case3 3年の時を超えて
死んでいたと思っていた彼がまさかこんな所にいたなんて…
case2に登場してきた高橋 翔護と同じ会社の説明会に来ていた東浦 芽衣、翔護と同い年で専門学校に通い、飼育員を目指している。説明を聞き終え、電車で10分、徒歩5分のマンションが立ち並ぶ中の一つ、5階建てマンションの4階にある自分の家へと入る。芽衣の部屋はとにかく動物のぬいぐるみや可愛い犬、猫の写真が飾ってある。開いていたピンク色のカーテンを閉め、芽衣はパソコンを開き、説明を受けた会社のサイトに入り、アルバイト専用ページへと入ると、色んな依頼が記載されている。
「ふ~ん、どれも出来そうだけど距離が遠過ぎる」
芽衣は動物園からの依頼はないかと探している。可愛い兎や小鳥達と一緒に遊べたらな~と勝手に妄想しながら探しているが、どれも個人宅の依頼。動物園からの依頼なんてそうはなかった。
「ま、登録は明日からだし、明日考えよっと」
パソコンを閉じ、芽衣はご飯の準備をする。今日は…昨日の残りのカレー。電子レンジで温め、スプーンで食べる。
食事と風呂を済ませ、長い髪をドライヤーで乾かしていると、携帯電話が鳴りだした。
「お母さん?もしもし?」
「あぁ芽衣?起きてたの?」
「起きてたってまだ(夜の)11時だよ」
「だってあなた早く寝るじゃない」
「今日はバイトの説明会があったからいつもより遅めのスケジュールなの」
「どんなバイトするの?」
「なんかお手伝いさんみたいな感じ」
「ふ~ん。で、芽衣?あなた今度の日曜どうするの?スグル君の三回忌は」
「勿論行くに決まってるじゃない!」
芽衣は即答で答えた。
「じゃあ参加にしとくわよ」
「金曜日にバスで帰る」
「そ、じゃあ明日もちゃんと起きるのよ?」
「いや~モーニングコールを…」
「7時半でいいのね?」
「うん、おねが~い」
「はいはい。じゃあね」
「うん、おやすみ~」
芽衣は電話を切った。
「そっか。もうそんなに経ったんだ…」
壁に掛けてあるカレンダーを見ると、今週土曜日は近所に住む芽衣の幼馴染でありながら彼氏でもあった水崎 逸が亡くなって丁度3年目の命日となっている。当日逸は何者かによって行方不明になり、そのニュースは全国版で放送された。しかし数週間後、逸と思われる遺体が発見されたらしく。彼の家族には遺体は公開されず、会った時は既に木箱に納められていたという。家族は逸は死んではいない!と警察に証拠を見せろと言ったが、警察は証拠はないと言う。更に家族は訴訟を起こしたが判定はそのまま。警察の勝ちになり、逸は死んだと断定されてしまった。芽衣はその時涙を流した。逸が行方不明になる二日前に二人で撮った夜景を背景に展望台から撮った写真が芽衣と逸の最後の思い出となってしまった。その写真は現在芽衣の待ち受け画面になっている。ニッコリと笑った逸の顔がとても懐かしくもあり、悲しくもあった。
翌日。探していると一件動物園から依頼があった。「動物好きな方!又は将来動物園で働きたい方!一日動物の世話をしてみませんか」というタイトルで書かれ、場所はここから電車で30分くらいの場所にある全国的に有名なわくわく動物園だった。
「わくわく動物園で一日仕事出来るの!?超嬉しー!」
小さい頃よく家族で行ってた動物園であり、動物が好きになったきっかけがこの動物園とあって、芽衣は即クリックした。
締め切り日の翌日の朝、携帯電話を開くと受信メール一件来ていた。開くと依頼受け付けましたとのメールで、芽衣は喜び、正式に引き受けますと、「はい」ボタンをクリックした。
「日時は今度の日曜日ね。なら土曜の内に帰らなきゃだ。楽しみだな~」
携帯電話をギュッと胸にあて、芽衣は笑顔を絶やさなかった。
土曜日。逸の三回忌に出席した芽衣はその夜、最終便のバスで帰っていき、まだ開園していない朝8時。芽衣はわくわく動物園内で飼育員の人に案内されていた。色んな動物とその名前を紹介しながら飼育員はある反応を見る。そして、
「こちらがカバのスグルです」
檻の中のプールで優雅に泳ぐ一頭のカバがいた。
「ス、スグル!?」
芽衣は思わず名前に驚いてしまった。よし、来た!と飼育員は心の中で思うと質問をする。
「スグルに何か…」
「い、いや、突然大きな声を上げてすみません。な、なんかどっかで見た事があるな~って思ったものですから。アハハハ」
芽衣は作り笑いをして誤魔化すが、飼育員は更に攻める。
「そうでしたか。スグルは3年前この動物園に来たんですよ」
「さ、3年…」
芽衣は急に言葉を詰まらせた。
「今は一人なんですけど、実は先月なんですけどね。ここには元々メスがいたんですよ。しかし病気で急死してしまいまして…それ以来元気がないんです。今メスを探しているんですけどなかなか引き受けてくれる動物園がなくてですね。困っているんですよ。あ、すみませんね長々とお話してしまって。早速今日の作業内容を説明しますので着いてきて下さい」
飼育員と共に芽衣は歩き出す。飼育員の後ろを歩いている芽衣は時々後ろのカバを見ていた。
事務室的な部屋に着き、隅にある机を挟んで置いてある椅子に二人とも座る。
「今日はですね、こちらの紙に書いてありますのでこの通りに行ってください」
机の上に紙が置かれる。そこには作業内容が細かく書いてあった。
「はぁ…」
「カバって怖いですか?」
「い、いや!私動物大好きですから!」
「そうですか。では早速あちらのロッカールームにですね、紙で東浦さんと書かれたのがロッカーがあるのでお着替え下さい。中には作業着がありますので」
「はい」
奥の廊下を進み、ロッカールームと書かれた部屋に入り、自分の名前を探し、開けると灰色のつなぎとわくわく動物園と書かれた帽子が掛けてあった。私服をロッカーへしまい、つなぎを着る最中、芽衣はあのカバが気になった。
「名前が…スグル。3年前…逸が行方不明になった年。まさかあのカバ…でも人が変身する訳ないし、偶々よね。考えすぎよね私、どうしても逸って聞いちゃうと体が勝手に反応しちゃうから…」
独り言をぶつぶつ言いながら芽衣は着替えを再開する。その声を壁越しで飼育員が聞いていた。
「成る程成る程。彼の事をあの子は知っているようだね~。丁度良い相手じゃないか。グフフフ」
小さい声で飼育員は笑う。
誰かに聞かれている等思ってもいない芽衣は、汚れているのが気になるつなぎを我慢し、長い髪の毛を束ね、帽子の中へと入れ、芽衣は部屋を出る。
飼育員と再び外に出て、先程のカバの檻の隣の狭いドアを開け、進んでいくと、もう一つ扉があり、開けると廊下があり、左には檻があり、ここでカバは夜寝るらしい。そこは糞がそこら中にばら撒かれ、何せ臭いがきつかった。
「道具はこちらのロッカーに入ってます。それではお昼になりましたら見に来ますので、その紙通り午前中のメニューを行って下さい」
「はい!」
飼育員は去っていき、芽衣はまず最初、掃除から始めた。ロッカーから雪かきに使うスコップを取り出し、近くにある蛇口に付いているホースを片手に蛇口を捻り、水を出す。紙にはまず水を全体的に撒き、スコップで奥の溝へ入れ、隅の穴へ落とすと書いてある。その通りに行い、そこら中にある糞をスコップで奥の溝へと落とす。
「にしても臭いよココ」
鼻にツンと来るような臭いの中、呼吸が間々ならない。咳をしながらも芽衣は全ての糞を溝に落とし、溝の端にある穴へと落とす。
「次に。餌を餌室の人に伝え、檻の近くにある餌箱に入れる。餌は乾草20kg、ニンジン・イモ各1ブロック」
芽衣は早速、裏道を使って餌がある場所まで歩く。時間は既に開園時間となっており、親子や幼稚園児の声が聞こえる。餌管理室と書かれた大きな倉庫に到着し、近くにいた人に言うと、餌の場所を教えられ、行ってみると、ブロックで固められた乾草が積まれていた。一つ5kgって言ってたから4往復かと溜息吐き、倉庫内にあった一輪車を動かし、乾草を一つ乗せて動かすとこれが結構な重労働だった。
「重っ…」
倉庫からカバの檻まで約400メートル。2往復目まではなんとか止まらず運べたが、3往復目にさしかかると次第に腕と腰に痛みが来た。
その頃、飼育員はと言うと、パソコンである物を調べていた。
「東浦さん、あの子は確実にスダレとの何かしらの関係がある筈だ」
色んなサイトで調べるとある記事が出てきた。
「お、あったあった。これこれ」
画面には3年前に起きた行方不明事件。写真を見るとそこには芽衣の写真が小さくだが映っていた。
「成る程。もしかしたらもしかして、東浦さんは逸君のアレの可能性が高いですね~なら尚更」
飼育員は机から白い粉末が小瓶を取り出す。そして未開封のスポーツ飲料を開け、中にその粉末をゆっくり入れる。
「これで完成。後は飲ませるだけだ」
「ふぅ~」
最後にニンジンとイモを含む野菜類一ブロックを運び、乾草をばらしながら箱の中に入れていく。時間はあっという間に過ぎ気付けば園内で12時を知らせるメロディが流れている。
「も、もう12時!?」
まだ乾草一ブロック残っており、芽衣は急いでばらし、箱の中に詰めていった。
「ハァハァ、やっと終わったー」
作業を終える頃には汗が滴り、腕がパンパンで、指も悴むように動かないというか少し痙攣を起こしていた。そう言えば臭いにも慣れてると思いながらも疲れたと、近くにあった木製の椅子に座り、顔を下げ、ぐったりしているとドアの音が聞こえ、芽衣は顔を上げ、立つ。
「お疲れ様、東浦さん。重労働で疲れたでしょう?」
「いえ、そんな事はありません」
「そう?手が震えているように見えるけどな~」
飼育員の目には両手が微動に震えているのが見える。
「ウソは言っちゃだめだよ。疲れた時は疲れたって言わなきゃ。はいこれ、食べる?」
飼育員はクッキーと500mlのスポーツ飲料入りペットボトルを持ってきた。
「いいんですか?」
「勿論食べて食べて!」
渡されると芽衣はまずペットボトルを開ける。しかし既に開けてあったみたいですぐ回せた。そしてゴクゴクっと3分の1程度飲む。そしてクッキーを半分食べる。
「ありがとうございます」
「いやいや、お昼ご飯もあるからちょっと待っててね」
背を向けると、飼育員はニヤッとし、扉を閉めると立ち止り、
「これで君は水崎 逸君と永遠に一緒ですよ。東浦さん」
飼育員は再び歩き出した。
「なかなか来ないな~あの人」
あれから10分以上は経ったと思う。一向に飼育員が来る気配は無い。
「ヴォーッ、ヴォッヴォッヴォッヴォ」
向こうでカバが鳴いている。
ガガガガガガ
そんな事を思っていると急に壁の一部が開きだした。それはここと向こうを繋ぐ道。すると巨大なカバがその間を通り、芽衣がいる部屋に入ってきた。その大きさに芽衣は声が出ない程驚いた。カバは芽衣が餌を入れた箱に顔を突っ込み大きな口を開けてムシャムシャと乾草を食い千切る。檻と芽衣の距離は約2メートル。カバがこっちを見ながら食事している。その迫力は凄いとしか言いようがない。
グッググゥウウ
「やだ!…あれ?何この匂い」
急にお腹が鳴りだしたと同時にいい香りが鼻孔に入る。
「何処からするのこの匂いは」
くんくんと周囲を鼻を嗅ぐと、その先にはカバが食べている乾草だった。
「え!これ!?」
今まで香りすら感じなかった乾草が今となってはいい香りとなっていた。
「私、どうしたの!?疲れでおかしくなっちゃったの!?」
脳内が混乱する中、体は自然に餌へと前屈みになる。するとカバは急に食事を止め、後ろへと下がった。すると芽衣は一歩、一歩と餌場へと近づき、餌の真上まで顔は来ていた。鼻の中に入り、喉を通って、胃の中に入るとそれが刺激となってお腹が鳴る。
「やばいどうしよう…ジュル、涎が…」
口の中が涎で一杯になる。すると芽衣は檻の中へ入る扉から入り、芽衣は立ち膝の状態で乾草に顔を付ける。直に匂う草の香りは芽衣にとってはたまらなく、胃を刺激し、唾液が活発に分泌する。
「も、もうダメ!!!」
カブッ
芽衣は乾草を手を使わず口へと入れ、口からはみ出る草を気にせず噛み始めた。噛めば噛むほどい草の旨みを感じ、幸せな顔をしながら強引に喉へと入れると再び乾草を銜えた。
「やだ…美味しい…美味し過ぎるぅうううう!!!」
無我夢中で乾草を食べていると体にも異変が起き始めた。体全体が大きく肥大し、耐えれないつなぎはビリビリっと音を立てながら破れていく。下半身は短くなり、上半身が大きく伸び始め、手足は短くなり、ずっしりと大きくなった。その間芽衣は自分が変わっているという自覚は無く。只管乾草を食べていた。すると今度は人間だった時の皮膚が剥がれ落ち、新たに分厚い鼠色の皮膚が姿を現した。
「あうぅ、んふぅ、んふぅ」
喋る事すら出来なくなり、凄まじい鼻息の音が聞こえる。顔も変形し始め、大きく肉が付き、鼻と口が前へと伸び、顔の側面上方に目・耳が移動し、水中からこれらだけを出して周囲の様子を伺えるようになった。顎の筋肉が非常に発達し、巨大な口には、長く先のとがった門歯と犬歯が生え、中でも長い下顎の犬歯が目立つ。
「ブホッ、ブホッ、ブホッ!」
気付けば体長3.5メートル前後、体重は2トン以上あるかと思うくらい芽衣はカバへと変身した。
「すっかり可愛くなったじゃないか東浦さん」
飼育員の声に芽衣は我に戻った。
「(あれ?私何を…ん?何この臭いっ!)」
鼻を上下に動かす私を見て飼育員は笑いながら喋る。
「まさか今気付いたんですか東浦さん。あなたはとても綺麗になりましたよ。酷く、醜く、臭~い、カバに!」
「(カ、カバ!?)」
そう言えばやけに目線は低いし、体が重い。試しに喋ってみると、
「ヴォーッ、ヴォッヴォッヴォッヴォ」
という鳴き声に私は自分の声に驚きを抱く。
「すっかりカバになってしまって。いい姿ですよ東浦さん。これからスグルと共に仲良く、そして付き合って下さい。水崎 逸君と!」
「(何で逸君の事を!)」
「どうやら驚いているようですね~。いいでしょう、実はあの逸君は私が誘拐したんですよ!」
「ヴォッ(何ですって)!?」
「私はある研究組織に所属していましてね~。人をこうしてケモノにする専門なんですよ。3年前の昨日だったかな?私は帰り途中だった逸君を背後から襲いましてね~研究室へ運び、実験でカバにしたんですよ。そして私は逸君と一緒にこの動物園に派遣され、数年前まで赤字で廃園寸前だったこの動物園の動物の殆どをあなたみたいなバイト員を使ってケモノにさせているんですよ。そうすればわざわざ取り寄せる必要もないですからね~。東浦さん、あなたさっきスポーツ飲料飲んだでしょう?あれには獣化剤を入れておいたの。だからあなたが最初蓋を開ける時、少し止まったから私は焦ったよ。けど疲れている状態で飲まない訳がないからそこまで心配はしませんでしたけどね。心配しないで下さい。死ぬまであなたはそこにいるカバとしての意識しかない元彼のスグルと一緒なんですから。あ、そうそう。なんでそんな事まで知ってるかって思いました?それは簡単です。東浦さんが初めてスグルを見た時、あなた驚いていましたよね。今まで何人かに他の動物等で行ってきましたが、大抵の確率で名前で驚く人は彼氏彼女、または知り合いっていう事が分かったんで、今回あなたはカバで反応したという事はスグルと何か関係あると思ってですね、インターネットで当時の新聞を見た所あなたが映っていたんですよ。そうしたら尚更してあげないと思いましてですね。因みに先月亡くなったのはスグルの知り合いでしたが、突然暴れ出したので射殺しました。なので東浦さん、くれぐれも安静でお願いしますね」
笑顔で話す飼育員だが、目は本気だった。
午後になり、スグルは再び外に出て、プールに入り、芽衣はまだ自分の姿を受け入れる事が出来なかった。食後間もない頃に尻尾を振りながら糞をまき散らした。自分で出した糞を見ようと体を動かす度にずっしりと来る体が伝わり、惨めさを感じ、動くのをやめた。喋ればさっきみたいな鳴き声だし、体動かせば、より一層カバだという事を思い出してしまい、芽衣はその場を何時間も動かずにいた。すると、プールにいるスグルは突如上がり、芽衣の近くへ来た。
「ヴォーヴォッヴォッ」
「(何よ!何て言ってるのよ!ちゃんと喋ってよ!)」
芽衣はムキになりながら答える。スグルは頭で芽衣の体を擦る。
「(何よスグル…今更甘えて。私は…私は3年もの間、どれだけ心の片隅であんたの事を思っていたと思うのよ!もう二度と会えないと思ってあなたが消えた日から私ずっと、ずっと泣いてたんだからねッ!)」
喋ってる内に芽衣の目には涙が溢れ、零れだした。
「(バカッ!スグルのバカ!)」
そう言い、芽衣は振り返ろうとすると、スグルはいつの間にかプールとは反対側に移動し、芽衣をプールへと押していく。
「(ちょ、何すんのよスグル!」)
その力に芽衣は抵抗できず、凄い水しぶきを上げ、芽衣はプールに落ちた。
「ヴォッヴォッヴォッ!?(溺れる!助けて!助けて!)
水の中に入り、ジタバタと水しぶきを上げもがいている内に、芽衣は前後足を交互に動かし泳ぎ方をマスターしていた。その後にスグルもプールへと入った。
「ねぇ先生!あそこにカバがいるよ!」
近くに保育園児がカバの方を指差すと保育園児は全員カバの檻へと集まった。
「うわ、でっけぇ!」
「(お願い…見ないで~)」
保育園児の声を耳でキャッチすると芽衣は恥ずかしくなった鼻と目と耳を水上に出し、見られないように端に隠れようとするが後ろでスグルは芽衣の真後ろに着くと顔の一部を芽衣の胴体に乗せる。
「(な、何する気よスグル。ヒヤッ!)」
突然スグルは体を動かし、芽衣の胴体へと圧し掛かった。2トン以上はある体を芽衣は歯を食い縛る思いで耐える。
「(ま、まさかコレって…スグル待って!まだ準備がっ!)」
芽衣が慌てる内にゆっくりとスグルは交尾を始めた。重い体に沈みそうになり、必死で鼻だけはと上向きに顔を上げる。
「せんせー、カバさんは何してるの?」
「そうね~、抱いているんじゃないかしら」
皆まじまじと見られ、芽衣は恥ずかし過ぎて外見からは見えないが顔が真っ赤になる。
長々と続いた交尾が終わると、スグルは芽衣から離れた。一方芽衣は精神を上手く保つ事が出来ずにいた。
数か月後、芽衣のお腹には赤ちゃんがいる事は判明。
「そう…このお腹の中に赤ちゃんがいるのね」
飼育員に撫でられながら伝えられ、芽衣は悲しい涙を流した。
「本当は人間の赤ちゃんが欲しかった…」
しかしその願いは叶わずに終わってしまった。
そして8か月後。芽衣の横には小さい赤ちゃんが歩いていた。そう芽衣はママになったのだ。この頃はもう人間という意識はもう無く、スグルと一緒にカバとして過ごしている。そして柵にはスグルと新たにメイ、そして赤ちゃんの名前が書かれた看板が建てられた。
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