第三話 帰宅
少し、設定が複雑ですが、話が進むにつれて明らかになっていきます。
狩野は、学校の駐車場に止まっている、自分の公用車の前に止まった。
運転手は、狩野家の家人(賤民階級の一つ。神民や貴族階級の家に代々一生使える。)の一人で狩野和也の秘書(元養育係)である、里中舞奈は、狩野の姿を認めると、慌てて鍵を解除する。そして、車の中に入った狩野に対し、驚いたかのように言った。
「かなり早いですね!今日も、帰宅部ですか?」
「かなり早い?アクシデントがあって、それで少し遅れたのだが。本当は、部活も行きたかったのだがな。」
「いや、女王殿下がかなり怒っている、という話を聞きましたから・・・・・。」
「ああ、全くだよ!私は何も悪いことをしていないのにだなぁ・・・・。」
「いやいや、幼女を誘拐して、何も悪いことをしていない、はないでしょ。」
「小学五年生は幼女じゃないし、そもそも、保護者の同意を得ているから誘拐じゃない!」
「殿下、お言葉ですが、神民の高校生が土下座して『娘さんがほしいんです!あなた方の事業に5億円出資します!だから、娘さんをください!』とかいったら、脅迫しているようなものですよ?」
「え?親御さん、『娘をよろしくお願いします。』と言っていたよ?」
和也がそういうと、舞奈はあきれた顔をした。舞奈が主君である和也に尊敬語をほとんど使わない理由も、この辺りにある。
「私、13歳のころから殿下を育てているけど・・・・当時、殿下はまだ5歳だったわね、あの頃からずっと殿下を見ているせいか、段々と社会常識というものがなくなっていくわ。」
「それ、どういうこと?」
「あのね、常識だと、雑色人が神民の頼みを断ることができると思う?」
「できるんじゃないの?舞奈は私の家の籍に入っているから逆らえないけど、上野彩友美の家は私の家とは主従関係にはないじゃん。」
「天然ね・・・・。」
「え?」
「いい?雑色人がもしも神民に逆らったりしたら、いつ権力につぶされてもおかしくない、とは思わないの?神民が内務省に圧力でもかけると、身に覚えのない容疑で逮捕されて、社会的に抹殺されてしまうかもしれないじゃないの!」
「いやいや、私にそんな権力はないよ?むしろ、神民を管轄している宮内省と、警察を管轄している内務省は仲が悪いことで有名じゃないか。」
「そ、れ、は!ある程度内情を知っている人だから言えるセリフなんです!一般人からすると、『内務省=警察の偉い人=偉い人=神民』なんですよ!」
「え?は?どういうこと?」
「だからですね、一般人にとっては、内務省というのは警察のえらいさんのことなんです。」
「そんな馬鹿な!内務省には警察官だけじゃなくて、気象予報士もいるし、神主さんも内務省の職員だし、土木工事も地方行政の監督も、みんな内務省の管轄じゃないか!」
「殿下・・・・一般民衆、ましてや、良民の中では最低ランクの雑色人が、そういう細かい話を知っていると思いますか?・・・・・とにかく、一般人にとっては、神民とは『怖い存在』なんです。それを、まず、自覚してください。」
「私は彩友美ちゃんが好きなだけなんだけどなぁ・・・・。そういや、彩友美ちゃんは元気?」
「さあて、もうそろそろ目を覚ましているはずですが・・・・殿下、着きましたよ?」
「ああ、ただいま~!」
和也は、豪華な寝殿造りの屋敷に入った。
「殿下が帰ってこられました。」
そう、巫女さんは彩友美に告げた。
「どうして、そんなことが分かるのですか?テレパシーでもできるのですか?」
若干、緊張も解けてきた彩友美が、何とか口を開こうとして、変なことを口走ってしまった。
「え?テレパシー?」
巫女さんは笑いながらそう言うと、続けた。
「精神感応能力なんて、私にはないわよ?ただ、この端末に殿下の帰宅が表示されただけ。殿下が返ってくると、この端末のココのところが赤く光るのよ。」
セイシンカンノー、とか言われても彩友美には理解できなかったが、それ以上に、このタンナッというものが気になった。
「そのぉ、このタンナッって、携帯電話のことですか?」
「ああ、これは、特注の端末ね。通称『神端末』と言われているわ。この家の人は家人も含めて、みんなこれを持っているのよ。携帯電話とは違うわね。もっと、セキュリティーは高いし。貴女にもそのうちに渡されるはずよ?」
「そうですか・・・・。」
「この家にはあちこちに小型の監視カメラとセンサーがあるの。この端末にもいろいろなセンサーがあるのですけどね。それで、みんなのセンサーや監視カメラのデータが、この端末でわかるの。」
寝殿造りの古い家だと思ったら、見えないようにハイテクな装置が存在しているらしい。
「ただいま~!彩友美ちゃんは、いる?」
「殿下、彩友美様は、今、起きたところです。」
巫女さんが、そういった。
「そうか。それじゃあ、私と彩友美ちゃんを二人にしてくれないかな?」
「わかりました。それでは、私はこれで失礼します。」
そういうと、巫女さんは部屋から出て行った。