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セカンダーズ、現実(リアル)が2つ?  作者: はまち矢
セカンダーズ、休みを過ごす?
21/39

20

「やぁやぁ兄妹。仕事は順調かい?」


 信仰の街、バーデクト。白く塗られた壁も少し薄汚れた区の、さらに日差しも差し込まぬ路地の片隅。

少年か少女かも分からぬ、襤褸を纏った難民の子の前で、子鹿の耳がピコピコと揺れる。


「……ふぅん、オッケーオッケー。まぁ、仕込みは順調だ、と。

 さてさて、俺みたいなのはお代金さえ貰えば文句無いけどねー。旦那もいったい、何考えてるんだか――」



 □■□



 ――なんだか分からないが、猛烈に腹が立っている。


 リッツは、自分自身があまり頭の良いタイプで無いことは自覚していた。

20年以上付き合ってきた頭の性能である。アルフォースはまだ交渉事に口を挟めないことを悔しく考えている節があるが、リッツはもう完全にクァーティーに投げてきっている辺りに透けて見える。

なにせ、難しい言葉で言い訳を並べる奴を見ているとつい手を出したくなってしまうのだ。4年間の大学生活でだいぶ矯正されたが、まぁ、悪癖である。自分でも分かっていることだ。


『リッツ! んもう、なに先走ってるデスかぁ!』


 キン、とクリスタル越しのクァーティーの声が響いた。


『これからどうすれば良いかとか、分かってるんデス!?』

「分かんない!」

『ちょ、おま』

「でもねぇ、アイツは殴んなきゃいけないでしょうが!」


 そう、自分は怒っている。

一度殺されたクァーティーとか、痛そうな怪我を負わされたアルとか、自分が軽くあしらわれたことも、諸々含めて。

元から、殴りつけてやるとは心に決めていた。例え被害者であるクァーティーにとやかく静止されたとしても、今は聞く気がしないくらいは、頭に血が上っている。


『リッツ……その、気を付けろよ』

「……何よ、〈アルフォース〉」


 アル君、では無い。男の声だ。リッツもまた、それを意識して言葉を返す。

この少年は今、まさに境界線の上に立っているのだろう。線の上を行ったり来たりを繰り返し、次第に己を形成していく時期。


『お前なら分かるだろうけど、アイツの動きだ。

 "投げ"だの"絡め"だのといった仮想現実じゃ難しい攻撃に、ステータス補正を無視した移動速度。

 それに、異常に高いクリティカル率や即死発生率』


 "ゲームシステム"としての話をすれば、全てが異常であった。

プレイヤーたちはシステムという計算式の前である種の平等であり、だからこそ"共感"を用いてネットワーク上の仮想現実を構築できるようになっているはずなのだ。


『……半信半疑だけど、違うって言うのなら"それ"が違うんだろう。

 アイツの攻撃は、なんかこう……他の奴らとテンポが違ってて、"ぬるり"と動くんだよ』


 アバターたちの戦闘行動は、ほぼすべて"モーション"の情報を有するファイルから成り立つ。

故に、動きの為に弄れるとしたらそこしか無い。プレイヤー側である程度グラフィックや機能を追加・編集する為のMODは、非常に黒に近いグレーではあるが多少容認されている。

基板となるモーションファイルがあるからこそ、「人が筋肉の収縮を意識しなくても呼吸ができる」ように、アバターはアクションすることが可能になるのだ。

逆に言えば、"化身殺し"のチートに種があるとすればそこに秘密が有る、とアルは考えていた。具体的な手段についてまでは、若干15歳のアルフォースには想像すら付かないが。


『だから、すげー対応しにくいんだけど……リッツ、大丈夫か?』

「心配ご無用。私の回避値いくつだと思ってんの」

『いや、回避したらしたで、モーションの隙を突かれて切られたりとか……』

「なら、大きめに回避しておけば良いんでしょ? 大丈夫よ」


 なにせ〈リッツ・サラディ〉は、動きの速さにだけは自信があるのだ。

それは、何もステータスだけに寄った話では無い。プレイヤー本人の格闘センスにも引っ張られている。

アルフォースにはまだ何か気がかりがあるようであったが、リッツはそれを噛み潰した。先の一合では不覚を取ったとはいえ、投げが有りだと言うならその前提で動くだけの話。


『……どうあれ、今は奴を止めるしか無いのは確かデス。リッツ、追いつけますか?』

「さっきから走ってんだけどね。くそ、細かく進路変えやがって、どうにも距離が縮まらないの。

 全速力なら……ううん、"M&V"でアタシ以上に速いなんて、そう有るはず無いのに」


 今、ブレードは開けた道路から、再び小さな倉庫が立ち並び、入り組んだ地区へと逃げ込んでいた。

こうなってくると、足場も悪く散乱した木箱や樽に足が取られる。勿論、相手が手頃な物をわざわざ倒していっているのだ。

ちまちまと障害物を撒かれると、走りにくいことこの上ない。


『こうなれば、リッツさんが追わなければ大道路を突っ切られていた、と考えるデスよ。

 挟み撃ちにしましょう。進路上に我々が転移できそうなスペースはありますか?』


 出立する前に確認したマップを思い出し、即座に現在位置を推定していく。

そういった思考にも、当然コンピューターのサポートは働いている。僅かな後に、リッツは1つの場所を指定した。


『では、そこで』


 クァーティーもまた、腰を落ち着けなければプロクシーとして集中することは難しいのだろう。

簡潔に取りまとめると、ユニオン間への通達に専念するようであった。……そこに、彼女なりの焦りが感じられる。

ジリジリと、包囲網が押し広げられていく。1人のプレイヤーに対し2PT弱を連結させたアライアンス。"システム"の上ならば絶対に負けはしない筈なのに。


 ――"獣を潜ませている"。


 太陽が水平線にかかる、その間際に言われた一言が、リッツの耳にいやに残っていた。



 □■□



 がやがやと、辺りがやけに騒がしい。

"化身殺し"の道を塞ぐように再転移した筈のクァーティーたちは、まず、あり得ない程の喧騒を耳にし、次に目を疑った。


「何でありますか、これは」


 クァーティーが現状を認識するより一足早く、ユニオンの竜牙兵の少女が悲鳴を上げる。

確かに、ここはもう港と住宅地区の境界線にある、最終防衛ラインと言っても良い区域だ。

だが、この付近を担当しているアバターは比較的"ユニオン"に近しい者達の筈だし、仮にそうじゃないアバターたちが近づいたとしても、警備する〈白犬騎士団〉が適当に口実をつけて帰す手筈になっていた。


「困ります! この先は港で……」

「いいから、そこどけよ!」

「"化身殺し"、現れたんだろ!? クラウソラスが賭かってるんだよ、こっちは!」


 だのに、まるで餌に群がる鯉のように、アバターたちが〈白犬騎士団〉に対して食って掛かっているのだ。

堰き止める〈白犬騎士団〉の中には、あのアビエイルも居る。今にも胸ぐらを掴みあげて来そうなアバターたちの矢面に立ち、必死に抑えようと努力している。


(情報が拡散している?)


 あり得ない話ではない。"化身殺し"に分かるように餌を撒いた以上、他にも違和感に気付く者が出ること自体はおかしくない。

ゆえに、一応は〈白犬騎士団〉にも一枚かませて、他のアバターが入り込まないようにしていたのだが。


(しかし、"気付いた"プレイヤーの割には、あまりに質がアレと言うか……ぶっちゃけ、半分暴徒化してるデスね)


 クァーティーとしては、そこが一番気になる点であった。

他に気付く者が出てくることは、まぁしょうがない。だがそこまで気付くのであれば、同時に港全体が"釣り餌"であったことにも気付ける筈なのだ。

本当にクラウソラスが欲しくて機会を伺うのなら、それを他人に触れ回るメリットも、この場所で騒がしくするメリットも何処にもない。

侵入するなり交渉するなり、穏便に解決することこそが得策のはずなのだが。今、アビィたちを取り巻いてる集団からは、そういった思考に回す知性は存在していないように見えた。


(むしろ……そう。他人の情報を鵜呑みにしただけで、自分が正しいと信じ切っているタイプ)


 そうであるなら、情報をバラ撒いている者が居ると言うことだが。

境界線上に押しかけ、がなり立てているアバターの数は、100か200かといった程度。この人数をユニオンに押しかけさせて、得をする人物なんていただろうか?


「ほら、もう中に人居るじゃねーか! なんで俺達だけ駄目なんだよ!」

「あ、あの人たちは"ユニオン"の方たちで……」

「不公平だろ!? ふざけんじゃねえぞ! それで"化身殺し"を逃したらお前責任取れんのか!?」


 クァーティーがそこまで考えた時、あちらからもワープアウトした協会のアバターたちの姿が見えたのだろう。指をさし示し酷くなじる。

それにしても彼らは、〈白犬騎士団〉を運営か何かと勘違いしているのでは無いだろうか。

一ヶ月半も別世界で過ごしていて、なお住人たちと接することもせず、毎日だらだらと"端末"にのみ縋り付いて過ごしていればやむを得ないことなのかも知れない。

中には、最前線のあからさま過ぎる連中からちょっと身を引いて顔をしかめている者達も居ることは居るが。

何にせよ、半暴徒と化した彼らは同じ日本人としてあまりに見苦しかった。話をややこしくするのも覚悟で、アビエイルに助け舟を送ろうとした時である。



「居たぞ! "化身殺し"だ!」



 沈みゆく太陽に、滲むように現れた影を見て、押し寄せていたアバターの内1人が声を上げた。

途端、わぁ、と群衆たちの熱量が上がる。我先にと駆け出そうとする高Lvのアバターたちに押しのけられ、アビエイルの身体がくるくると回った。


「く……、思ったよりも速い……!」


 どこか、道ならぬ道を突っ切ってきたか、あるいは単純にその走法か。どちらにせよ、やはりアバターの移動速度ではない。

AGIがカンストしている筈のリッツが振り切られている時点で、分かりきっていることではあったが。


「ま、魔法隊、散って散って! 前衛は陣形を……ぬわぁ!」


 慌てて指揮を取ろうとした少女アバターが、後ろから突き飛ばされて転がった。

先を争うように、あちこちから中規模呪文の詠唱の声が上がる。ユニオンの者ではない、功を焦る、野良の後衛たちだ。


「くそっ、おい! 大丈夫か、アビエイル」

「あ、えっと、アルフォースさん……。ありがとうございます」

「いや……これは、情けないのはこっちだ」


 吐き捨てるようにして、苦々しくアルフォースの口が歪む。

アビエイル他数人の騎士団メンバーたちは、どうやらアルが助け起こしたようであった。その姿も、すぐに人の波に覆い隠される。

身長の低いクァーティーからは、人に紛れて前線の様子は見えないが、ブレードを追っていたはずのリッツはどうなったのだろうか。

こちらの喧騒に巻き込まれない内に彼女が仕留めてくれるのが一番良いのだが……贅沢は言えまい。


「なんにせよ、これは指揮どころでは――ッ!?」


 野良アバターの群れの中から、ヒュンと風切り音がしたかと思うと、鋼鉄の鏃を付けた矢が天高くアーチを描くのが見えた。

それも一本では無く、十数本の束が散らばりながら山なりに飛ぶ。きっと着弾地点では、素晴らしく破壊を撒き散らし、一帯を無残なことにしてくれるだろう。

クァーティーが金切り声を上げた。


「――どこの馬鹿デスッ! 今『アローレイン』を使ったのはッ!!」


 「誤射の恐れが有るため弓や銃を使うな」とは、確かに野良の人員に対しても言い含めていた筈だ。

何も人に対してだけじゃない。石畳の床や倉庫の壁や柵に当たることだって立派な「損害」である。

そんな感覚すらも、持ち合わせていないのだろう。何が悪かったかすらも分かっていない様子で、1人の弓使いが首をすくめた。


「な、なんだよ、お前。〈狙撃手〉が弓使って何が悪いんだ!」

「悪いに決まってるでしょう! この道も、建物も! 明日にはすぐに使う"この世界の人々"が居るんデスよ!?

 どーしてそんな事も分からないんデス!? 壊すだけ壊して、あなた直せるんデスか!?」


 つい先程、責任だのなんだのと喚き立てていた奴らがこれである。

自分にとって都合の良い言葉ばかりを並べ立てる様は、クァーティーとしても頭が痛くなりそうなほど。


「弓使いは武器使うなってのかよ!」

「自分の迷惑さ加減すら分からないんだったらそうしなさい! 家帰って寝てろ、デス!」

「横暴だぞ! そんなルール、不公平だろ!」

「あなたね、イベントか何かと勘違いしてるんじゃ――」


 途端、後ろから悲鳴が上がった。

先頭集団と"化身殺し"が接敵したか。声の様子を聞く限り、惨状は確認するまでも無さそうだが。

あの、不可思議な体捌きから産み出されるチートめいた一撃必殺のカラクリを解かねば、いくら装備やレベルがあろうとも近接戦闘で叶う相手と思えない。

魔法はまだしも有効打になりうるかも知れないが、あの乱戦具合ではそれも期待できないだろう。


「……ああもう、今は馬鹿にかまってる時間も無いんデスよ。

 〈白犬騎士団〉の皆さん! 器物損壊および公共の道路を破壊した輩デス! 構いません、確保しちゃって下さい!」

「は、ハッ。いえ、しかし……」

「ルール違反されてお咎めもナシじゃ、こっちも監督責任が問われるんデスよ。

 一度言って聞かないなら構うこと有りません。拘置所辺りに一晩放り込めば頭も冷えるでしょう」

「こ、拘置……ッ!? お、お前、なんの権利があって――ふざけんじゃねぇッ!」


 みしり、と。男が払いのけるように振り回した手の甲が、クァーティーの頭を強かに打ち据えた。

鋲を打った小手を身につけた、"アバター"の身体能力での一撃だ。一瞬、視界が白く染まる。


「――……ってーな、ガキが」

「え」


 低く、ドスの聞いた声が、目の前の少女から絞り出されたと連想できなかったのだろう。

激昂していた筈の男が目を白黒とさせ、次の瞬間、足を抑えてうずくまった。鋼鉄製のグリーブを履いた足で、脛を蹴られたのだ。


「いっ、痛えぇぇ……!」

「痛いだぁ? こんなもん、1ダメージにもなって無いデスよ。

 あなたが打った矢はね、こんなんよりずっと威力が有るんだぞッ!」


 がしり、とうずくまる男の髪を掴み上げ、クァーティーは無理矢理視線を合わせながら怒鳴りつける。

もし仮に、男の脛を撃ちぬいたのが矢であれば、服を裂いて肉をえぐり、骨を断ち切っていただろう。

それは、本来なら人の片足を永遠に使えなくさせるには充分な威力である。何のスキルも載せていない、通常攻撃であってもだ。


「仮にこの世界の人に当たったらとかどうなるだろう、とか! 道や建物を壊したらどうなるか、とか!

 『アローレイン』だけじゃない! 『グラウンドバイト』も、『土竜脚』も、『レゾナンスブレイク』も、全部だ!

 そんな事も想像できないんなら、誤って誰かを撃ち殺す前にケツ拭いて帰れって言ってるんデスよッ!」

「うぅぅ……、痛えよぉ……」

「チッ……ほら、後は頼みましたよ、騎士団の方々」


 これが。この男が、決して特別なわけでは無いのだ。

全てとは言わないものの、こうして思慮の足らない"アバター"が5000人の内、何百、いや何千。

テクノロジーの繭に守られて、痛みも、危険だと言う意識すら持ったことの無い、若い"日本人"がどれだけこの世界にいるのだろう。


 ここにきて初めて、クァーティーはペトロニウスの懸念を真に理解できた気がした。

確かに"これ"をこのまま放っておけば、この世界の人類(マニオン)との致命的な溝を生む可能性も否めない。

だからと言って、何ができると言うのだろうか。一人一人に言って聞かせるのですら、これだけの手間がかかると言うのに。


「ええい、余計な気を回させて」


 クァーティーは乱暴に己の後頭部へ手を回し、がりがりと掻き毟った。

そんな事を考え、解決するような時間など自分には存在していないのだ。とは言えこれは、思っていた以上にペトロニウスに肩入れする必要が有るのかもしれない。

カッカと熱く感じる頬に痛みが滲んでいき、頬の裏を舐めると微かに血の味が広がった。

かつてのイメージから脱せないのだろうか。血なんて、出るはずも無いのに……。


「あー痛た……親父にも殴られたこと無いのに、って奴デスか……?」


 もっともそれは、相手の台詞かも知れないが。

そこまで考えて、クァーティーは自分自身の抱える妙な違和感に気がついた。



「……"痛い"……?」



 殴られて、蹴り返して。当たり前と言えば当たり前だ。……本当に、そうだろうか?

相手は先程、弓を装備していた。そして、素手で殴られた。そこに、モーションが入り込む余地はあっただろうか。"システム"によって、"アバター"が動かされる余地は。


「今、レベル差はいくつだった……?」


 〈狙撃手〉。奇を衒わないのなら、DEX>AGI=INT、と言った型だろう。つまり、そこそこの回避力は確保している。

対するこちらは所詮Lv50以下の下級職。特別、命中率に秀でている訳でも無し。通常、"M&V"に置いてLvの差はステータスの差、そして抗えぬ命中回避の差となって響いてくる。


「私は今、脛を蹴った」


 言い訳はするまい。感情に任せて、足で相手の脛を蹴り飛ばしたのだ。そして、相手は回避する素振りを見せなかった。

これが攻撃であれば、意識しなくとも"システム"が回避行動を取っていただろう。彼我の実力差は、それくらいには離れていたと思う。

逆説的に言えば、この脛蹴りは"攻撃"ではなかった。少なくとも、システムにはそうだと認められなかった。

だが、相手は痛がっていた筈だ。例えダメージにはならなくとも、敵意を持って危害を及ぼす行為。


「この世界は現実で……けれど、"アバター"はゲームシステムに沿って動いて……そこに、齟齬が生まれているとすれば」


 ――"そしてその齟齬を、うまいこと活用している者が居るとすれば"。


 咄嗟に、クァーティーはブレードが駆け抜けてきた方向へと振り向いた。

既に、彼の手によって何十ものアバターが討たれ、白い粒子を吹き上げるオブジェとなって地に転がっている。

紫暗の空の下、白い燐光が巻き上がるステージの上。愉快そうにアバターを切り捨てていく白面の姿は、いっそ神々しくもあり。


「やぁ、どうした! 次は来ないのか、一斉にかからないのか、これならロズベルの木精ノーマンたちの方が、いくらかマシだったなぁッ!」


 笑いながら、次々と獲物を定めては、一刀必殺を繰り返す。

"チートじみている"とだけ捉えて、深く考えずにいたが。


「すれば……だとすればもしや」


 クァーティーは自身のコール・クリスタルを引っ掴み、けれど事態をなんと説明すれば良いのか、言葉が出ずに喉を鳴らした。

あれほど血気盛んだった野良のアバターたちも、さらなる犠牲者となることを恐れている。既に犠牲となった者の悲鳴に鼻白み、取り囲みながらも腰が引けているようだ。

安全圏から攻撃できるはずだった後衛職からですら、もはや、魔法1つ飛ばしていない――詠唱のような隙を晒せば、真っ先に首切りの対象となることが分かっているのだろう。


 かくして、狂宴の渦ができあがる。野良も、ユニオンも、白犬騎士団の者達ですら、彼の異様な姿に圧倒され、凍りついたように動きを止め。

"化身殺し"だけがその中で、ただひたすらに生き生きと殺戮を繰り広げていた。一切の血生臭さの無い、奇妙な殺戮を。




「追い付いたわよ、サイコ野郎ぉぉぉッ!!」




 その渦の中へ、女がたった1人だけ、ためらうこと無く飛び込んでいった。


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