英雄は帰る、ニューゲーム。
「遂に・・・遂に帰ってきた・・・!!」
久々のアスファルトの感覚。蒸し暑い夏の日差し、鳴りやまない喧騒、町行く人々の姿、めっちゃ車。
まさしく現代日本を代表するような風景に、英雄は涙を禁じ得なかった。彼の服装は異世界チックな鎧姿から、カジュアルなジャケットと黒のボトムスにチェンジしていた。どこからか服はサービスで変えておきましたーという黒い声が聞こえてきそうな気がしたが、そんなことを気にする暇は英雄になかった。
まずはコンビニで買い物だと英雄はどこからともなく財布を引っ張り出し・・・違和感を覚える。
現在英雄が使った技能は、異世界転生によくある個別チート技能「どこからともなく」であり、任意のものを手元へ移動させる能力なのだが、これを使えるということはもしや・・・
そこまで思い至った英雄は建物の陰に隠れて跳躍。やはりというべきか、英雄はビルの5階に相当するところまで飛び上がった。そのまま浮遊魔法を使ってみると、ホバリングでき
「うわぁ」
英雄はげんなりした。面白おかしく生きるために必要なのは財力であって、こんなおもしろパワーはいらないのだ。確かにどこからともなくは私生活でも便利かもしれない。家の中で携帯どこに置いたっけと探す必要はないからだ。でもそれはちゃんと家の中を綺麗にするか、決めた場所に置けば解決する話であって、必須な能力ではないはずだ。おおやけになったら絶対面倒事に巻き込まれる。そう確信した英雄はゆっくりと人気のない場所に降り、財布の中身を改めて確認した。
黒いキャッシュカードが一枚と、一万円札が十枚、千円札が二枚、小銭がいくらか、そしてライフカードが一枚。
「うわぁ」
英雄は酷くげんなりした。ライフカードは向こうで言うマイナンバーのようなものであり、異世界マルファニアでは五歳くらいの子ども以上であれば誰でも持ってる万能カードである。名前も年齢も経験値も魔法の習得も全部これ一枚でできてしまう。
恐る恐る見てみると、魔神王撃破の経験値こそ入っていないが最終決戦時と変わらないステータスがそこにあった。
これも他人に見せないぞと心に決めて、財布の奥底にしっかりしまい、家を建てたら金庫の奥底に封印しようと心に決めたところで
「あのぉ」
声をかけられた。若い男性の声だ。少年と言っても差し支えないかもしれない。心臓が飛び出そうになるが、もしかしたら自分ではない可能性もあるので黙って歩き去ろうと
「さっき空飛んでましたよね?」
自分のことだ。ダメだ、この世界で人は飛ばない。どうにかしてこの場を切り抜けなければいけない。英雄は魔神王からの全方位攻撃を如何にして躱すか考えたときと同じくらいの思考スピードで頭を働かせ
「な、なんだ?飛んでちゃダメなんて法律ないだろ?」
精一杯の、言い訳であった。凄く無理がある。こんなの通るわけがない。なんであの攻撃躱せて言い訳の一つも出来ないのだろうと己の無力さに苛まれ
「確かに」
通った。言い訳が。流石俺じゃんやっぱ最強。てか容姿見たらやっぱ子供じゃんちょろいもんだなどとうぬぼれつつ、じゃあ俺はこの辺でと歩みを進めたとき
「でも、怪人ですよね?」
少年が、変身した。今が夜なら周りに溶け込めそうなほど黒い鎧に身を包んだ少年。違うぞ、そんなわけないじゃあないか、こんなにもイケメンなお兄さんだぞ、と言葉を発するよりも先に、英雄がさっきいたところを少年の蹴りが通った。
「あぶなっ」
正体不明の攻撃をまともに受けるほど、英雄は慢心していないし、攻撃してきた相手に対しての慈悲も、英雄は持ってなかった。
「動くな」
英雄の言葉と共に、少年の体が鎖で拘束され、英雄はどこからともなく拳銃を取りだした。
「さて、いきなり攻撃してきた理由、聞かせてもらおうか」
笑顔の英雄は、なんか滅茶苦茶怖かった。