英雄は恐怖する、ザ・フィアー
「いいですか?絶対に手を出さないでくださいね!あくまであなたは僕の後輩なんですから!僕の指示には従ってくださいね!」
将太の言葉に適当に相槌を打ちながら、英雄は怪人の現れたと思しき場所へ徒歩で向かう。無頼骨なる全身鎧を着ているため、周りからは奇異の目で見られている。英雄の鎧は将太のものとは違い、赤がふんだんにちりばめられている上に、2本のアンテナが前頭葉に付いているのですごく目立つ。なんならさっき小学生にサインを求められた。書かなかったけど。
歩きながら、英雄は先ほどマキに言われたことを反芻する。曰く「この無頼骨は君の体格に合わせたものにしてはいるけど、運動能力や特殊能力についてはまだまだ分かってないからデフォルトの設定にしている状態だ。だからこそ戦闘データを取得することで、真に君にフィットした無頼骨が完成するというわけさ!さあ着て行ってくれ!そして私にもっとデータを!」らしい。多分最後の一言こそがマキの本音何だろうなぁと英雄は考察している。
なお徒歩で向かっていることについては、こんな悠長な感じでいいのかと将太に尋ねたところ、ヒーローは遅れてくるものだとテレビで言ってたとか何とかで、やっぱコイツ狂人だなぁと英雄は思った。それと同時に、何処からともなく攻撃ドローンを取り出し、空へ飛ばし、前々回に出した拳銃と同じ効果の弾丸を射出。先回りで怪人を消滅させておいたのだった。
そう、実は現場に向かう必要がないのだ。なんなら今後は町の監視カメラやSNSなどを通じてドローンが怪人を自動で認識し、現れた途端にぶっ殺してくれるので、出撃の必要すらなくなったのである。じゃあなんで現場に向かっているかというと、自分がやったこととバレたくないからである。折を見て、怪人居ないなぁと呟き、マキに住民票を発行してもらった時点で3勢力を解体。もうヒーローとかいらんよねと言っておさらばするつもりなのだ。
「・・・いないな、怪人。普段ならもっとこう、暴れまわってるんじゃあないのか?」
現場に到着後、特に異常のない街並みを見てから、英雄はかねてから温めておいたセリフを言う。あとは将太の帰りましょう待ちなのだが
「ここら一帯の人間を全部食い散らかした後かもしれないですね」
狂人に遠回しな言い方は通じない。英雄は心の中で凄く顔をしかめた。
「そしてここら一帯の人になり替わって潜んでいるんだ死ねぇ!!!!」
「やめろバカ!!!」
ごく自然なムーブで周りの人を範囲攻撃で惨殺しようとした将太を、とっさに防御魔法で止める。急に使ったからか、魔王クラスの攻撃ならビクともしない障壁にヒビが入った事に英雄はちょっぴりショックを受けた。
「離してください!僕は全ての怪人をぶっ殺さないと死んじゃうんです!ちょっとだけ!ちょっとだけなんで!」
「どんな理屈だ!!」
次々と周りに範囲攻撃をばらまくヤバい奴に対し、全力の範囲防御魔法で英雄は迎え撃つ。自分一人を狙うなら、何処からともなく出せる鎖でどうとでもできるのだが、今度の将太の狙いは英雄以外。鎖で捕えても、そこら辺の石ころ一つで5人は殺せる殺人マシーン。となれば後手で守りに入るしかなかったりするのだ。周りは魔法の華麗さと将太のアクロバティックな動きに、ストリートパフォーマンスでも始まったのかと集まり始めて守るものが多いし近いしもう人類一番の脅威ってコイツなんじゃなかろうかと英雄が頭を抱えたとき
「ええい!邪魔立てするなら仲間とて容赦はしません!!いまだ必殺!超暗黒狗脚!!!」
将太が標的を英雄に変えた。だがその攻撃はどう見ても拳!
「甘い」
大ぶりの拳を躱し、勢いそのままに空へと投げ飛ばす。
そして
「これで終わりだバカ野郎」
空中を浮遊していたドローンにぶつけてフィニッシュ。元より魔王を、下手すれば魔神がけしかけてきた弱めの幹部クラスなら消し飛ばす弾がしこたま搭載されていただけあって、派手に爆発した
マキには一般人を襲おうとしたから止めた。上に投げたらいきなり爆発した。彼の死は非常に遺憾である。とか言っとけばいいかと、感情が壊死しているとしか思えない思考に英雄が至った辺りで
「っひゃー、死ぬかと思いましたよー」
将太が、戻ってきた。鎧こそ消し飛んではいるが、無傷で。
英雄の喉奥が、ヒュッ、と鳴った。
消し飛ばす弾の正体は、超小型のエネルギー圧縮弾である。このエネルギーは生命力や電力、果ては宇宙創造にすら使用することが可能であり、対象にぶつかることで過剰なエネルギーを注入。耐え切れなくなった相手が消し飛ぶという、空飛ぶリボルケインである。これが通用しない相手は主に2種類。エネルギー許容量がべらぼうに高い奴と、そもそもエネルギーが体をすり抜ける奴だ。
そして将太は恐らく前者。しかも一発のみならず、2桁後半、下手したら3桁に届く量のエネルギー圧縮弾を搭載したドローンにぶつかってこれなのだ。
英雄は一昨日ぶりに恐怖を感じていた。魔神王にとどめと踏んで撃った全力攻撃が通用しなかった時くらい怖かった。
「うーん、周りの反応を見る限り、本当に怪人はいなさそうですね。じゃあ、帰りましょうか」
「お、おう」
将太の言動にビクビクする英雄が、「ギャグキャラ体質」なる恐るべき能力を知るのは、もう少し後のことである。