英雄が戦う、エンカウントエネミー
「全くもう!博士の寛大さに感謝してほしいところですね!でなけりゃ僕がぶっ殺してましたよ」
少年・・・将太がぷりぷり怒りながら道案内してくれる。なんだろう、発想こそぶっ飛んではいるが、根はいい子なのかもしれないと、英雄は心のどこかでそう思った。また、さっき聞きそびれた鎧の話については研究所で聞こうと心に決めた。こいつに聞いたら絶対盛って話すもん。
「ちょっと!聞いてます?僕はね、超エリートなんですよ」
「聞いてるぞ。着任その日に怪人から町を救ったんだろ?すげぇじゃねぇか。まるで・・・」
まるで召喚されたばかりの俺みたいに、と口から出かかり、英雄は慌てて言葉を濁す。あんまり人に言いふらしていいことはなさそうだからだ。
「・・・まるで正義の味方だな」
「ふふふ!まるでじゃなくて、本当に正義の味方なんですよ!」
幸いさっきよりも頭は回っているようで、あっさり軌道修正できた。将太もご機嫌だし、正義とは何ぞや問答なんてしたくなかったのでこのまま行こうと
「キャー!!」
そうは問屋が卸さなかった。遠くから聞こえる女性の悲鳴。将太を見ると既に変身を完了し、なんだったら走り始めてる。並走することもできたが、流石に生身の人間とヒーローが一緒に走っているのは見栄えがあれかなと、常識的な範囲の速度で走ることにした。
英雄が現場につく頃には、将太と敵の死闘が繰り広げられていた。敵の大きさは恐らく英雄の2倍。二足歩行の巨大なハイエナは、確かに怪人というに相応しい体躯をしている。女性は・・・いた。が、足が折れているようだ。這いながら逃げようとしてる。他に人はいない。こんな激しい戦闘が行われているのだから、逃げるか。などと、英雄は至極冷静に判断した。
「でやぁ!」
そうこうしているうちに、将太のハイキックがハイエナ怪人の頭に決まる。蹴ったところが爆発し、一見すれば倒したようにも見える。
「やった!」
将太が完成の声を上げるが
「ぎっ・・・!」
ハイエナ怪人の撃ち下ろしが将太の頭に決まる。まだ敵は健在だ。
アスファルトを何度か跳ねながら、将太が転がる。まだ息はあるようだが、気を失っているのか立ち上がらない。仮面ってこういう時不便だなと、英雄はけだるげに思った。
辺りからは人が逃げていない。女性並びに将太のピンチ。一応どこからともなく出した、昔見たヒーローのお面を被って
先ほど出した拳銃で、ハイエナ怪人を撃ちぬいた。ハイエナ怪人は爆発四散。
え?怪人相手にチートを使った楽々大立ち回りがないって?そらそうよこれギャグカテだぜ?
「あとは・・・うん」
あまりの光景にあっけにとられる女性の足に、回復魔法をかければあら不思議。たちまちのうちに元通り。驚く女性と目線を合わせ
「・・・あ、俺のことは他言無用でお願いな?こっちのちっこいのに助けて貰ったことにしてやってくれ」
人差し指で内緒のポーズをしながら、英雄は声をかけた。仮面で顔は見えぬとも、声からしてやべえイケメンだと知覚した女性は、首を何度も縦に振ってから、若干にやけ顔で走り去っていった。治ったとはいえ、さっきまで折れてた足で。みんな元気だ敵はいない。これでミッションコンプリートと
「よし」
「よし・・・じゃないですよ!!!なんですか今の戦い方は!」
満足げに頷いた英雄は、将太に怒られた。
「ヒーローはもっと、かっこいい感じで戦わないと!徒手空拳で行くべきでしょ!」
「バカめ、敵の手のうちが分からん以上、ステゴロなぞ愚の骨頂。全力を出して来る前にこっちが全力でやらねば死ぬぞバカめ。実力を見誤ると今回のようになるんだバカめ」
戦闘の厳しさを教えないとこういう人間はすぐ死んじゃうからなあと、英雄は戒めて言ったが
「あー!バカって三回も言いましたね!バカっていう方がバカなんですよ!大体、あの程度の敵に僕が遅れを取ると思いましたか!博士が僕に彼の能力が見たいって言って超電スマッシュの出力を絞らなければ勝てたんですよーだ!」
将太は方向性の違うバカだったらしい。なんだろ、今までの言葉から彼の異っていることが本当か嘘か分かんなくなってきたのだ。
「そういう内々の話をさらす時点でお前はバカだよ間違いなく。あと普通に気絶はしてたろお前。せめて受け身は取れよ」
英雄はあきれながらも、一歩間違えれば大惨事に繋がるような指示を出す博士は一体何者なんだろうとちょっと気を引き締めたのだった。