序章
窓は板で閉じられた上にカーテンを閉め切られ、玄関は固く鍵をかけられている。
屋敷の中は昼なのか夜なのかもわからない。時間がどれほど過ぎたのかも、感じることが出来なかった。
陽の光の一片も届かない部屋は、ねっとりと絡みつくような闇に包まれている。
部屋に置かれたベッドの上で、男はじっと天井の一点を見つめていた。
落ち窪みくまが酷い目だけが、瞬きもせずにぎょろりと輝いている。まるで彼の瞳だけがこの部屋で唯一の光源となっているようだった。
意識すらも闇に飲まれていきそうな空間の中で、彼はただただその存在を信じて待っている。
ずるり、ずるり、と部屋の周りで何か引きずるような音が聞こえた。
胸元で組んだ男の手が、きゅっと強張り震える。
期待からだった。
ずるり、ずるり…その音に被せるようにもう一つ音が、否、声が聞こえる。
囁くような、吐息のような、焼けた器官に空気を通すような、苦しげな声だった。
「つつつ、つつつつつ、つつつつ」
意味のない、単語ですらない声。
男はああ、と息を吐く。
そこにいる、そこに確かに彼女はいる。
寒気に震える男の鼻孔に、ふと何かがかすった。
苦いような甘いような、何とも言い難い焦げた臭い。
どこからともなく漂うそれが、闇と混ざり合うように部屋に充満し始める。
焦げる、
焦げる、
焼ける、
混じる、
焼ける、
焦げる、
焦げる、
「混じれ」
ぬるりと白い影が、男の前に現れた。
彼の顔は、狂喜に歪む。
「つつつ、つつつつ、つつつつつつ」