春休み
「そろそろ暖かくなってきたね」
隣街から電車での帰り道で俺の妹、姫がそんなことを言ってきた。
黒目黒髪、背は小さく顔も小動物的な可愛さがある。
こんな外見マスコットキャラだが意外とリーダーシップがあり、中学時代女子テニス部の部長をやっていた。
「そうだな」
座席で並んで座っているので姫は俺の顔を覗き込む形で話してきた。
「もう春休みだし、なんか大人になった感じがしない? 」
「いや、全く。俺は前から大人のつもりだが、姫は子供にしか見えない」
「えー、本当? 私の気分は大人真っ盛りなのに」
「なんだそれ、言葉を勝手に作るな」
「言葉は常に移り変わっているんだよ。そんな固い心をしてたら現代社会は生き抜けないよ、お兄ちゃん。」
「俺に付いてこれない現代社会など滅ぶしかないな」
「俺様すぎる!? 」
姫は驚愕の表情を浮かべた、と思ったら直ぐに口を手で隠した。向かいの席のおばさんが睨んでいた。
静かに反応してくれ、子供か。
「というか今は春休みなのか? 中学は卒業しただろ」
「まあまあ、名前なんて何でも良いじゃん、春休みが一番それっぽいよ」
それもそうか。名前をあえて付けるなら春休みがあっている気がする。
「もう高校は決まってるし、今はつかの間の休息だね。言うなれば現在、私達は中学生以上、高校生未満なんだよ」
「無職か」
「無職言うな」
まったく夢も何もない、なんて言って姫は携帯をだして何か見始めた、話は終わりみたいだ。
電車が駅につき改札を出ると、俺達は家に帰る。
姫と雑談をしながら歩き我が家に着いた。
「ダッシュ! ダッシュ!」
姫は家に駆けていった。
そんなに急いでも家はどこにも行ったりしないぞ。
......。
「お兄ちゃん? ......さあ、早く扉をあけるんだよ、お兄ちゃん。私はテレビが観たいのです」
先に家の扉の前にいる姫は門の前で立ち止まっていた俺を急かしてくる。
「はいはい」
お前は鍵持ってるだろ、と思いながら門を抜ける。脳裏には黄色い壁の家と、よく見知った女の子が浮かんでいたが我が家に入るときにそれを振り払った。
新しく手に入れた妹との日常を無くしたくはない。今はそう決めているのだから。
リビングに駆け込んだ姫を見送って、二階の自分の部屋に入る。
「ふう」
漫画でも読もうか。
本棚から漫画を取り出そうとする。
そして突然景色が変わった。