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セカンダーズ、現実(リアル)が2つ?  作者: はまち矢
セカンダーズ、遺跡に潜る?
36/39

28

 クラリカ=アリエスティの頭痛が始まったのは、だいたい三ヶ月ほど前からだろうか。

最初は、髪が一房引っ張られているような違和感であった。どこかに引っ掛けたんだろうとしか思わなかったし、実際に口さがない連中に比べたら余程気にならない程度だった。

それが針で突かれるような感覚に変わったのは、一月と少し前からだっただろうか。

痛みそのものは、徹夜開けの朝に内側から響く感覚に比べればずっと微弱。だがクラリカを悩ませているのは、昼夜関係なく襲い来る突発的な失神であり、その度に見ることになる夢の内容だった。


「クラリカちゃん!」

「……メイ」


 気持ちが悪くて。吐き気がこみ上げて。

あのアバターの少女を、反射的に押し潰してしまった罪悪感も自分自身を締め付けてくるようで……クラリカの足は、つい1階のホールへ降りる階段前の吹き抜けで止まっていた。

窓からは沈みゆく夕日の紅が縞状に差し込んでくる。ぱらぱらと、寮へ戻る生徒の群れ。


「その……大丈夫なの?」

「ん……」


 大丈夫じゃないと、素直に言いたくは無い。だがここで空元気を出すには、自分は明らかに弱り切っていた。

だから言葉を濁してごまかす。クラリカにとって、メイコチコリは"忌み子"と呼ばれて遠ざけられていた自分の手を取ってくれた親友である。

分かち合って欲しいと思うのと同じくらい、分かってほしくない。これ以上、辛く、苦しい事ばかりをぶつけたくないのに。


「ねぇ……メイ。この世界が、ただの箱庭だって知ったら……どうする?」

「ふぇ?」

「……ごめん、変なこと聞いた。忘れて」


 それに、分かってもらえた所でどうしようも無いのだろう。

自分が、自分で無いものに動かされているかもしれない不安。この世界が砂上の楼閣かも知れない恐怖。

……結局、口だけでは本質的に伝わるまい。もっと深く、それこそ"脳ごと相互理解する"くらいでなければ。


「それが、"レイヤーネット"……」

「え?」

「ううん、なんでもない。部屋に戻りましょ」


 友人の、心配そうな視線を背中に受けたまま少女は虚ろに呟いた。




 □■□




 その翌朝である。


「キュー子の奴、絶対おかしいと思うんだよな」


 皮のズボンに白いシャツという出で立ちのアルフォースが、朝食のビーンズスープをもそもそと頬張りながら言った。

普段の鎧は、今は町中では着ないようにしている。これはアルだけではなく、他のアバターも同じことだ。

武器や鎧、あとは無闇にトゲトゲした装飾品などは、「町人への配慮」として着用を避けろというのである。

誰が? それはもちろん、我らが「アバターズ協会ユニオン」だ。日本国憲法を基準とし、アバターを「異世界の法の下に庇護されている者」として扱うよう各国と交渉を行っているギルドである。


「昨日、クラリカ=アリエスティに会ってからだ。やっぱちゃんと探すべきだったか?」

「メイちゃん、あっという間に見えなくなっちゃいましたもんね……ううん、大丈夫かなぁ」


 対面に座るアビエイルが、手紙を送り合う仲の友人を心配するように溜息をつく。

あの手紙の内容は、要約すれば『友人の病状に心当たりがないか』尋ね回るもの――つまりは、クラリカに関しての相談であった。

別にアビィに限った話ではなく、彼女もまた思いつく限りに親友の助けになろうと頑張っているのだろう。その友情は、素直に素晴らしく思う。


「それにしても、この食堂……」

「ああ、もっと学生ばっかなのかと思ったけど、随分アバターが多いんだな」


 朝の空気にざわめく〈学園〉の食堂ホールを見渡し、アルフォースはふーんと相槌を打つ。

食堂の朝食はバイキング式で、見覚えのある物から何かわからない物まで幅広く並んでいる。

嬉しいのは、案外甘味が充実してる所だろうか。朝はヨーグルト派のアルは、ちゃっかりと皿に発酵乳のフルーツソース掛けを確保していた。


「人が座りきれなくなるからな。学生とは時間帯をズラしてんだよ」


 そんな話し声が漏れ聞こえていたらしい。彼らの疑問に答えたのは、近くのテーブルに座る山民ギガノスの男であった。

アバターなのだろう、大柄な身体をぐるりと捻り、興味深げにこちらを観察している。いや、〈注視〉と言うべきか。システム上は名前やステータス、その他諸々を確認する行為である。


「アンタたち、新顔だな。俺は〈アラゴル〉。96の〈拳聖〉だ……なーんて、見りゃ分かるか」

「あー……ども。オレは〈アルフォース〉、〈重騎士〉で……」

「アビエイル=クウェイリィと申します。〈白犬騎士団〉で、炊班兵を努めさせていただいています」


 ピシッ! と擬音が出そうな挨拶をきめたアビエイルを、アラゴルと名乗った男はやや意外そうに見つめた。

朝だというのに彼の皿には薄切りのソーセージが何枚も乗り、ベーコンエッグが山を作っている。

恐らく、元から大食漢だったのだろう。本質的には、アバターの生死に食事は関わってこないのだから。


「ロールプレイ……じゃないよな。データが出ないと思ったが、こっちの人間か? どうりで……」

「ん、まぁ、オレらのリーダーが。戦闘はさせなくても、こっちで旅なれた奴が絶対に必要だって」

「なるほどなぁ……いや、確かに俺らもこっちに来る時は大変だったもんな。砂漠なんて、歩いたこと無くてよ」


 そういう考え方も有るんだな、とアラゴルは感心したように顎鬚をさする。

そしてそのまま、聞いても居ないのに彼の体験談へと話は移行した。モンスターから行商人を助け、その後その行商人に砂埃から救ってもらったという。

良く語っているのだろう、やや大げさに喋る口はスムーズで、つまりはそういう人間だ。悪い奴じゃないが、アルからすると少し身を引くタイプの男である。


「そのリーダーさんは、ここには来てないのかい?」

「あー……ちょっと、調子悪いみたいで。すぐに遺跡に入ると思ってたんだけど、どうするんだか」

「おお、そりゃ大変だな。助けになるかはわからんが相談なら乗るぜ。

 なぁに! 同じアバターのよしみだ、遠慮すんな! ちなみに、俺はかなり早くから文華宮こっちにきてたんだぜ」

「へぇー、そうなんですか?」


 だからなんだと喉からでかかったが、危ういところでアルフォースは飲み込んだ。

まぁ、可愛らしい顔つきで胸もふくよかなアビエイルの前で格好つけたい所もあるのだろう。実際、アビィに応答する様はデレデレとしたものである。

やや潔癖なお年頃のアルフォースは、こういった相手は苦手だ。早く話が終わらないものかと手元を向いて、トマト味のビーンズを咀嚼する。

それにしてももう一人、バイキングに突撃していってからずっと戻ってこない奴が居るのだが、一体どこまで行ったのやら。



「ごめんごめんアル、お待たせー!」



 そう思った矢先、アルの斜め前、アビィの隣に腰掛けて、リッツが自身の皿を置いた。

流石にアラゴルほどでは無いが、色とりどりの料理を食べきるのに苦労しそうな量乗せている。


「いやー流石文化の都。ゲーム内にも無いよく分かんないメニューが一杯でさー、迷っちゃった」

「好きにしろよ、別に待ってないし」

「ちょっ……ホントに待ってないわね!? 『いただきます』くらい揃ってしましょうよ、もう!」


 そんな事を言われた所で、待たせる方が悪いのだ。

リッツはやたら整った姿勢でいただきますと唱えると、妙に赤黄色い炒め物へと匙を伸ばす。


「おー、タンドリーっぽい……あ、でもちょっと酸っぱい? 何かしら……」

「〈注視〉で出てこないのか?」

「アイテムじゃない料理は出てこないみたいよ、基本的に。うん、プチプチして美味しいんだけど……何の肉だろこれ」


 首をひねりながら噛み締めるリッツに惹かれるように、アルも一口だけリッツの皿から拝借する。

ぷちり、と噛み切る食感があり、辛さと旨味が後を引く。なるほど、何かは分からないがこれは中々美味い料理だ。

強いて言うなら……海老に近いか? しかし、海老よりもとろりとしている。


「うわ、それサソリMobの幼虫だぞ……よく食えるな姐さん」


 舌で転がしていたアルフォースが、アラゴルが思わず上げた声に思い切りむせた。


「げほ、げほっ……うええ、幼虫って……」

「あら、美味しいじゃない。こういう珍味、アタシは結構好きだけど?

 さてじゃあ次は、この四角いキューブの正体は~……」


 楽しそうな顔でキューブ状の何かを口に放り込んだリッツの顔が、ピシリと固まる。

眉を寄せて涙目になり、今にも耐え切れず吐き出しそうになりながらも、彼女は口の中の物をなんとか飲み込んだ。


「脂っこ! 生臭! というかエグい……何、これ」

「えぇと……あ、燻製脂ですね、保存用の。パンとかにちょっと塗って食べるんですよ」

「高カロリーな調味料って感じか。どうすんだよこんなに取ってきて」

「……アル、いる?」

「いらない」


 余計な物を押し付けられる前にアルは小さく「ごちそうさま」と唱えると、皿を戻すために席を立った。

目の前のベーコンエッグに戻りながら、アラゴルがヨロシクなーと手を振ってくる。その視線がリッツやアビィの胸部をチラチラと捉えているのは、当事者でないアルにすら分かったが。

喧騒の外に出て俯瞰すると、やはり、どこかちんまりとした姿が足りない気がする。


「……飯も食わずに何やってんだろうな、キュー子の奴」


 3ヶ月前。あの混沌めいた「最初の7日間」で、食うもの食わねば元気が出ないデスよとチョコバーを突っ込んできたのはあいつだったというのに。

一向に現れる気配の無い小人の影を思いながら、アルフォースは苛立たしげに鼻を鳴らした。




 □■□




『petronius:〈ペトロニウス〉の足跡は見つかった?』


 資料室の奥の奥。徹夜でひっくり返した資料ファイルと未整理の発掘品に囲まれて、クァーティーぼんやりと光る"端末"のチャットウィンドウと対峙していた。

相手は信興国にて"アバターズ協会ユニオン"を立ち上げた大学教授。そして恐らくNPCである〈"古学者"ペトロニウス=アニュー=スター〉のモデルとなった人物でもある。

自分の行方を尋ねるなどナンセンスにも程があるが、この場合は仕方ないのだろうか。


『qwerty:一応聞いてみましたが、ペトロニウス=アニュー=スターが〈学園〉に在籍していた経験は有りませんでした』

『qwerty:資料室管理者は聞いたことも無い人がやってましたし、彼の書斎も無し』

『qwerty:メイとクラリカは居ましたが』

『petronius:乙』

『petronius:とすればやっぱり、〈銀の円盤〉も本来の場所に有るんだろう』

『petronius:「M&Vでの僕」が見つけた場所が怪しい。急いだほうが良いんじゃない?』

『qwerty:んなこたー分かってますよ』


 この世界に、1人1個ずつ手に入るキーアイテムなんて便利なものはない。

まぁ、円盤そのものは他のプレイヤーが価値を見出すようなものでも無いから、大丈夫だとは思うのだが。

念のため他のアバターが発掘したと言う資料も見せてもらったが、とりあえずその中で銀の円盤として表現できるものは無かった。

となれば、"M&V"の正史にて保管されていた場所か。NPCペトロが冒険の末辿り着いた、古代技術の粋に囲まれた一部屋。

その一場面だけは、先んじて公開されたプロモーションビデオにも映っている。のだが。


『qwerty:その肝心な場所がどこだか……』


 都市に匹敵する底面積をもった、正四角錐型の巨大建造物。

現実に見上げてみなければ、どれほど途方も無いものなのか検討もつくまい。

1日1回、1時間きりのナビゲーション装置が無ければ彷徨うことすらできない敷地を虱潰しに探していくなど、いかなアバターであっても気の遠くなる作業だ。

せめて何かしらのヒントは無いものかと探していたが、期待にかなうものはそう見つからず。


「……ーッ! ……――……!」


 探索を再開しようかという段になって、クァーティーは部屋の外から聞こえる喧騒に気がついた。




「返せっ! 返すのだ! それはクラリカちゃんがくれた大切な宝物なの!」

「聞いたか、宝物だってよ! この薄汚いぬいぐるみが!」

「"忌み子"の汚れた指が触れた物なんて冗談じゃねえ! このままゴミ捨て場まで運んどいてやるよ!」


 外の様子を見て、嘆息する。謎の力で浮遊する猫のぬいぐるみの下で、懸命に飛び跳ねる小人族ポクルの少女。

なんともまぁ、分かりやすい嫌がらせの現場であった。それも、被害を受けているのはあの〈メイコチコリ〉である。

流石に無視するわけには行かんと、クァーティーは3人組の男子学生に向かってズイと歩を進めた。一房だけ反り返った前髪に、生徒たちの視線が集まる。


「何をしてるんデス、寄ってたかって子供じみた真似を……アンタら、年幾つなんデスか?」

「あン? なんだよ、お前。〈学園〉の奴じゃないな。アバターか?」

「ちっ、アバターには関係ない話だろうが。いや、仮にアバターだったとしても、この御方を誰だと心得る!」


 見るからに取り巻きめいた二人が、乱入してきた小人族の女を訝しげな顔で見つめた。

だが、相手が上級職でもない〈マーチャント〉だと知ると、あからさまに侮った表情で芝居がかった口調を作る。


「学園理事の一人息子、バーラン=ガデッサ様であるぞぉ! なーんて、ひゃひゃひゃひゃひゃ!」

「ふっ、やめたまえ。文化を介さないニホンとやらの客人が、ポカンとしているじゃないか」


 そして、中央に立つ金髪のなよっとしたワカメヘアー。なるほどこいつが主犯格かと、クァーティーは冷めた視線を向けた。


「ま、バランだろうが笹の葉だろうがなんでもいいデスが、偉い人の子供ってんなら尚更ガキっぽい真似して何になりますか。

 もみ消せようが子供の恥なのに代わりはねーんデスよ。叱られてる内に反省しときなさい」

「はん! 生意気な口は程々にしたまえよ、お客人。

 お父様に言って、貴様らに遺跡を探索させないよう圧力を掛けても良いんだぞ」

「ああ、もうとっくにドラが付いてましたか……」


 それにしても、言うに事欠いて圧力とは。

なるほど、今までアバターが見咎める事があってもそう言っていれば手を引いたんだな、とクァーティーはなんとなく納得した。

確かに、好んで政治に関わりたい奴なんてそう居ないだろう。C-VRを使っているゲームの、主なプレイヤー層は若い年代だ。

まして、深夜に起きた『0715』に巻き込まれた者ともなれば。八つ当たりじみて、クァーティーの口角が釣り上がった。


「圧力、圧力ねぇ。困りましたねそれは。どれほど積めばその力を跳ね除けられるのやら、と」

「そうだ、分かったら大人しく……」

「魔力の研究対象としても貴重な〈モンスターハート〉デスか?

 それとも、作る技術が失われたと言われている〈エンデュミオン機工鎧スーツ〉?

 ジェムの消費を代替してくれる〈晶精涙の冠〉にー、賢者の石の材料とも噂される〈エリキシル剤〉……」


 ひっくり返したバックパックから、金銀が、宝石が、息を飲むほどに貴重レアな宝の数々があふれだす。

一つでも国宝になるだろう財産が、無造作に山を作っている。町中ならどこからでも〈倉庫〉インベントリを開けるマーチャントでなければ出来ない芸当だが、それだけに威力はあったようだ。

おそらく、〈モンスターハート〉の数だけでも彼の実家にあるものと比べられぬに違いない。もちろん、こんなものは見せ札に過ぎないが。


「ま、どれもダース単位で持ってるんで。一つ二つくらい〈学園〉に寄贈すれば喜ばれるかも知れないデスね」


 だが、実際に金を回したことも無いはりぼて相手ならこの程度でも充分だ。

暗に「やれるものならやってみろ」と宣言して、クァーティーは周囲の物品を再びインベントリに戻す。


「な、な……」

「くだんねーこと止めておウチに帰りなさい、糞ガキ。

 その上であなたのお父様が出はって来るようで有れば、直々にナシをつけてあげます」


 穏当に言い聞かせるには、少々虫の居所が悪すぎた。

八つ当たりじみた怒りを乗せて、クァーティーの眼光が金ワカメを穿つ。まるで、子供と大人だ。いいや実際に、クァーティーとバーランとかいう少年の歳はそのくらいには離れているのだろう。

それ以上に世界が離れていたので、一概に言えないが。


「さぁ、他人の物はその人に返しなさい。あなたが強盗で無いならば」

「……ちっ! 覚えていろよ、"皮かむり"め!」

「昨日は神様扱いだったのが今日は一つ前の男に戻されるとは。やれやれ、言葉の綾とは恐ろしい物……」


 浮遊魔法が切れて落ちるぬいぐるみの足元に滑り込み、クァーティーはそれを手にとった。

そして自分が口に出した言葉を反芻し、改めて首を左右に振る。


「……駄目デスねぇ。古い上に分かったとしてもキレが悪い。そもそも私、一応女性デスし」


 ネタを分かってもらえないシモネタほど悲しいものも無いので、これは二度と口にしないことにする。

万が一興味を持たれ、意味を聞かれたりしたら更に大変だ。昔のCMという説明だけで納得してもらえればまだいいが。


「あ、あのっ!」

「ああ、大丈夫デスか? まぁ流石に、暴力沙汰にはするほど馬鹿じゃないでしょうが」

「ぬいぐるみ、取り返してくれてありがとうなのだ。これは、クラリカちゃんとの大切な……」

「初めてお返ししてくれたプレゼント、でしょう? 分かってますよ……あ」


 そんな風に、徹夜した上で余計な事を考えていたからだろうか。

露骨に滑った自分の口に、クァーティーは思わず冷や汗を垂らす。

案の定、メイコチコリは驚きに目を見開いてクァーティーを見ていた。

その一部始終を見たのはこの世界では無い。"M&V"の中でなのだから。


「え? なんでそれを……」

「あ、あぁー、うん。たまたまお喋りしてたのを聞いたんデスよ。ぐーぜんデス、ぐーぜん」

「ぐ、ぐーぜん」

「そう! まぁ……クラリカちゃんだってホントは良い子なのでしょう?

 分かってます、分かってますよ。悪いのは私なのデス。本当に……」

「ま、待って!」


 手をひらひらと振り、誤魔化すように背を向けたクァーティーをメイコチコリは制止する。

居心地が悪そうに目を逸らすクァーティーを真正面から見つめながら、勇気を振り絞るように声を上げた。


「お、おばさんは!」

「おばっ」

「おばさんは本当はクラリカちゃんと仲直りしたいんでしょ!? でも、それが上手くいかないのは……

 きっと、クラリカちゃんの竜の力の問題なのだ。クラリカちゃん、それでいっつも悩んでるもの」

「……そりゃ、それも一因だとは思いますがね。根本的な所でもっと……」

「だけどメイたち、その力を封じることが出来るかも知れない場所を知ってるの!

 遺跡の中で、危ないって言われて入れてもらえないけど……でも最近、アバターと一緒に遺跡に入ってる人もいるのだ」


 駄目だ、聞いちゃいない。クァーティーは頭の奥で響く鈍痛を幻視した気がした。

明るい茶色のフードが勢いでめくり上がり、メイはそれを恥ずかしそうに直す。小人族ポクルというのは、頭のどこかしらに必ずくせっ毛が生えているものなのだろうか?

老いた小人族ポクルと言うのは見たことがないが、それだけに同族から見ると自分も歳がにじみ出るのか……


「おばさんはきっと優しい人なのだ。お願い! クラリカちゃんを遺跡の中に連れて行ってあげて!」


 そんな現実逃避を重ねても、目の前のメイコチコリが居なくなるわけでもない。

いっそ誰か闖入者が現れて、話を流してくれないかと思ったがその様子も無く……なんで自分に、と考えながら重い溜息を吐いた。


「……わかりましたよ。連れて行くだけ行ってみましょう」

「ホント!?」

「あんまり期待するんじゃねーデスよ。そもそも、入れるとも限らないんデスし」


 始まり方(トリガー)こそ違えど、これは"M&V"の〈クエスト〉に相違あるまい。

クラリカを先導しながら、〈ガーテナ遺構〉内のとある部屋に連れて行く護衛ミッションである。

ま、そのフロアの敵Lvは30程度。クラリカもNPCながら充分戦力になるし、アルやリッツまで連れて行けばオーバーキルにもならないだろうが。


「本当、どんな顔して会えば良いのやら……」


 だが、よりにもよってこの〈クエスト〉に自分を選ばなくても良いだろうに。

その後の展開にも巻き込まれるだろうし、全て片が付けば確かに八方丸く収まるが。

"ゲームではない世界"において結末がどうなるかも判らず、クァーティーはいっそ2人に丸投げしてしまおうか、などと考えるのであった。


年末年始は少しペース遅めになるかも。

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