リュークス・アレキサンダー
俺の名前はリュークス・アレキサンダー。アンドロス王国アレキサンダー公爵家の嫡男だ。父親はテキロス、母親はキャサリンだ。俺が生まれてから三年、初めての男児ということで甘やかされている。公爵家の跡取りとしても期待されている。そんな俺が唯一不安に思っているのが、俺が十六歳になったら死ぬかもしれないということだ。
かもしれないというのはこの世界のことがまだあまり分かっていないからだ。何せまだ三歳なので常に使用人に見張られている。あまり変なことはできない。そのためこの世界が俺が前世でやっていたゲーム『アリシティ・オブ・ファリア』なのか確証が持てていない。いきなり何の話だと思うだろうが俺だってそう思う。俺が生まれたての時は混乱してしょっちゅう泣いていたもんだ。
俺の前世についてだが、平凡な会社員でオタクだった。名前は思い出せない。享年三十二歳、死因は分からない。趣味はラノベを読むこと。妻はおらず一人っ子、親は存命だった。
この紹介だとまるでラノベの主人公だが、現代日本には俺みたいなやつがゴロゴロいただろう。その中から選ばれて転生したのがこの俺だ。人生で一番の幸運と言っていいだろう。死んでからの話だがな!....寒気がしたぞ。こんなんじゃ誰も笑わないか。
さてこの世界の説明だが、今のところ推測でしか話せない。ゲームとあっているといえるのが俺と親の名前そして国の名前しか分からないからだ。そこまであっていれば『アリシティ・オブ・ファリア』の世界だと言うやつがいるかもしれないが、まだたまたまという可能性があるだろう。いいじゃないか希望的観測でも!!希望を持つことの何が悪いんだ。
なぜ俺がこんなに往生際が悪いかというと、俺が転生したリュークスは先に言った通りゲームでは死ぬ運命にあるからだ。
『アリシティ・オブ・ファリア』というゲームの主人公はアンドロス王国トドロス男爵家嫡男アトラス・トドロスだ。ストーリーはアトラスが勇者として魔王と魔神を倒してハーレムを築いて終わりなのだが、リュークスは中ボスとして出てくる。
ゲームはアトラスが学園に入るところから始まる。学園は国中の貴族子女が通うところで、十四から二年間在籍する。おもに人脈を築いたり基礎知識を学ぶところだ。魔王が攻めてくるのは卒業の前でそのころには勇者と呼ばれるようになっている。この国で勇者と呼ばれる条件は聖剣を召喚すること。そしてアトラスが初めて聖剣を召喚するのがリュークスと戦うときである。なぜリュークスと戦うかと言えばリュークスが魔王側についたからだ。しかしアトラスはリュークスを何とか改心させようとするがある言葉を言われて聖剣を召喚しリュークスを殺めてしまう。その言葉が「お前の母親のように殺してやろう」という言葉だ。リュークスは子供のころお遊びでアトラスの母親を殺しているのだ。もちろん当時は問題になったが権力で何もなかったことになり、幼いアトラスには事故死として伝えられていた。リュークスがなぜ許されたのかというと、魔王が近々蘇ると予言が出ていた中で神童として名をはせていたからだ。未来の勇者ではないかと言われていたリュークスは調子に乗り努力もせず気分で人を害していた。
というストーリーがあったりする。説明なげぇと思ったろう?そうなのだ。このゲームとんでもなく長いのだ。一周するのに数百時間かかるのだ。その代わり神ゲーだったが、暇を持て余していた俺でも一周して力尽きた。
じゃあお前が魔王倒せばいいじゃんと思った君!そうはできない理由があるのだ。魔王と魔神は聖剣でしか倒せないのだ。攻撃はできるが完全に倒すには聖剣が必要になってくる。じゃあお前が聖剣召喚すれば?と思ったそこの君!これにも理由がある。その理由は俺が面倒くさいということだ!立派な理由だろう?だって公爵家の跡取りとしての仕事のほかに勇者になれるまでの努力をしなきゃいけないとかめっちゃ疲れるじゃん。そんなんやりたくないよ。まぁ待て、もちろんちゃんとした理由もある。聖剣を召喚するためには勇者の子孫でなければならないのだ。初代勇者は相当な遊び人だったのでそこら中に子孫がいるが、さすがに公爵家には手を出さなかったらしい。じゃあ死ぬの?何なの?と思ったそこの君!大丈夫だ!おじさんにもちゃんと考えがある。やはり何といってもゲームだからな。蘇生方法があるのだ。方法は三つ。一つ世界樹の葉を原料として作るポーション。二つ不死鳥の羽を利用して再生する方法。三つ聖女による蘇生魔法。
俺が使おうとしているのは二つ目の方法だ。一つ目はリュークスは聖剣で真っ二つにされるのでポーションが飲めない。振りかけるだけでもいいかもしれないが、それで出来なかったら嫌なので一つ目は却下。三つ目の聖女はもちろんハーレム要因だ。つまり俺を生き返らせるわけがないし、蘇生魔法が使えるようになるのは学園を卒業してからだ。間に合うように俺が鍛えたとしたら勇者についていかなくなるかもしれない。それでは世界が滅んでしまう。回復要因というのはそれだけ大事なのだ。
まぁなんだ、俺が一回死ねば丸く収まる話である。俺は一度死んだ身。もう一度ぐらい世界のために死んでやろうじゃないか。