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騎士団幹部会議 1

 騎士団長として初勝利を上げたその日の夜、余韻に浸るまもなくエイルは騎士団の幹部会議を開いた。

 仮の団長室としている城主の間に集まったのは六名。


 第一騎士隊長であり騎士団長、エイル。

 第二騎士隊長であり副団長、リフィア。

 第三騎士隊長、ハイジー。

 第四騎士隊長、メングラッド。

 騎士団従士長と騎士団長秘書を兼ねるラウラ。

 騎士団の修道女を束ね、医療系のトップである聖女、ヒュギエイア。

 

 これが現在のパナケイア聖騎士団における最高意思決定機関ということになる。騎士団は伝統的に寡頭指導制を取っており、この幹部会議がそのまま騎士団の行動を決めることも少なくない。

 本来この会議は騎士団の今後の方針を決めるために開かれたのだが、のっけから紛糾することになった。メングラッドがエイルを騎士団長として認めない、と言い出したからだ。

「あなたまだそんな事を言っているの!?」

「うるせぇっ! オレは認めねえったら認めねえぞ!」

 会議の卓上で、リフィアとメングラッドが真っ向から対立する。エイルはどちらにも声をかけられず弱り果て、ハイジーは二人の間に視線をさまよわせたままおろおろし、ヒュギエイアも不安げに会議の成り行きを見ていた。ラウラだけが超然として椅子に控えている。

「エイルの才能は今日で十分わかったでしょう。このまま騎士団長として作戦指揮を任せるべきよ。それとも今日と同じことがあなたにできる!?」

「作戦や指揮うんぬんのことを言ってるんじゃねえよ。こいつはまだ十八歳だぞ! 騎士団長なんかやらせていいわけねえだろうが!」

「年齢が何? 他でもないブリジッド団長が後任としてエイルを指名したのよ。それで十分でしょう」

「あの人にはオレもでけえ恩があるが、こればっかりは反対だ! その場にいたら絶対反対してたぜ。十代のガキが団長なんてやっちゃいけねえんだよ」

 リフィアとメングラッドの言い合いは収まらず、互いに一歩も引く様子がない。二人を止めることを諦めたエイルは、なんとか会議を正道に戻すべくハイジーへと話を振った。

「えっと、ハイジーはどう思う? 私の就任には反対?」

「ええっ!?」

 急に水を向けられてハイジーが驚き困った顔になる。ハイジーはエイルが騎士団長に就任すると聞いたとき、賛成とも反対とも立場を明確にしなかった。リフィアとメングラッドからも視線を向けられ、困り顔が加速する。

「ええっと、私は、賛成でも反対でもないっていうか……みんながいいと思うほうが、いいと思う……」

「なんだよはっきりしねえなあ」

「ハイジー、賛成しないってどういうこと」

 二人から同時に詰め寄られ、あわわわわわとハイジーが怯えた顔をする。エイルは慌てて他のメンバーにも話題を向けた。

「ヒュギエイアさんは? いきなり私が新しい団長になります、って言われて混乱したと思うけど」

「私は……」

 ヒュギエイアは一瞬考え込むように下を向く。それから顔をあげると、考えながら言葉を紡いだ。

「私は、エイルさんにはあまり無理をしてほしくないです。私は軍事的なことはわからないけど、エイルさんの体のことはこの場の誰よりもわかっているつもりです。エイルさんはたしかに素晴らしい魔力を持つ強い騎士ですけど、体調がどう転ぶかわからない危うさがあります。だからもうしばらくは魔力が体に馴染むまで、負荷のかかる働き方はしてほしくない」

 ヒュギエイアはそこで一息入れ、続ける。

「でも、この二年一緒に戦場を歩いてきてエイルさんの凄さもわかっています。戦場のことはわからない私でも、エイルさんの考える作戦が非凡なのはわかります。ですから、騎士団全体がこれから直面する戦いを考えるならエイルさんの能力は絶対必要でしょう。だから、絶対を無理をしないって約束してくれるなら、賛成してもいいです」

「ヒュギエイアさん……」



「――あのときは、賛成してくれるなんて思わなかったなあ」

 エイルはしみじみとつぶやく。 ヒュギエイアからは日頃、とにかく自分の身体を一番に考えるようにと口を酸っぱくして言われていたからだ。メングラッドと同じくらい、自分の団長就任には反対していると思っていた。

 そんなエイルののほほんとした態度に、ヒュギエイアの眉が釣り上がる。

「無理をしないなら、ってちゃんと言ったはずですよ。言うことを聞けないなら今からリフィアさんのところに行って、やっぱり団長の指示を取り消しますって言ってもいいんですからね」

「わー、ごめんごめん! これからはちゃんと診せに来ます。はい」

「まったく……」

 あわててエイルが平謝りすると、ヒュギエイアは呆れ顔のままうなずいた。


パナケイア聖騎士団……

 聖騎士団とは自分たちの信仰する神へ忠誠を捧げた騎士団のこと。普通の騎士団は国王や貴族、領主へ忠誠を誓い封建関係を築くが、聖騎士団は神のみを忠誠の対象とし他のいかなる国家、組織からも独立している。自分たちの信仰に従っての活動が認められる代わりに、武具装備や兵站なども全て自分たちで用意しなければならない。

 パナケイア聖騎士団はパナケイア女子修道会が設立した組織であり、所属する騎士団員は当然、全てが女性となる。

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