case1 クリスマスプレゼント(前編)
この話は獣化します。よい子は読まないでね
「遂に出来た…」
薄暗い研究所で村田という研究者は一人で何かを作っていた。そして遂にそれは完成した。
「遂に出来た!後は人を探すだけ…と言っても、もういるんだけどね」
フラスコに入ってるオレンジ色の液体を見ながら呟く。
「ハァ…これじゃあケーキが間に合わないわ」
クリスマスまであと3日。ケーキ売上6年連続No.1のササガワケーキはとても軟らかい生クリームが特徴で大人気。この時期になると予約が殺到し、この時期だけは他県への販売は中止し、予約のみで行っているが先着30万個は予約開始2分で売り切れた。それでも欲しい人は工場内にある販売所まで駆けつけて買いに来る。
「スポンジの数はまだ大丈夫ね。苺も飾りも充分ね。あとは…」
ササガワケーキ唯一の工場の工場長、糸井 愛美はあと一つだけ足りない材料を気にする。それは生クリームだ。ササガワケーキは契約している畜産業の牛から取れるミルクしか取り寄せない。しかし今年は例年以上に予約が殺到し、生クリームだけ全然足りないのだ。
「困ったわね~、これじゃあ間に合わない。どうしよう…」
糸井はその夜、敷地内にある会社に入り、地下一階へと下りた。扉の前には研究所という文字が。
「失礼します」
中に入ると正面にはガラス張りの部屋でマスクをし、白衣来た人が薬瓶を持って研究をしている。その前の横長の部屋にも研究員がパソコンを使って仕事をしている。一番奥には研究所長の村田が書類を見ていたが、糸井の姿を見ると資料見るのを止めた。
「おや、糸井工場長じゃありませんか。あなたが此処に来るなんて珍しい」
「工場長なんてやめてよ、堅苦しい。同級生なんだからここは糸井で良いわよ」
糸井と村田は大学の同級生。二人一緒にここの会社に志望し、見事一緒に入社することが出来た。
「ちょっと遊んだだけよ。で?どうしたの糸井?」
「それがね。材料が間に合わないの」
「材料?」
「そう、生クリームだけ足りないのよ。これじゃ販売できなくなっちゃうの」
「それは一大事ね~」
「なんとかならない?」
「そんな事言われてもね~あたし達は開発部だし…ふ~ん…」
村田はわざと書類を見ながら考えるフリをする。
「ねぇ聞いてる!?」
「聞いてるわよ~。そうだ!」
「何か策でもあるの!?」
「確か明日アルバイトが来るんだっけ?」
「そ、そうだけど…」
「何人くらい?」
「確か50人…」
「OK!私に任せて!いい方法があるの。ちょっと耳貸して」
村田はあたしにそう言うと、耳打ちでこそこそ喋り出した。
「え!!」
それを聞いた私は吃驚した。
「そんな事出来るの!?」
「出来るわよ。何のために開発部があると思ってるの?」
「この為じゃないと私は思うけど…」
「つべこべ言わない。明日までに人数分作っておくわ」
「よろしくね」
私は部屋を出た。
「本当にそんな事が出来るのかしら…」
村田のあの耳打ちの内容…本当にそうなるのかしら…
私は少し心配になる。
開発部全員が帰った後、村田は例のオレンジ色の液体を見ながらニヤニヤしていた。
「人材は違うが、まぁ試しでやってやろう…いづれあなたもそうなるんだから」
携帯電話を開き、一枚の写真を表示させながら村田はニヤッとした。
翌日。工場内にはアルバイトしに来た、50人の女子が集まった。
「皆さん、今日明日と働いてもらいます。それでは早速分担します」
私は工程、そして皆ケーキ作りが未経験だと言うのを頭に入れながら比較的簡単な作業に入るように分けた。と言ってもこれはあくまで嘘。
「それではこれから着替えて貰います。着替えたらまず最初に我が製品の商品を試飲して貰います。こっちへ来てください」
アルバイト達を案内させ、着替えさせた後再び移動。そして着いた場所は何もない30畳程の部屋。その真ん中にはテーブルの上に紙コップに入った白い液体が入っていた。
「これは我がササガワケーキが一番こだわっている生クリームの原料、牛乳です。市販の牛乳より味が違うと思います。それでは飲んでみてください」
アルバイトの人達は紙コップを持ち、中に入っている液体を飲む。実はこれは牛乳味にした薬。昨日の耳打ちの内容はこうだった。
「なら生クリームの原料となる牛乳をここで作ればいいのよ。今私の研究で人を動物に変えるお薬、獣化薬を作ってるの」
「え!?」
「だから私が明日までに50人分乳牛に変身させる液を作っておくわ。味も色も牛乳っぽくしとくから糸井、ちゃんと明日皆を騙すのよ」
私はちゃんと言った。そして皆白い液体を飲み干していく。
「美味しー」
「本当だ、家で買ってる牛乳と全然違う。濃厚~」
評判は良く、糸井はホッと安心した。しかしそれも束の間。
「う…なんか気持ち悪い…」
その言葉が全ての始まりだった。
ボコボコボコボコ
バキバキバキバキ
一人の女子が腹部を抱え、しゃがむと彼女の筋肉が蠢き始め、同時に関節が考えられない音を出しながら彼女の体が肥大していく。耐えれなくなった作業着はビリビリと音を立てながら破れていく。胴体が大きくなると手足が黒く変色し、蹄へと変わっていった。
「な、何これぇええええ!!!」
「いやぁああああああああ!!!」
そして胸が腹部へと移動し、腹部から新たに4つ突起物が出るとピンク色へと変色しながら血管が浮き出る程パンパンに膨らむ。お尻からは皮膚と同じ色の尻尾が生える。二足だけでは耐えれなくなった体を支えるように彼女は両手というより前脚を床に付けた。今の所、顔は人間、それ以外は肌色な牛の体になっている。次に白と黒の所謂ホルスタインのような柄になるよう、皮膚から毛が急速に生え始める。
「ぐわぁああああああああああああ!!!」
顔も変わり始めると、叫ぶ声は徐々に低くなり、牛が鳴くような音程になった。耳が三角形のように変形し、首がボコボコと大きくなり、鼻の穴も大きくなり、口と一緒に前へと突き出す。
「ぶほぉおお、ぶほっ、ブモォオオオオオオオオオオ!!!」
口を開け、長い舌から出る涎をまき散らしながら騒音くらいに大きく鳴く。戸惑っているのか目をくりくり動かしている一人…いや、一頭の雌の乳牛がいた。
「ンモオ゛オオオオオオオオオ!!!」
「ブホォオオオオオオオオオオ!!!」
次々と皆、乳牛へと変わっていく姿を見ている糸井は只々そこに立っていることしか出来なかった。
「ほ…本当になった」
僅か数十分で、部屋には50頭の乳牛が長い舌で鼻を舐めたり、尻尾を振っている。糸井と後に来た従業員は早速、変身したアルバイトの全員を廃墟と化し、使い道の無い牛舎に全員入れ、餌場に飼料を与えると何の抵抗も無く食べ始めた。
「成功したようね」
「村田…」
後ろを振り向くと村田がいる。
「これで間に合うんじゃない?あの液体には乳房が通常の乳牛比より20%増。乳量も通常より30%増にしといたから」
確かに今まで見てきた乳牛より乳房は大きく見える。
「これでなんとか間に合いそうね…」
「良かったわね糸井」
「あなたに感謝するわ」
「なに、困った時は助けるのが友達でしょ?」
「村田…」
「頑張ってよ」
そう言って村田は帰っていった。
その後早速機械を通じて絞っていく。大量の生乳を別の機械を通じて、生クリームを作っていく。出来立ての生クリームを早速スポンジに塗っていく。
急ピッチに行われた作業はなんとかクリスマスまでには間に合い、1万個限定で販売したケーキは、僅か3時間で完売した。アルバイトの皆は流石にこのままではいけないので、村田から元に戻す薬を飲ませ、人間に戻し、給料を与えて帰させた。これでひとまず安心。
その夜、残業で一人デスクワークする私。すると、
「完売したようね。お疲れ様、糸井」
後ろで両手にコップを持っている村田の姿だった。
「村田!本当にありがとう」
「困ったら助けるのが人でしょ?」
「そうね」
「これ飲みなよ。体が温まるわよ」
渡されたのは温かいホットコーヒー。
「ありがとう」
受け取り、コーヒーを飲む。
「美味し~い」
「にしても工場長も大変よね~。こんな遅くまで仕事してるなんて…」
「今日だけだよ」
「そっか。じゃあ私は先に寮にいってるわね」
「うん。お疲れ様」
村田は部屋を出て行った。そして村田は扉の向こうで密かに笑顔になった。
「糸井…あなたも実験対象にさせてもらうわよ…明日の朝が楽しみだわ」
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