世界改正
1500年いや2000年余りは経っただろうか
人類が俺だけになってから随分と時間が経った
俺がまだこの星に残った理由を覚えていた頃に
俺の仲間達は死んでしまった
人類は戦争で壊れたこの星を見捨て 他の星へと移住した
そして1000年後この星に帰ってくると言っていた
俺は帰ってくるはずの人類のために
この地球に残って 地球を修復し 彼らを迎える はずだった
1000年後 人類はこの星に帰ってこなかった
俺はともに残っていた仲間達と
遅くなっているだけだろうと話合って それからも毎日を過ごしていた
毎日毎日土地や環境を直す 200年くらい経って仲間が死に始めた
俺たちは1000年後の人類を迎えるために改造 いや調整された人類だった
それでも1000年を越える時間は俺や仲間達の体を蝕んでいた
しかし俺はいまだに生きている 既に仲間達は死に絶え
体に入れる燃料も無くなった が
だがよほど死にたくなかったのだろう
燃料は自分で作るようになったし
身体のある程度の修復なら 仲間と自分の体で学んだ
仲間の墓標を見るたびに少しだけ宇宙へ行った人類を恨んだ
世界を修復しながら世界に生きる他の動物達を見てまわった
毒の多い世界に順応した生物は俺が知っていた世界の物とは随分と違っていたが
それでも自分以外に生きているそれを見るのは楽しかった
見た目が少々グロテスクなのはいただけなかったが
「今日は・・・嵐が来るな」
やけに風が強い日だったが空はいつもどおり赤く
月だった物の欠片が光を乱反射させていた
その時既に地球が いや俺の知っている世界が
とっくに壊れてなくなってる事なんて俺は考えてもいなかった
「・・・この家もそろそろ終わりか 案外気に入ってたんだがな」
風に煽られ近頃住んでいた家の屋根が壊れた
適当に部屋の一つにもぐりこむと
吹きすさぶ風の音を聞きながらその夜をすごそうとしていた
煩い音がした それは遙か昔に聞いたような気がしたが
すぐには思い出せなかった 砂に埋まっていた体を起こすと
赤い空の彼方が金色に光っているのを見つけた
「あれは・・・?」
その光に惹かれ走って行くと
金色の光る空は丸くなっているのがわかった
その真ん中ほどに立ち 空を見あげる
パッパッと明るく点滅すると
宇宙船らしき物が空から降りてきた
頭の中にみっつほどの単語が出 俺の思考を埋め尽くす
人類 宇宙船 帰還
俺は下りてくるそれの熱で皮膚組織が焼けていくのを知りつつも
それに近づいて行った しかし
その宇宙船から出てきたのは人類ではなかった
「コン・・バンワ」
「アンタは なんだ?」
「私ハ 貴方方人類ガ作ッタ機械、デス」
「・・・そうか まぁ 俺もそのようなものだしっかりとした人間では無い」
「ソウナノデスカ?」
「あぁ ところで、だ 何故機械がこの星へ? 人はどうした」
「死ニマシタ 死ニ絶エマシタ」
「・・・何故」
「地球ヲ離レ 他ノ星ヘ移住シタ人類ハソノ星デモ戦争ヲ起コシマシタ」
「そういうことか 何年経っても変わらないものだな
ちなみに お前は何のためにこの星に?」
「私ハ コノ星ノ生命トナルタメニ」
「? どういうことだ お前は機械だろう?」
「生殖機能ガアルノデ 正確ニハ機械デハ無イノカモシレマセン」
「ふむ・・・で、この後どうする?」
「デキレバ人間ノ集落ニ連レテ行ッテ欲シイノデスガ」
「無いな 人間がここに残っていないことは教えられていないのか?」
「デハ 貴方ガ最後ノ人間デスカ?」
「人間では無いが地球にいる唯一の人形の生命体だ」
「デハ 私ハ貴方ト子供ヲ作ロウト思イマス」
「俺に生殖機能は・・・・・ あるな」
随分と久しぶりに見た新しい生物(?)を
壊れて変えようと思っていた家に向かいいれる
家の中に何かしらの生き物が入りこんでいないか確認し
その後燃料になりそうな木を探した
俺がそんな事をしている間
彼女(?)は周りの景色を見ながら一人立っていた
寝る場所はもう一度確保したものの
彼女がどうやって睡眠をとるのか俺はわからなかった
というか彼女は機械のようなものらしいし 睡眠は必要なのか
機械なら機械で休む事自体は必要・・か
「おいアンタ そろそろ眠らないか」
「睡眠デスカ」
「あ あぁ あんたも睡眠くらいするだろ?」
「ソウデスネ」
そういった彼女は 眼を瞑った
・・動かなくなった
これが彼女の言う睡眠らしい
俺は彼女を部屋の隅にどけると
自分で作った寝床に転がった
朝になると彼女がなぜかぶっ壊れていた
見ていると自己修復しているらしく
各部品が胴体部分に集まっていっていた
「スイマセン 少シ手伝ッテクレマスカ?」
彼女がそう言って俺に指示を始める
俺は彼女の足を近くに持っていったり
手を近くに持っていったりをして
およそ10分後に彼女は大体もとの形に戻っていた
「で、なにがあった」
「貴方ニ何カ食事デモト思イ
近クニ居タ未確認生物ヲ攻撃シタトコロ
未確認生物ガ行ナッタ反撃ノ頭部ヲ使ッタ突進ガ直撃シ
コノ家マデ吹キ飛バサレココノ壁ヲ破壊シ私自身モアノ様ナ姿ニ」
「あぁ・・・そうか ちなみに俺は食事をしない
正確にはエネルギー体は必要だが
そこらへんにある木で十分起動は可能だ」
「ソウナノデスカ」
その後彼女と地球を歩き回り
俺が現在しっている生物の見た目や生活体系を彼女に教えた
それからさらに400年程が経った
彼女と俺はいまだに地球を歩き回っていた
二人とも当初の目的なんか忘れていたのだろう
いろんなものを見てまわったりするのが楽しくて、ただただ楽しくて
何時までもこうしていられたらなと馬鹿な事を考えていた
しかし終わりは突如訪れた まぁしょうがないかと思った
1500年が当初機動限界だと思っていた年月だ
けど俺は3000年以上も生きてしまった 起動し動いてしまった
俺は彼女に悪いことをした 機械である彼女がしっかりとした感情を持つ程度に一緒居た
そして彼女が泣いている 俺の事を直そうと色々な器具を使っている
だが俺の体はその行為ですらヒビが入った
彼女はそれを治そうとまた四苦八苦している
胸元に抱き寄せて頭をなでた
「私を 置いて行くんデスネ?」
「そういえばお前の役目を果たさせてやれなかったな」
「そうデスネ、貴方のせいデス」
「そうか それじゃあ またな」
「次は 次 は 何時会えるんデスカ?」
「200年後か5000年後かお前がまた本当の意味で眠る時に だな」
「そうデスカ それでは また」
「あぁ・・・ おやすみ」
「お休み なさい」