8話
「まぁ、しゃあないの。 相手が悪かった。」
模擬戦を終えてひと息ついた。
レティを除く全員がボロカスにやられた。
アクセル君やメイはもう少し戦えるものだと思っていたらしく、自信喪失の表情を浮かべている。
ミーレスに来て1ヶ月。
訓練にも慣れてきて実は自分はいけてるんじゃね?なんていう自信をポッキリと折られてしまったのだから、さもありなん。
何事も慣れてきた辺りが一番危ないという。
早めに折られておいて正解なのかもしれない。
ミーレスは心折設計だったのさ。
一方、俺は技術的な差というより圧倒的なフィジカルの差に驚いていた。
ここまで開きがあると近距離というより接触すら避けなければ戦えないとすら感じていた。
流石にこれは技術でなんとか出来る範囲とは思わない。
「前に言うたと思うが山をも割るやつがいる世界じゃ。 一歩一歩登っていくしかあるまいて」
「確かにな。 コツコツいくしかねぇな」
今のところ想像できないが、俺もフェイのようなフィジカルを手にすることが出来るかもしれない。
そしてまだまだ技術は磨くことが出来る。
魔法なんてまだ覚えてすらいない。
自分が強くなれる伸び代を考えるとテンションが上がってきた。
俺の性格を知るレティはにっこりと邪悪な笑みを浮かべている。
お前は今、楽しいんだろ? もう一度この世界で高みを目指せるならばここでいいんじゃないかと。
見透かされたような視線にイラッとくるが、確かにそう思い始めている自分がいる。
「一部例外がいるが……お前ら何をしょげてんだよ。 まさか勝てるとでも思ってたのか?いくらなんでもそりゃ甘い」
訓練で乱れたオレンジの髪をオールバックに整えながらフェイが俺達四人の前に座り込む。
「甘いが……正直な所、俺ぁ驚いた! 特にそこの銀髪のちびっこは何者だ?」
「誰がちびっこじゃ、わっぱの分際で。 団長とか言うてもまだまだじゃろが。 磨くとこ磨いてからほざいてみせよ」
あまりの言い草にフェイが怒るかなって内心ヒヤッとしたが、気恥ずかしそうに頭を掻くだけだった。
「おまえにそれを言われると認めざるをえんな。 俺もまだまだだと痛感したぜ。 しかし、残りの三人も大したもんだ」
「三人ともボコられたのに誉められてもなぁ」
「ね、何も出来なかったのにさ、そう言われても素直に受け止められないね」
「僕も、もう少し戦えるものだと思っていました」
俺とメイ、アクセル君は憮然とした表情を浮かべて不満を述べる。
「馬鹿言うな。 第五騎士団と言えば帝国最強の破壊力を持つと言われる集団だぜ? この黒い鎧を見たら逃げ出すのが世界の常識よ」
がははと豪快に笑うフェイ。
「まぁ、そうしょげるな。 お前らは今日でここを卒業だ。 今日のこれはな、実はテストもかねてたんだ。 お前らならこの先も十分やっていけるぜ。 騎士団への推薦もしてやる。 どうだ、うちにこないか?」
いきなり卒業を言い渡される。
まだ1ヶ月ぐらいしか経ってないんだけど。
さらば無料飯。
しかし騎士団か。
そんなことを考えていなかったので返答に困ってしまう。
まだ魔法の一つも覚えていないし、正直もう少し訓練生のままでいたかった。
騎士になりたいわけでもないし、ある程度自由のきく冒険者の方が良いよな。
メイとレティにも確認を取ったけど同じ意見だった。
「俺たち三人はとりあえず冒険者になるよ。 その後に縁があったらその時はお願いします」
「そうか、残念だ。 まぁ気が向いたら連絡してくれよ。 詰所でもギルドでも連絡はつく」
アクセル君は即答で騎士団入りを希望していた。
国家公務員みたいなもんだし、給料も高く安定している。
団長に認められる位の才能なんだから、開花すれば大物になるかもしれない。
そんな訳でたった1ヶ月でミーレスを俺たち三人は追い出されてしまった。
感慨深いなんていう思いを抱くことなく、ただあわただしく日々を過ごすだけだった。
そんなわけで俺達は成績優秀者としてミーレスを卒業となった。
ギルドの冒険者ランクとしては特待生扱いで、下から二番目、ランク2だ。
上が5で下が1、一番下を飛ばして登録してもらえた。
特例でランク2にしてもらったはいいが、俺たちにはお金がなかった。
だって、ここに来たその日にミーレスの世話になって、速攻で追い出されたんだもの。
お金が無いので武器、防具はミーレスからのレンタル品、宿はギルド内にある雑魚寝出来る大部屋。
残念ながら、ランク1から2に上がってきた冒険者よりもずっとお金がない。
まずは貧乏生活を抜け出すのだ。
ここから頑張っていこう。
この世界にはモンスターがいる。
と言っても化物とかそういう意味ではなく、いわゆる野生動物だ。
化物じみてはいるけども。
それこそウサギのような小動物から、ドラゴンのような巨大なものまでいるらしい。
野生動物でドラゴンがいるってのも凄いよな。
見てみたい。
昔、RPGをやっていてザコモンスターが最初の街の周辺にいて、遠くにいけば徐々に強くなっていくのは何でだろうって思っていたけど、割と単純な理由だった。
人が住む所というのは、自分達の力で納められる範囲であるって事だ。
強大な力を持つドラゴンのようなモンスターがいる場所は人にとって僻地であるのは当然、自分達の力の及ばないモンスターの住みかには近寄らないからだ。
最初から僻地だったのではなく、手がつけられないから僻地になったのだ。
人の力で何とか出来るモンスターがいる場所を選んで、人類は地を耕し畑を作り、人が集まって街ができた。
しかしながら世界中にモンスターはいる。
比較的住みやすい場所に街を作ったものの、モンスターの脅威は常に人類の生活のすぐ側にあるわけだ。
その脅威から街に住む人を守るための自警団がギルドの成り立ちとなる。
街が国となり大きく発展しても、草の根の部分である生活を守るのはギルドの役割なのだ。
ギルドの酒場の片隅で、剥げた頭頂部を赤くしながら酔っぱらいのじいさんは、新米冒険者を捕まえてはそんな話をしている。
最初はなるほどなぁって感心しながら話を聞いたもんだけど、ずっと同じ話を延々とリピートしているので、流石に内容は覚えた。
残念ながらこの酔っぱらいは未だに俺たちのことを覚えていないらしく、近づく度にこれを話し始める。
不思議なことに新米冒険者にしか話さない。
何かフラグのようなものがあって、新人かそうでないかを判断しているのだろうと俺は考察していた。
このじいさんから話しかけられなくなったらルーキー卒業だな。
そういうフラグを立てるノンプレイヤーキャラクターいるよな。
それはさておき、今日も俺達は依頼を受けにギルドの掲示板とにらめっこだ。
薬の材料集めや護衛、はたまたお使いクエストなど様々ではあるが、俺達が選ぶのは主にモンスターとの戦闘がメイン。
モンスターの討伐や毛皮や肉といった素材を集めるといったものをチョイスしている。
理由は楽しいからだ。
もっと戦いたい。
俺もレティもリファインファンタジーをプレイしていた時は、ひたすらレベル上げをしていたレベリングジャンキーだった。
必要とあればゲームのストーリーを進めるためのクエストをこなしたりもしたが、それ以外の時はひたすら戦っていた。
メイも俺の血を引き継いだのか、毎日の依頼を楽しそうにこなし戦い続けている。
レベリングとお金を稼げる依頼は俺たちの大好物なのだ。
早朝、ギルドのオープンから日が暮れるまで毎日毎日戦い続ける俺たちは、今やギルド内でちょっとした有名人である。
「アイツら、頭がおかしいんだ。 稼いだ金で飲んだり、女を買ったりしないんだぜ? 凶人だよ」
そんなことを剥げた冒険者が言っていたのを聞いたことがある。
いつかコイツの髪の毛を7割ぐらい引き抜いてやる。
冒険者生活も順調で、借りていた装備も返却し、自分達のものを購入した。
未だにギルド内の大部屋を使っているが、街の宿を借りて暮らしていけるだけの蓄えはできた。
それでもここにいるのは、食って寝るだけの生活なのでここで十分だったからだ。
そんな生活を続けたある日メイに変化が訪れる。
帝国の城下町から数キロ離れたロンフォニーの森の中。
いつも通り依頼の角つき兎の討伐をこなしていた。
幾度かの戦闘を終え、依頼の達成に十分な素材を手に入れ、もうそろそろ帰ろうかという話になった。
最後の角つき兎との戦闘中にいきなりメイが動きを止めた。
いくら戦いなれたモンスターであるとはいえ、危険性のあるモンスターだ。
俺はメイを叱りつける。
「何やってんの? 相手が弱いからって油断しちゃダメだよ」
何かしら考え込むようなメイに向かってフォローに入る。
「父ちゃん、ウチは目覚めた! 今日は覚醒の日!」
「何がだよ! 起きながら寝言言ってるのに覚醒もクソもないだろ!」
メイに向かって三匹の角つき兎が、その鋭利な角を突き出しながら突進してくる。
無防備なメイの前に立ち、俺は迫るモンスターを迎え撃つ。
どっしりと腰を下ろし盾を構え、モンスターの陣形からどの順番で対処していくか頭の中で冷静に判断する。
角つき兎が間合いに入ろうというその瞬間、俺の眼前に飛び込んできたのは胴体から切り離された角つき兎の頭部だった。
「ふぁっ?」
思わず声が出る。
角つき兎は自分の首が斬られたことすら気づいていなかったのか、しばらく進み続けた後、脚をもつれさせるようにして倒れた。
地面に転がる頭部は、見る見る間に目の輝きがなくなっていった。
しばらく視線を角つき兎の頭と胴体を行き来させてから、メイに合わせる。
めっちゃどや顔!
これでもかというほどの「どや!」
つっこむのすら面倒な程に勝ち誇った顔で俺を見る娘がそこにいた。
「父ちゃん、わかる? これ」
常日頃、レティに言われていることがある。
魔力の流れを感じろと。
そんなことを言われても、元の世界では魔法なんて使った事はないし、魔力なんてものは持ち合わせていなかった。
なんとなく自分自身にたゆたう何かを感じるような気がするけど、これが魔力なのかどうかすら自分では判断ができないし……
メイも同じだった。
同じだったはずだった。
「えっ? 父ちゃんってばわからないの?ウチに秘められたこの力を。 あ、今の『私』と『ウチ』、『外』と『内』のダブルミーニングね!」
バチコンと力強くウィンクされた。
うぜぇ。
なんだかイラっとくるぜ!
そんな表情を浮かべた俺の顔に、自然のものではない、まるで見えない扇風機で作られたような風が吹き付けられる。
なんだ?
だんだんと風が強くなり、顔に皮膚が押し込まれ髪がなびき、瞳の水分が奪われていく。
「や、べ、ろろろろろろ」
上手く口を開けられず、まともに話すことも出来ない俺に、メイは爆笑する。
「そう! 父ちゃん。 これが魔法だよ!」




