交錯
だれるような暑い日だったのに、その日は夕方から昼間の時からは考えられないほどの雨が降っている。私は仕方なく、シャッター街と化した商店街の、雨を凌そうな所へ逃げるように入る。通り雨だといいなと思いながら、厚く空を覆っている雲を見ていた。予想は快晴だったのにと思い、今更背景で雨の降っているケータイのお天気アプリにイラつきながら、ポケットにケータイを突っ込む。折りたたみ傘を持って無かったわけじゃない。あったのだ、つい数分前までは、風できれいに支柱以外はひしゃげてしまったのだ。その驚くようなしなやかさはどうかとも思うが、500円だったわりには、ずいぶんと私を雨から防いでくれたとは思っている。さて、どうやって帰るかなぁ、と思いながら、風で進行方向の曲がった雨を肌に感じた。
今日は、一日中暑いだろうとか思っていたのに、帰り道で雨が降った。わりと激しい。傘がないので、仕方なく雨に打たれながら帰路を歩く。絶対止むわけがない。靴に水がしみて、くつ下が変な感じになってくる。こうなりゃ、いっそのことはだしになってやろうかとも思ったができるわけもなく、気持ち悪っ、と思いながら、商店街に入った。見れば多少は雨宿り出来なくはなさそうにないが、ここまで濡れたなら、早く家に帰る方が良さそうだ。これは俺が進んでいるからなのか、やけに雨を受けるのはやっぱり風なのだろう。遠くで雷が鳴っている音がする。少し先、今俺が進んでる道の向こうに見知った人がいるような気がする。関わりたくない、別ルートで帰ろうかとも思ったが、この道が一番家に早く着く。早く家に帰りたい、と思いながら、足を早めた。
どうしてこうも、雨だけ、風だけならまだしも、二つがかけ合わさるとこうも厄介なんだか、分かりきったことを自問自答しながら、それでもまだここの方が安全だと思い、濡れたところをタオルでふく。すぐに中に入ったとはいえ、多少は濡れたし、微妙に雨が入ってくるので、一応濡れてはいるのだ。遠くの方でゴロゴロと聞こえる。これは早く帰るべきなのだろうか。ふと道の先を見ると何か見覚えのある人が雨に打たれながら歩いているのが見えた。何でこの雨の中わざわざ、と思いつつ近づいてくるその人の顔を見た。
確実に、俺はこの人、サキを知っている。近づくにつれて、あるかもと思っていたものは確信へと変わっていく。やっぱり別ルートにしておけば良かったと思いながらもここまで来てしまったなら引き返せないと思い進む。
やっぱり思った通りだ。あの人だ。ゆう。近づいてくるにつれて、まさかという思いはあっていたのだと知る。早く帰っておけば良かったな。
お互いが手を伸ばせば指がふれるくらいの距離になったとき。
「えー、あー。久しぶり。えーと。元気してた?てか、ずぶ濡れじゃん、タオル貸そうか?」
「えっ?あぁ、久しぶり。」
それだけ言って、ゆうはタオルを取る。が、思いっきり雨に打たれているので意味はない。
「ちょっと、タオル濡れるじゃん。こっちきなよ。」
ゆうは見るからにしぶしぶ私の隣に立つ。
「タオル。タオルありがと。」
ザーーー。
「やまないね。」
「やまないな。」
「まさか、こんなとこで会うなんてね。」
「ホント、いつ以来だっけ?」
えーと。少し考え込む。
「二年と三カ月とーーー、八日!」
妙な静けさ。雨の音だけが響く。
しばらくして、サキはまた話してくる。
「あの時は、ごめん。一人で抱え込んで。」
「いいよ。もう気にしてないし。」
ウソだ。ホントはずっと気にしていた。俺は止めてあげることも、支えることもできなかった。本当の臆病者だ。さっきも逃げたくて仕方なかった。
「そう、か。」
サキは少し悲しそうにうつむく。
「傷、消えたか?」
少し、踏み込んだ質問をしてみる。
「まだ、完全には。あっ、でももう目立たないよ。」
そう言って、サキは手首を見せる。まだ、うっすらとだが、跡があった。
「でも、今抱え込んでいるのは、私は。ゆうだと思う。」
周りの音が消えた気がした。再び音が戻ったときは、やけに雨音が強く響いていた。
ミサはあまり気にはしていなかったが、割と近くにいる存在だった。多少は疲れが溜まっていることに気づいていた。なのに、声をかけることさえしなかった。話したのは、サキが病院に入ってからだった。その病院に入ったこととは違うことばかりを話していた気がする。
結局、サキが何で疲れいて、ああなったかは分からずじまいだったが、今は、もう大丈夫だと言っていた。そして、
「ゆうは考え過ぎだって。もう過ぎちゃったんだしさ。」
「いや、でも。」
「もういいんだよ。ありがと。」
その後、ゆうは用事がある、と言って帰っていった。せめてタオルくらい渡しておいた方が良かったかな。それはさておき、今日は、足止めをくらったとはいえ、ゆうと久しぶりに話せて良かった。あっ、メアド聞いておけば良かったなぁ、そう思いつつ、ケータイを見る。さっき見たお天気アプリは背景で太陽が光り輝いていた。まさか、と思い空を見上げると、
「あっ、ホントに晴れた。」
お天気アプリって凄い、と思いながら、リュックを背負う。次は、晴れた日に会いたいな、という希望を持ち、
「今日は良い日だった。」
と言って、帰る。
その言葉を聞いてから、俺は居づらくなって、途中で用事が、と言ってまた、雨の中を帰った。つまりは、俺は一人で自分のせいとか思っていたけど向こうからすれば、
「何やってんだろ、俺。」
家の数メートル前でようやく太陽が顔を出した。すごく寒い。風邪を引いたのかもしれない。
〈終〉
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