エイルしかいないのよ。私達は避難民を救うと決めた。そのための戦いには、エイルの頭脳がどうしても必要なの。たとえ彼女の心が重圧でどれほど潰されてしまっても」

 なにか言い返そうとして、しかし言葉が出てこず、やがてメングラッドは黙り込む。

 ただ一言、最後にポツリと、呟いた。

「……気に食わねえな」

「ええ、まったく気に食わない。でもそれが、私達の現実なのよ」


 ◆◆◆◆

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