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ディスタンス  作者: ぷかぷか
9/10

 あくる日の日曜日。昼間は出かけて気分転換をしよう。色々考えてもしかたがない。


 お気に入りのS谷のカフェを思い出した。あそこに行こう。


 ゆっくり部屋を片付けてから身支度をしてアパートを出た時は11時だった。


 S谷まで40分乗り換えなしで行けるので、電車の中でゆっくりしよう。乗り込んだ電車はあまり混んでおらず、空いた席に座った。


 手持ち無沙汰だったのでスマホをだしてみたら、ラインが入っていた。


「あら、ラインだ。気が付かなかった」


 ウルフからだった。


「こんちは、ルルちゃん。今、いいかな?」


「こんにちは。ウルフさん」


と打ち込もうとしたら、急ブレーキがかかって進行方向に体が持っていかれた。


 な、なに??


 いきなりのブレーキに、乗客もざわついた。倒れた人もいる。


 異様な雰囲気に、たちまち不安になる。


 幸は車内放送が聞こえない。周りのざわめきをみて何かがあったと察するが、何かがわからない。


 ウルフさんには悪いけれど、ラインどころではない。メモのアプリを起動させた。


『私は耳が不自由です。車内放送がわかりません。

 何があったのでしょうか?』


とスマホに打ち込んだ。


 できれば若手の人のほうがいい。スマホになれていそうだから。

 隣を見ると、ちょうど30くらいの男性だったので、意を決してその男性に会釈してスマホの画面を見せた。


「あ、ああ。えっとね。ちょっとかして」


慣れた様子でスマホにフリック入力してくれる。


『この先の踏切で事故があったんだそうです。

 しばらくお待ちくださいと放送がありました。

 どのくらいかかるかわかりません』


「ありがとうございます」


「いえいえ」



 踏切事故?電車と何かの事故?人?それもよくわからないのだけれど、この人もわからないのだろう。


 とりあえず、遅くなりそうだなと腹をくくった。


 こういうときはTwitterを見るに限る。もう情報も上がっているかもしれない。


 Twitterをみたが、先ほど聞いたことと同じツィートが並んでいた。


「あ、ライン……」


 慌ててウルフのラインを起こす。


「こんにちは、ウルフさん。今、電車に乗ってるんですが、事故で動かなくなりました」


「え? ルルちゃん、電車乗ってるの?」


「ええ、ちょっと息抜きにカフェでも行こうかなと思ったんですが。運が悪いですね」


「大丈夫か? 一人?」


「ええ」


「ルルちゃん、おこらないで聞いてくれるか? あ、ラインだったら読んでくれ、かな」


「なんですか、藪から棒に?」


「あのさぁ、一人で大丈夫かな?」


「どういうことですか?」


「俺ね、気が付いたんだ。

 ルルちゃん、もしかしてさ、耳が聞こえない人なんじゃない?」




え……。

声にならない息がヒュッと漏れる。




 思わずスマホを落としそうになった。頭が真っ白になった。


 どうして? なんでわかったの?



「ルルちゃん? おーい?」


「ビックリしました」


 震える指でフリックする。


「いやさ、俺もビックリしたんだけど、もしかしてルルちゃん、聞こえないから会いたくなかった?」




「えと…反応がないと、ちょっと困るんだけど、いや、おこっちゃったのかな?」


「いえ、怒ってませんが、本当にビックリして。なんて書いていいかわからなくて」


「無理に聞こうと思わなかったんだけど、あのさ、だからさ、放送とか聞こえなくて困ってるんじゃないかと思ったんだよ」


「大丈夫です。先ほど、お隣の人に様子を教えてもらいました。踏切事故だそうです。それに、Twitterに情報が集まるので、それをみています。何とかなります」


「はぁ、なるほど、Twitterで情報収集か。俺もそうしよう」


「ウルフさん、耳のこと、どうしてわかったんですか?」


「やっぱり、耳が悪いんだね? 色々考えてたんだよ、ルルちゃんが、何でオフ会に参加しないか。TDGを見る限り人嫌いじゃないだろうし、聞き上手だしね。

 酔っぱらっちゃったことがあっただろう? TDGの初めてのオンラインオフ会の後」


「ええ。とても酔っぱらいましたね。恥ずかしかったです。あの写真、もう捨ててください。おねがいします」


「それよ。その写真で気が付いたの。だってルルちゃん、ずっとラインくれないし、おまけにTDGにもこなくなっちゃったしさ、俺、凄くあせっちゃったんだよ」


「写真ですか?」


「そう、来ない間、あの写真見てたのね。そしたら補聴器っていうの? 右耳についてるのが見えて、それで腑に落ちたというか。

 もひとつ。俺、ルルちゃんに会ったと思う」


「え……」


「先週だったかな、S谷のサンマルク並んでたらさ、並ぼうとしてやめた女の子がいたんだよ。俺、どこかで会ったような気がして、思い出そうとしてじっとみつめちゃったから、怖がらせたと思うんだ。

 あれ、ルルちゃんじゃない?」


「S谷のサンマルク……」


「来てたよね?」


幸は息をのんでしまった。あまりの展開についていけなくて、吹き出しを何度も何度も読み直してしまった。幸は、観念した。


「行きました」


「やっぱり、ルルちゃんだったんだ。声をかけたんだけどさ、聞こえなかったなら無理もない。追いかけたくてもこの足だったから諦めたんだよ」


「ごめんなさい」


「謝らないで。怯えさせちゃったみたいだし」


「色々心配かけたり、色々気を使ってくれたり、なんだか申し訳なくて」


「ああ、違う違う。俺、そんなにいいやつじゃない。誰にでもやってるわけじゃないよ。

 むしろ、オークのやつのほうが気配りが上手だしな。俺は、ルルちゃん限定」



ラインの吹き出しを見ていると、隣の男性が幸の肩を軽くトントンとたたいていた。


「はい?」


と顔を向けると、男性のスマホ画面をみせられた。


『もうすぐ回復するそうです。20分遅れでつくそうですよ』


「ありがとうございます。助かります」


にっこり会釈すると、男性も会釈してまた顔をスマホに戻した。


幸はウルフに現状を報告した。


「先ほど、隣の人が教えてくれたんですが、20分遅れでつくそうです。

 よかったです」


「そうか。どこへ行くところだったの?あ、きいちゃだめだったかな」


「ふふふ。S谷のサンマルクですよ。ウルフさんのせいで行きそこなった……」


「お、奇遇だな。俺もS谷にいるよ。

 なぁ、あってみない? 話す方法、いくらでもあるんだし」


 もう、隠す必要はない。わかっていて会おうといってくれた。それならば、会おう。


「そうですね。よろしくお願いします」


「じゃ、1時間後なら大丈夫かな?」


「ぴったりだと思います。」


「じゃあ、Sサンマルクで。」

Sサンマルク、これは架空のお店です。

モデルにしたお店もありません。探さないでくださいね。


外にでて困るのは、放送がわからないこと。

電車の場合、周りの様子がおかしいことでなんとなく気がつきますが内容がわからないと不安になります。プラットホームにいたら電光掲示板で簡単な情報は得られますが、ふりかえの車両があるかどのくらいかかるかだとかはつかめないので、Twitterで情報を見に行くこともあります。

町の中や建物の中の放送も、あったことすらわかりませんから、まわりの異様な動きを察知しない限り、情報を得られません。聞こえないことで、アンテナは張り巡らしてはいますが、危険なことを知るのは大変です。

異常事態にとっさに対応できるように考えておくのは必要ですね。

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