case1-2 クリスマスプレゼント(後半)
寮に着き、糸井は仕事着からパジャマに着替える。二段ベッドの上にいる村田は壁の方を向いて寝ているようだ。
「明日は久しぶりに休めそうだからゆったり出来る」
暖房器具から出る熱にあたりながら背伸びをする。
「そろそろ寝ようかしら」
暖房器具の電源を切り、糸井は部屋の灯りを消し、二段ベッドの下へと移動する。
ふふふ…糸井、あなたは今夜素敵なプレゼントを貰う事になるわよ。
寝ているかと思っていた村田は瞼を開き、頭の中で呟いた。
今宵、あなたの変わる姿をちゃんと見ておくから。楽しみにしてるから。
あれから1時間ちょっと。
「ハァハァハァハァ」
突如糸井の息が荒くなり、冬だと言うのに顔から汗が発汗している。
フフフ。遂に来たわね。
一方村田はやっと来たと布団の中でにやける。
「うぅ…なんでこんなに熱いのかしら」
暖房器具は切ってある。電気毛布の数値を見ると弱に設定されている。
「おかしいな…体中汗が」
思わず上着の中に手を入れるとサウナにいるかのように手には汗が付いていた。体を起こすと、汗で布団はびっしょり、夏でもこんな事はあり得ない。頭から足の指まで全て熱い。糸井は布団を捲り、部屋の灯りを点ける。
「!!!」
灯りが点いた途端、糸井は言葉を失った。
「な、何!?一体どうなってるの!」
糸井が驚いたのは腹部だった。くびれが少しだけあった筈の糸井の腹部は今ではまるで妊娠しているかのようにぽっこりと出ていたのだ。
「な、何これ…ど、どうなってるのよ」
焦る糸井の声を村田は笑いを堪えていたが、我慢できず、
「グフフ」
と声に出してしまった。
「村田起きてたの!?」
「ゴメンゴメン。フフフ、なかなか寝付けなくて」
体を起こし、上から糸井を見る。
「何笑ってんのよ!」
「ゴメンゴメン」
「そんな事よりこれ見てよ!このお腹」
両手でぽっこり出たお腹を抱える。
「大丈夫よ。あなたはそれでいいのよ」
「え?どういう事!?」
村田の発言に糸井は驚いた。
「すぐに分かるわよ」
「すぐにって…あなた何かしたの!?」
「糸井。私実はね。ここ以外にももう一つ働いている所があるの。HTって知ってる?」
「H…T?」
糸井は首をかしげる。
「知らないならいいわ。そろそろ始まるみたいよ?」
「え?」
村田の合図と共に急に体が再び火照り出した。
「あ、あちゅい!あちゅいよ!」
激熱の温泉に我慢して入ったかのように更に汗が噴き出る。
「そんなパジャマ、熱いなら脱いじゃいなって」
上からの村田の言葉に、糸井は上着を脱いだ。あまりの熱さに彼女の体から湯気が上がる。
ムクムクムクムク
「いやぁあああああ!!!」
急に腹部が蠢きだすと体中が一気に蠢きだした。糸井は驚いて尻餅を着く。まるで何人かの人にマッサージされてるような感覚を抱いた。蠢きながら糸井の体が大きくなる。
「何!?村田!あんた私の体にな、何をっ!」
骨の軋みで激痛が走り、喋りが止まった。上半身はどんどん大きくなり、糸井は自分の下半身を見る事が出来なくなった。足は踵の骨がボキッと音を立てると徐々に背伸びするように真っ直ぐになる。そして人差し指から薬指が一つに付着し、指の腹は縮小しながら爪は分厚く黒くなり、所謂蹄へとなった。それは手も同然のようになった。お尻からは肌色の尻尾がニョキニョキと伸びているが、大きくなった上半身で見る事が出来ない。何が起きてるか分からない糸井にも自分の体の変化に気付く。腹部に数本のピンク色の突起物が現れるとそれも大きくなっていく。大きくなるにつれて血管が浮き出て見える。その時糸井は自分は何になっているのか分かった。
「まさかこれって…」
「分かった?あなたはこれからソレになるのよ」
「ふざけないで!何で私があれっ…あへっ!!?」
急に呂律が回らなくなったと思ったら顔が変わり始めた。首が伸び終わると、目の下で何かが伸びていく。それは正しく鼻だった。鼻と共に口も前へと移動し、収納出来なくなった舌が口から出る。
「ふらた(村田)、なんとかひぃなひゃいよ(なんとかしなさいよ)!」
「あら?まだ喋れるのね。まぁもうじきあなたはアレしか出ないから今の内に喋っておきなさい」
必死で糸井は喋るが、その間にも耳がピンと左右に伸び、髪の毛の間から鋭い角が生える。
「う…(何かが喉につっかかる)」
糸井は喉付近で何かが詰まっているのを感じる。出せと体は命令しているが、糸井はこれをしたら終わりだと思った。
「う゛う゛う゛う゛…う゛ぐぅうう゛…」
「あら何か我慢しているようね。さっさと出しなさいよ。鳴・き・声って奴を」
「(い、嫌だ…絶対に…出すものか…」
必死で堪えているが徐々にソレは上がっていき、そして限界を超えてしまい、
「ブ……ブボォオオオオオオオオオ(いやぁああああああああ)!!!!!」
目を大きく開けて、天井に向けて糸井は野太い声で鳴いた。それと同時に一気に白黒の獣毛が皮膚から生え始めた。
「お見事。やっぱり効果は最高ね」
床で横たわっている糸井、いやホルスタインを二段ベッドから見下ろしながら拍手をする。
「この残ってる髪の毛が生生しいのよね~」
髪の毛以外は完全に牛。糸井はこれ以外口から出る事は無かった。長い舌で鼻を濡らし、ギョロっとした目の先は村田を見ていた。よく見ると目からは涙が流れていた。
「ンモォオオオオォ(最悪…)」
「あら?泣いているの?大丈夫。いずれ慣れるわ」
翌朝。何故部屋に牛が居るのか分からないまま、糸井を牛舎へと連れて行った。
「ブホォオオ(痛いッ)!!!」
鼻輪を付けられ、紐が通され、柵に結ばれる。
「にしてもどうして寮に牛がいたんだろうね~」
社長が糸井の前で呟く。
「にしても牛に何で髪の毛があんなに生えてるの?気味悪ぃ」
「宇宙から来たんじゃないの~?」
「変なウイルスでもかかってるんじゃないかしら?」
「やめてよ!そんな事言うの!」
「(ヤメテ…それ以上言わないで!)」
「皆そういう事言うのやめなさい!牛が傷ついてミルクに影響が出たらどうするんだ!」
社長の喝によって沈黙したが、散々言われた糸井の目には涙が溢れていた。
日がとっくに昇った午前8時頃。糸井は腹痛に耐えていた。
「(うぅ…お腹が痛いよぉ…)」
お腹は変身したあの時より血管が浮き出て、たっぷりとミルクが溜まっていた。誰か絞ってと念力を込めていると、一人の社員が遠くを歩いている。
「(お願い気付いて…気付いて!)」
すると社員は突如こっちを見ると近づいて来た。
「どうしたんだい?」
来たのは30代の男だった。
「あっ!お腹がこんなに張っているじゃないか!今すぐ搾乳機を使わないと!」
男は急いで会社へと戻った。
暫くして糸井は紐によって誘導され、搾乳機を付けられた。
「スイッチオン!」
シュゴシュゴシュゴ
「ブホォオオオオオオオ!!!(あ、き、気持ちイイイ!!!)」
強力な力で糸井のお腹に溜まっているミルクを絞り出す。
「(お願い…もっと絞ってぇええ!)」
「凄い量だわ…」
搾乳は通常の牛より5分程度もかかった。通常は2頭で一杯になる大きなバケツが、今回はこの牛だけで3分の2くらいまで溜まった。
絞り終えると糸井は再び牛舎へと戻された。すると目の前の桶には飼料がたっぷり置かれていた。
「さぁお食べ」
頭を撫でられ、社員は去っていた。目の前には飼料が山盛りに盛られている。匂いを嗅ぐと糸井のお腹が鳴った。
「(ヤバイ…こんな飼料に何で私…)」
気付かないうちに糸井はお腹を空かした犬のように長い舌を出し、涎をダラダラと垂らす。
「(食べたい…けど食べたら私は)」
飼料に口を付けたら自分は牛だと認めてしまうと否定する自分がいる中、もう片方では単にお腹を空かし、目の前の盛られた飼料を貪りたいという自分もいる。今は若干貪りたい方が優先だ。ゆっくりと飼料へと顔を下げる。
「(ちょっとだけなら、一口だけなら)」
次第に顔を近づけ、長い舌を飼料に付けようとした時、我に返った糸井は再び顔を上げた。
「(ダ、ダメよ私!こんなの食べちゃ!食べたら私は人間じゃなくて牛として認めたってなるわ)」
頭の中ではそう思っていながらも体は正直。相変わらず長い舌を出し、涎が飼料に落ちる。食べないと意識してても空腹という恐ろしい力がどんどん増していく。
顔を近づけたり遠ざけたりの繰り返しをし続けて10分。もう意識は牛としての本能しかほぼ残っていなかった。
「(も、もうダメ。この匂いといい、耐えれない)」
匂いに押され、遂に糸井は飼料に顔を付けてしまった。
「(な、何これ…今まで食べた事がない美味しさだわ)」
鼻に飼料を付けながら糸井は飼料の美味しさに酔い痴れた。そしてこの美味しさがたまらなくなった糸井は自分を制御する事が出来ず、無我夢中で飼料を食べる。
「(美味しい。美味しい。病み付きーーーー!)」
空腹とあって糸井はあっという間に飼料を食べてしまった。
「(牛ってこんなに美味しいものを食べてるなんて羨まし過ぎる)」
有り得ない美味しさに糸井は満足した。
数時間後、糸井はある壁に直面していた。それは排泄。先程の搾乳する前よりはきつくはないが、お尻の穴を狭めようとお尻に力を入れ続けてる状態をずっとしていて筋肉痛になりそうだった。
「(うぅ~、どうしよう…)」
人間だった時はトイレで密室で行っていたが、ここは牛舎。ましてや外。そして前には人が見える。
「(どうしよう。このまま我慢…って言っても我慢の限界が…)」
先程食べた飼料によって胃は活発に動き、大量のアレがお尻付近に溜まっているのだ。
チョボチョボ
我慢できず尿を少し出してしまう場面があるが、まだアレは出していない。
「(ヤバイ…も…我慢が出来ない)」
膝を内側に曲げ必死で我慢しているが限界はいずれ訪れ、
「モォオオオオオオ(ダメェエエエエエエ)!!!」
ボトボトボトボトボト
ペットボトルを逆さまにして一気に中の溶液を出すように、糸井のお尻から大量の糞が飛び出た。それは2分にも及んだ。
「(私はもう牛なんだ…何もかも)」
排泄し終えた一頭は寂しげな顔をしていた。
数週間が経ち、すっかり糸井は恥ずかしさも感じず、牛の生活に慣れた。飼料が来たら遠慮せず食べ、排泄は誰が見ようと普通に行っていた。
「(あ、来た!)」
搾乳しに二人の社員が近づいてきた。
「今日もパンパンね~」
「ホント。この乳牛凄いわ」
糸井は鼻輪に結ばれた紐で誘導され、楽しみにしている搾乳へと向かった。
「糸井、これからも頑張ってね」
村田は窓から連れて行かれる糸井の姿をコーヒー飲みながら見ていた。
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