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プロローグ

広大な皇宮の中を、一人の少女が歩いていた。

ツインテールの黒髪に、燃えるような紅い瞳をした少女。歳はおよそ17ほど。

どこか向かうところがあるのか、急ぐようにして少女は足を前に進めていた。

魔法省 地下二階 連絡通路


カツッ カツッ カツッ


魔法の光で照らされた地下道に、私の靴が床を叩く音が響く。

 

上司からの急な呼び出しを受けて、私はある場所へ向かっていた。


地下道をずっと歩くと、最奧の向こうに扉が見えてくる。私の目的地は、この奧。


扉の前には警備兵が二人、槍を構えて立つ。


この扉の先へは、魔法省の中でも限られた人間しか入ることができない。もちろん、私はその限れた人間の一人。


警備兵を恐れることなく、私は扉の前に歩み寄っていった。


「おはようございます。扉の先へ通行されることをご希望で?」


「はい。計画執行委員の一人、ネリ=リーンズバークです」


「申し訳ありませんリーンズバーク様、お手数ですが通行許可証をご提示願います」


「ああ、そうでしたね。ここを通るには、アレを見せないといけないのでした。・・・ここを通るのは久々なこととはいえ、このやりとりはもう何十回と繰り返しているのだから、そろそろ私の顔に免じて通してほしいところなのですが」


「申し訳ございません、規則ですので」


そう言われては仕方ない。私のような魔術官僚も、何かにつけてよく使う言葉だから、私も従うしかない。 

 

「はい、これでいいですね?」


私は首にぶら下げておいた白い結晶をローブの外に出すように取り出し、兵士の目の前に提示した。


「ご協力ありがとうございます、リーンズバーク様。どうぞお通りください」


兵士二人はそう言うと、歯車仕掛けの機械のように素早くわきに動いて、扉を挟む形で向かい合い、私の通り道を作った。


私は結晶をローブの内にしまいこんで進み、扉を開いた。




扉の先に続く細い廊下を抜けると、広い議事堂に到達する。


そこに立ってまず目に飛び込んでくるのは、堂内に浮かぶ巨大な丸い結晶。 


あわく輝く白い光をまとったその球体は、まさにここが帝国領域内の魔法を司る場所であることを、ありありと示している。


そしてその球体にぼんやりと映し出されているのは、また別の球体・・・青と緑、そして砂色と白色が表面に散らばっている、丸い星の姿。


水と緑に覆われた、見るも美しいこの姿。私たちの住むこの星も、天上から眺めればこのように綺麗な姿を見せるのだろうか。 


美しい・・・このあまりにも美しい星こそが、私の今の“仕事”に最も関わっているもの。私たちの最後の希望。


「ずいぶんと遅かったじゃないか」


後方から男の低い声が聞こえる。


「まだまだ、自分の職場の地理を把握し終えていないのかな? リーンズバーク君」


「申し訳ありません、委員長殿」


「まあよい。どうせ明日からしばらく、こことはお別れになるのだからな。帰ってきたときにまた覚え直せばいい」


・・・彼の言うように、無事にここに帰ってこれればいいのだけど、そんな保証はどこにもない。 


そんな私の不安を知らない様子で、彼は結晶球に映し出されているあの星の方を見つめながら、私に尋ねた。


「君はあの星をどう思うかね?」


「結晶球に映る姿を見る限りは、大変美しい星であると思います」


「ああ、そうだな。実際にあの星に降り立った際も、同じく綺麗な姿を見せてくれると嬉しいのだがね」


彼は星に当てていた目を私に向けて、変わらず低い声でこう続けた。


「・・・なにせ、あそこが明日から君の職場となるのだからな」


「はい、私もそう思います」


「君の担当領域は、確かあの島国だったね?」


委員長が指を指したその先には、巨大な大陸の東方に小さく浮かんでいる、四つの島で構成された列島が見える。


「はい。この島にどのような国があり、どのような人々が暮らしているのかさえまだ分かりませんが、夜に放たれる光の強さを見る限り、強大な文明国が存在していることは間違いありません」


「そのような国を我が帝国の味方にすることができれば、我々の抱えている問題も多くが解決するだろうね」


彼は溢れるような笑みを顔に浮かべ、指差した島を見つめていた。

その笑みには、どこか政治の気配が潜んでいた。


「一国と一国を繋ぐ外交は私の手に余ることです。私の仕事はただ・・・」


「あの星に飛んでいった神具を捜索し、回収すること  だな」


「はい」


「こちらに留まった神具の破片を解析する限りでは、あの島にはいくつかの神具が転移した可能性が高い。他に省の者の派遣を決めている候補地はいくつかあるが、その中でもあの島は中々に重要度が高い場所だ。そこに入庁3ヶ月目の君を送るということは、いかに他官庁に比べ実力重視を自負する我らが魔法省とはいえ、非常に異例なことなのだ。しかし君、この事実から分かってもらいたいのは、どれだけ我々が君を高く評価しているか、ということだよ」


「心得ております」


私は、声に張りを含ませることを意識して続けた。


「神より授かりしこの光栄ある任務、必ずや成し遂げてまいります」


口元を鋭く結び、目元に力を込める。私の表情に、迷いはなかった。


「期待しているよ。皇帝陛下のために、我が帝国のために、人類のために、そして神のために・・・必ず神具を回収して戻ってくれ」


「・・・して、委員長殿、ここに呼び出された用件とはいったい・・・・」


「ん?  ああ、そのことか。なあに、別に新たな仕事を与えるために呼んだんじゃない。ただ明日旅立つ君に激励の言葉を送りたくてな、こうして呼んだってわけだ。本来であればワシの方から君のもとへ出向くべきなのだがね、生憎こちらも仕事が次々と舞い込んで手が離せなくってな」


「左様でしたか、お心遣い感謝します」


「さて、ワシはそろそろ仕事に戻らないといけない。君も旅立つ前にやり残すことのないようにしておきなさい。あっちに行ったらしばらくは帰ってこれないだろうからな。それと、通信鏡は忘れんように。あちらの情報は逐一報告してもらう必要があるからな」


「はぁ」


「では、ワシはこれで失礼するよ」


言うべきことを言い終えたといった雰囲気を作り出して、彼は静かに議事堂を後にした。 


私はしばらくその場に佇んで、ふと思い出したようにあの結晶球の中の青い星を見つめる。


あまりにも広大な大陸のそばに、ひっそりと浮かんでいるあの島。


明日、私が転移することとなるその島には、いったいどのような光景が広がっているのだろうか。 


いったいどんな人たちがいるのだろうか。 


私は、受け入れてもらえるのだろうか。


様々な期待と不安が心の内を交差し、私の顔は複雑な表情を作った。


しかし、私がこれから行うことは人類のために為すことなのだ。


人類を破滅の運命から救い出し、世界に平和をもたらすために為すことなのだ。 


私は決意を胸に抱いた。心に生じた不安は消し去られた。



必ず、あの島から神具を回収する。



結晶球に映るその島を強い眼差しで見つめながら、私は自分の為すべきことを為すと誓った。


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