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天の川は流れない。  作者: 風戸輝斗
噂は所詮、噂どまり
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16

「――残念ですが蒼崎月乃は諦めましょう」


 放課後。星空観察部の四人が部室に集まると、天は淡白に言い切った。


「は?」


 唐突な結論に意味がわからなくて腑抜けた声を出してしまう。

 蒼崎さんを部員にするのを諦めるってのは最悪の手段じゃなかったのか。


「ああ。それには俺も賛成だ」

「え、どうして急に二人とも月乃ちゃんの勧誘を諦めるの?」


 と、今朝蒼崎さんの勧誘に失敗したことも知らない撫子は、困惑に表情を歪ませながら疑問をもらす。


「撫子さんにはまだ伝えてなかったけど、今朝月乃に星空観察部に入らないかって言ったら諸事情があるからって断られちゃったんだ」

「諸事情って……月乃ちゃんどの部活にも所属してないんじゃないの?」

「そうだな。でも、諸事情ってやつが必ずしも部活に関連したこととは限らないだろ?だから俺と天はその諸事情ってやつがなんなのか探ってみたんだ」

「で、諸事情の正体を突き止めたってわけだな」


 横から口を挟むと、陽太は険しい表情を浮かべながら首肯した。


「その諸事情ってやつは公にしにくい内容なのか?」

「……公にしにくいっていうか、公にはできないような内容なんだよな」


 後頭部を摩りながら、困ったように陽太はいう。

 マジか。陽太がこんな表情をするなんて相当だぞ。


「陽太の言うように、蒼崎月乃の言う諸事情というのはとても公にできるような内容ではありません。……それでも兄さんは知りたいと思いますか?」


 冗談の欠片もない。本気の眼差しが天から俺へと向けられる。

 公にできないような諸事情。

 免許を取ったとか無断バイトだとか、校則に違反した行動だろうか。

 それとも喫煙だとか飲酒だとか、法律に違反した行動だろうか。

 ……わからない。というか信じられない。

 あの蒼崎さんがそんな悪事を働いているだなんて俺は信じられなかった。

 けど――


「ああ。教えてくれ」


 現実から目を背けるわけにはいかない。

 それに、天がなんと言おうがそれは『噂』だ。

 噂は噂であって、どれだけ足掻こうと真実には到達しない。

 だから、これから俺が天に聞くのはあくまで――可能性。


「では話しますが……覚悟してくださいね」


 忠告に頷いて話を続けるよう促すと、天はふうと息を吐き出して俺を真っ直ぐに見据えた。

 そして――


「単刀直入に言いましょう。蒼崎月乃は援助交際をしているそうです」


「え、援助交際って……」


 確か――『男女が不純な性交をすること』みたいな意味合いだったと思う。

 うろ覚えなのは、滅多に耳にすることのない単語だから仕方ないとして。


「いやいや天、さすがにそれは冗談だろ。学年では不動の人気を誇って、クラスでは級長で、俺みたいな陰鬱な奴にだって優しく微笑んでくれる蒼崎さんだぞ。その蒼崎さんが実はビッチでしたなんて話、俺は信じられないよ……」

「兄さん……気持ちはわかりますが……」


 顔を俯きがちにして、苦しそうに天はいう。

 偽りなんて感じられない感情の露呈した表情。

 それは天の口にしたことが真実であることを暗に伝えていて……。


「……陽太、本当なのか?」


 問うと、陽太は一切戸惑うことなく頷いた。


「残念ながら、天の話と俺が聞いた話はほとんど同じだよ」

「そっか……」


 噂は噂であって、それだけ足掻こうと真実には到達しない。

 それは紛れもない事実だ。

 けど『火のない所に煙は立たない』ということわざが示すように、噂が蔓延するに至ったなにかしらの要因は間違いなく存在するのだろう。

 援助交際をしている。そんな噂を誰もが鵜呑みにしてしまうような要因が……。


「……私は月乃ちゃんがそんなことしてるとは思えないな」


 無意識に醸造された沈黙を破って撫子がいう。


「月乃ちゃんって可愛いし人気者じゃん? だから、あんまり考えたくはないけど、誰かが妬んでそんなデマを流したんじゃないかな」


 嫉妬、か。……確かにその可能性が間違いなくないとは言い切れない。

 けど、その可能性は限りなく低いだろう。


「いいやそれはないと思う。仮に嫉妬が噂の発生源だとするなら、ここまで一律した話題が蔓延してるってのはおかしいだろ」

「ん? どうして?」


 と、撫子は俺の反論がお気に召さない様子だ。

 最低限の情報を伝えればいいと思ったけど、少し噛み砕きすぎたか。


「例えば、撫子が俺に嫉妬して悪口を言ったとしよう」

「私は色兄にそんなこと言わないよ」

「いや、あくまで例えだからな」


 そんなに頬を膨らませて睨まないでくれよ……。

 まあ、この素直さが撫子のよさなんだけどな。


「で、俺に嫉妬した撫子が、そうだな……『星海色はヤリチンだ』って噂を流したとして……天と陽太はその噂を信じられるか?」


 話を振られると、二人は顔を見合わせて苦笑した。


「いや~さすがに信じらんないかな。そもそも色にそんな相手いないし」

「兄さんは常に孤高を貫いていますからね」

「いや常に一人ってわけじゃないんだけど……」


 遠回しにぼっちって言うのやめてくれませんかね? 胸が少し痛みます。

 しかしまあ、孤高を貫いてるって言い回しは少しカッコいいな。

 ぼっちというよりは一匹狼って感じがしてカッコいい。結局は一人なんだけど。


「……それで色兄はぼっち自慢をしたかったの?」

「ぼっちって言うな」


 反射的に否定してしまった。人間って図星を突かれると過剰に反応しちゃう習性があるよな。文部科学省はこのことを反射の例にして教科書に記載するべきだと思う。

 ……って、そんなことはどうでもいい。


「つまりだな、仮にデマを広めたとしても普通はどこかで連絡網が破綻するんだ。星海色とヤリチン。その二つの事柄が重なるのはおかしいという疑問が生じてな」

「なるほど……でも、疑問が生じたから噂が蔓延しなくなるっていうのはおかしいんじゃない? 噂なんてもとから真偽の判別ができないものだよ」

「確かに撫子の言う通りだ。けどさ、ガセネタかも知れないって最初から思ってたんなら……普通はその噂を広めたいとは思わないだろ?」

「おおっ……そういうことか」


 ぽんと手を叩いて目から鱗の撫子。どうやら納得してくれたらしい。


「つまり……えっと、どういうこと?」

「今の納得はなんだったんだ……」


 恐ろしいな天然って。思考がまるで読めないぞ。


「要するに、噂が蔓延するってことはその噂の信憑性が高いってことなんだ。蒼崎さんの噂に置き換えるなら、蒼崎さんが援助交際をしてるって噂を、多くの人が疑わずに信じたってことになる」

「疑わずにって……普通は疑問に思うはずなんだけどなあ……」


 目をジトっとしながら不満そうに撫子はいう。


「まあ普通は疑問に思うだろうな。けど、蒼崎さんの噂は真実であると見なされて蔓延している。それはどうしてか。……これは仮説なんだけど――」


 言いながら、視線の矛先を陽太へと変える。


「――誰かが現場を目撃したからなんじゃないのか?」


 情報というものは当然だけど形をもたない。それ故に、耳にしたからといって万人が確実に理解できるというわけではないだろう。イメージはまばらなはずだ。

 しかし。もし仮に――情報源を目撃したのならば。

 象られた情報は形をもち、誰もが共通のイメージをすることができるだろう。

 そして噂は、真偽の判別がつかないものから真実へと姿を変える。

 ――なんて思い、陽太に問いかけたのだけど、


「すまんけど、そこまで詳しいことはわかんないわ」


 申しわけなさそうに眉を捩らせながら陽太は言った。


「天もわからないか?」

「すいません。私もそこまで詳しくは情報を収集してませんでした」

「そっか……」


 これで仮説が的を射てたら話がうまくまとまってたんだけど、まあ人生そううまくはいかないよな。人生なんて都合よくいかないことばかりだ。

 けど――天と陽太が情報をもたないから万策尽きたというわけではない。

 俺には一人、校内の誰よりも情報をもつ人物に当てがある。

 きっと、もう少しすれば扉が開いて――


「失礼します。色に用事あってきたのですが……」

「ナイスタイミングだ大和っ!」


 驚くほどグッドタイミングで俺の期待していた人物がやってきた。

 副風紀委員長――光ヶ丘大和。

 風紀委員会はこの学校において生徒会と同等の権力をもつ。

 だとするならば、風紀委員会は生徒会と同等かそれ以上の校内情報をもつと考えるのが妥当だろう。

 つまり――蒼崎さんの噂の真偽は大和に問えば確定する。


「ナイスタイミングって……本人のいないところで話題にするっていうのは倫理的にどうなのでしょう……」

「大丈夫だよ大和。別にいかがわしい内容じゃなかったから」

「ならよかったです。姉さんが言うのなら間違いないのでしょうね」

「いや、そもそも大和の話題なんて出してないんだけど……」


 勝手に話を進めて、勝手に納得するのは構わないんだけど、俺が話題にする=いかがわしい内容っていう偏見はどうなんだ? 

 撫子さん。放課後校舎裏にきてください。


「大和、少し聞きたいことがあるんだけどいいか?」

「ん。連絡先を教えてもらってからなら構いませんよ」

「あ、はい」


 言いながらスマホを取り出すと、大和は既に自らの連絡先の画面を公開して俺を待っていた。随分と準備のお早いことで。

 そして互いに連絡先を交換すると、大和は優しく微笑んだ。


「ありがとうございます。これで色といつでもやりとりがでますね」

「お、おう……そうだな」


 え、待って。この子、感情の起伏がはっきりするとこんなに可愛くなっちゃうの?

 これ連絡先を交換した男子の八割が恋に落ちちゃうレベルの笑顔だぞ。俺だって自然に目を逸らしちゃったし。……いや、冷静に考えたら天と撫子以外の女の子と話すとき毎回目を逸らしてるよな俺。これが孤高を極めし者の末路か……。

 なんて思ってたら天にめっちゃ怖い顔で睨まれていた。すごくこわいです。


「で、俺が聞きたいことなんだけど」

「はい。私の知る限りのことならなんでも答えますよ」


 胸のあたりを軽く押さえながら、この上なく自信に満ち足りた表情をして大和はいう。

 ああ、すごい安心感。撫子が同じ仕草をしてたら反って不安を覚えてたんだろうな。


「なら単刀直入に聞くけど――蒼崎月乃が援助交際をしてるって噂は本当か?」


 問いかけると、大和はビクッと肩を震わせて俺から一歩遠のいた。


「え、援助交際って……し、色兄はなかなか過激なことを言うのですね……」

「あ、悪い。そういうの苦手だったか」

「い、いえ大丈夫です。少し驚いてしまっただけですから問題ありませんよ」


 早口に言って、大和はわざとらしくけふんけふんと咳き込んだ。

 うん。顔が赤いし、どさくさに紛れて『色兄』とか言ってたけど、ここは敢えて気づいていないふりをしておこう。指摘したらすごい反論をされそうでこわいし。

 なんて思ってたら天にめっちゃ怖い顔で睨まれていた。二回目でもこわいです。


「それで、蒼崎月乃が援助交際をしているのかどうか、でしたよね。……結論を言うと、その可能性は極めて高いです」

「マジか……」


 大和が言い切ってしまうと、言葉の重みがまるで違う。

 俺の脳裏を泳いでいた微かな希望は、ぷちゅりと潰されてしまった。


「……そう言い切れるってことは、なにかしら明白な証拠があるんだよな」

「はい。あります」


 少しも気後れすることなく大和は答えた。


「……その証拠っていうのは具体的にはどんな内容なんだ?」


 平静を装ってはみたものの、自分の声が少しだけ震えるのを感じた。

 ……真実を知りたいとは思う。けれど、同時に真実に到達してしまうのが怖かった。

 時には知らない方が幸せな真実だってあるのだから。


「……本当に話してもいいのですか」


 そんな不安が露骨に表れていたのだろうか。

 大和は俺の瞳を真っ直ぐに見据えて問いかけてきた。

 ……なにを躊躇ってるんだ俺。真実を受け止めない限り、前には進めないじゃないか。

 気合いを入れるために、ぱんぱんと頬を数回叩いて、二、三回深呼吸をする。


「……よし。覚悟はできた。話してくれ大和」

「はい。では話しましょう」


 大和は優しく微笑みかけたあと、刹那の沈黙を生み出してから――


「蒼崎月乃の噂が真実であると言い切れる理由。それは、蒼崎月乃と(かしわ)()(つばさ)がホテルから一緒に出てきた姿を目撃して盗撮した生徒がいるからです」

「なっ……」


 そこまで明白な根拠が存在しているのか……。

 こうなってくると、蒼崎さんの噂を否定することはますます難しい。


「……でもさ、それは一度なんだろ? 援助交際をしてるって解釈するのは急に飛躍しすぎなんじゃないか」

「そうですね。たった一度の目撃情報で援助交際と断言してしまうのは無理があるでしょう」


 意外にも大和は俺の言葉を少しの抵抗もせずに聞き入れた。


「……ならどうして大和は断言できたんだ?」


 問うと、大和は腕を組んで語り始めた。


「目撃情報以外にも噂を信用するに値する情報があったからです。具体的に言うと、『柏田翼の父親が社長である』という条件と『二人は毎日昼休みと放課後にイチャついている』という二つの条件。二つを照合することで、あくまで推測の域ではあるのですが、限りなく真実に近い可能性を導き出すことができました。……それに、二人にもこの噂が耳に入っているでしょうに反論がない、ということは……つまりそういうことなのでしょう」

「それは……そうだな」


 大和の順序立てて話された説明には反論の余地などなくて。

 不本意ながらも、首肯するしか選択肢はなかった。

 それに――噂に対して二人からの反論がないという事実。

 それは、噂の信憑性を如実に物語る行動だと言ってもいいだろう。

 人間というのは不思議なもので、虚偽の噂には激しく抗弁する癖に、真実の噂には黙認を決め込んで反論の一つもしなくなる。この行動は、真実で、核心を突かれているからこそ、傷口を広げないためには口を挟まないことが得策だという思考の上に成立したものだと俺は思う。つまりは否定こそがなによりの肯定なのだ。

 ――けど。


「……でも、やっぱり俺はその噂を信じられないよ」

「これだけ条件が揃ってるのにか?」


 と、問うてきたのは話を黙って聞いていた陽太だ。

 ……気のせいだろうか、言葉には少しだけ怒気を含んでいるように感じた。


「だって……やっぱりおかしいだろ。蒼崎さんがそんなことをしてるなんて」


 思っていることを正直に告げると――陽太は強ばっていた表情を緩めて、乾いた笑顔を浮かべた。


「……すげーな色は。あんだけの現実を突き詰められてもまったく諦めてないんだもんなあ……よし決めた。俺は月乃が援助交際なんてしてないってことに賭けるぜ!」

「賭けるぜって……陽太は賭博でもしてるんですか……」


 自信満々に宣言した陽太を見て、呆れたように天がいう。


「……けど、陽太の言ったこと自体には私も賛成です。ライバルが消えて美味しい話だと思って鵜呑みにしていましたけど……冷静に考えたら蒼崎月乃が倫理に背いた行為をするわけがありませんよね。悔しいですが、優しくていい人柄をしてますし」

「なにを悔しがってるんだお前は」


 ライバルが消えてってなんだよ。俺を巡ってヒロインレースかなんか起きてんの?

 天がいる限り、ヒロインレースで優勝したとしても最後はBADエンドになりそうで怖い。いい加減、兄離れしてください。


「色兄はモテモテだね~……私も混ぜてもらおうかな」

「あのな……俺は具材なんでもOKのたこ焼きの皮じゃないんだぞ」

「ふふっ。知ってるって知ってるって。冗談だよ冗談」


 愉快そうに笑いながら、撫子は俺の背中をばっしんばっしん叩いてくる。


「ちょっ! 撫子……た、タイムッ! タイムッ‼」

「なにを言うのさ色兄。……時間は止めどなく流れてるんだぜ?」

「そんな名言チックな言葉期待してねぇよっ! ぐへっ!」


 力加減という言葉を知らないのかお前はっ!

 こんな痛いの、父さんに酔っ払った勢いで叩かれたとき以来だぞ。


「よし! これでおっけーだね!」

「なに? 悪魔祓いでもしてたの?」

「違う違う。私の思いの注入が完了したんだよ」


 お前の思いはどんだけ重いんだよ……。

 俺の蔑むような眼差しを受け流して撫子は続ける。


「色兄。私もね、月乃ちゃんはえん……えっと……炎上交際だっけ? なんてしてないと思うよ。けど……私は頭が悪いから、いざ助けるってなったとしてもあまり力になれないと思うの。だからね、私の月乃ちゃんを助けたいって思いだけでも色兄に送っておこうと思ったんだ」

「撫子……」


 そっか。そんな理由があって、俺の背中を馬鹿みたいに叩いてたのか。

 あれは――撫子の蒼崎さんに対する思いの大きさだったんだな。

 それを理解すると、背中の『痛み』が『優しさの熱』へと変化したような気がした。

 まあ、どっちも熱く感じるから捉え方の差なんだろうけどな。

 そんな感情に浸っていると、撫子が無邪気な笑顔を浮かべながら、俺の胸へと拳を突き出してきた。


「私と大和を救ったみたいに、月乃ちゃんのことも救ってあげてね!」

「はは……ヒーローかよ俺は……」

「なにを弱気になっているのですか。色は私たちにとってヒーローのような存在なんですよ? もっと誇りをもってください」


 嘲笑していたら大和に怒られてしまった。え、そんな怒られ方ある?


「……なあ天。これってこの部を設立した目的をほぼ達成してるんじゃないか?」


 陽太は俺を一瞥すると、得意げに眉を釣り上げて天に問うた。


「ですね。大方目的を達成していると言っても過言ではないでしょう。ですが……」


 言いながら天は視線を俺の瞳に向けて、


「見返りがなにもないとしても、兄さんは蒼崎月乃を助けるのでしょう?」


 瑠璃色の瞳が爛々と輝く。その瞳は既に俺の答えを知っているかのようで。


「勿論だ。『俺たちで』蒼崎さんを助け出す!」

「はい。そうしましょう!」


 天は俺の言葉を聞いて満足そうに笑った。


「けどまあ、実際は月乃の意思がどうなのかはわかんないけどな」

「ちょっと陽太くん! そんな水を差すようなこと言っちゃダメだよ!」

「いいえ姉さん。冷静に考えれば陽太の言う通りですよ」

「大和までっ⁉ いや、ここは勢いってもんがあるじゃん⁉」

「あー、あくまで『蒼崎さんが援助交際をしていなかった場合』を想定して話すけど……大和も少し強力してくれるか?」

「はい。私の可能な範囲でなら強力しますよ」

「ありがとう。……じゃあまずは決行の日時なんだけど――」


 それから俺は、5W1Hに沿ったわかりやすい説明を意識しながら、自分の作戦を口にした。計画を立てるのだけは異常に早いんだよな俺。

 撫子と大和の問題解決のための作戦は真音先輩と二人で練ったから滞りなく話が進んだけど、さすがに五人で作戦を練るとなるとそうはいかない。

 意見を出して――問題点を指摘して――却下。

 また別の意見を出して――問題点を指摘して――却下。

 そんなサイクルが何度も続き、最終的に五人の意思が合致した作戦は、俺が初期に想定していたものとはまったく概要の異なるものだった。


「……これでいけるか?」

「はい。臨機応変にアクションを変えることにはなるでしょうけど、とりあえずはこの計画を基盤にしていきましょう」


 天の言葉に誰もが首肯し。

 こうして本日の星空観察部の活動は幕を閉じた。


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