秋をお裾分けした男
天高く馬肥ゆる秋
ようやくそんな言葉がしっくりと来る様になった。
陽射しも柔らかく、昼間の風が肌に心地良い。
男は、自転車に跨がり
銀杏並木の街なかを快走した。
一件の用事を済ますため
男は、自転車を降り
目的地まで歩き出した。
並木の下には、早くも銀杏の実が落ち
あの独特の秋の香りを漂わせていた。
男は、並木近くのビルの地下に降りた。
独特の秋の香りは、ビルの地下に降りても
消えることは無かった。
むしろ、並木歩道よりも強く香る気がした。
男は、地下のベンチに腰を下ろし
所用の前に、自らの靴の裏を覗いた。
地下に広がる秋の香り。
男に踏まれ、潰れた銀杏の実が
訪れた秋の気配を、より一層際立たせた。
男は、地下街を行く人々に
秋をお裾分けした。