39話
ん? ヘルクスハインってどっかで聞いた覚えがあるな。
誰だっけ……
そして、馬車の中からもう一人、同じくスーツなんだか、ローブを改造した様なかっちょいい服装の男が降りてきた。
あ、思い出した。
そうだ、ヘルクスハインって……
隣の我が愛娘に視線を向けると、彼女の瞳は既にハートな感じに出来上がっていた。
アーシェの護衛任務の時に彼女に同行していた顔面高レベル、確かにカイン・ヘルクスハインって名乗ってた。
メイの好みの顔らしく、父として苦い記憶を残していった男だ。
「皆さん、お久しぶりですね。お元気でしたか?」
カインは凍りつくような表情と視線から思いもよらないほどの暖かな声で、ニコリと笑っている風に挨拶をしてくる。
周りからは蛆虫を踏み潰した跡を見るような表情にしか見えないんだが、本人としては優しく微笑んでいるのだろう……
「結婚して下さい!」
開口一番、メイがとんでも無いことをほざき出す。
コイツ、頭イッてんのか?
父親の前で何言ってんだ?!
「ふふ、いいですよ。しかし、私にはすべきことがあります。そのあとになりますが、よろしいですか?」
「なるはやで!」
「おい!」
神速で婚約が結ばれた。
どうなってるんだってばよ?!
「父ちゃん、フィアンセです」
「お父様でしたか……娘さんと結婚を前提にお付き合いすることになりました。」
展開が早すぎて頭が追い付かねぇ。
というか、これは現実なのか?
「お兄様、馬鹿なことはおやめください。この愚民共をさっさとシリウス様のもとへと案内しなければなりません」
「エルフィー、以前から言っているけれどそんな言葉遣いはよさないか。すいません、妹が失礼なことを……」
同じアイスブルーの瞳に、銀の髪。
互いに真逆のギャップを生み出してはいるが……なるほどやはり兄弟なのか。
エルフリーデは馬車を指さし、顎をクイっと向ける。
「さっさと乗ってくださいませんか? 無駄な話に時間を割くことに私は苛立ちを隠せそうにありません」
可憐な笑顔に物凄くトゲのある声。
この兄妹の声は脳みそが現実の理解を拒否するからしんどいんだが……
「ワシもヌシの言葉に腹が立つのぅ。 ちょっくらキツめのお灸をすえてやってもよいのじゃぞ?」
ニコリとほほ笑むエルフリーデとキレかかってるレティ。
そして、うっすらと感じられるほどに魔力を編むローザ。
即座に戦闘に対応出来るようにしているあたり、しっかりレティの薫陶を受けていると感じられる……
しっかし、ローザも飄々としているようでその実、かなり好戦的なんだよなぁ。
師匠に似る弟子というかなんというか……
「本当にすいません。 今回の件、私たち兄弟にも非常に重要な関りがございまして、妹も気をせいているのです」
「まぁ、みんなとりあえず行こうよ。ここで話し込んでいても仕方がないよ。話なら馬車の中でも出来るんじゃないかな」
怒りを十分に膨らませたレティをニナが強引に馬車へと押し込む。
オレたちもそれに続き、馬車は城へと走り出したのだった。
馬車の中の空気は最悪でレティも、エルフリーデもイライラを隠さない。
ローザはどこ吹く風……の様に見えるし、ニナは苦笑いを浮かべている。
メイはニコニコとカインと話しているし、オレはため息でしか呼吸していない。
こんなことになるなんて想像もしていなかったわ。
そんな不毛な時間をしばし過ごし、オレ達はこの国で唯一の魔法師団の団長様の執務室へとたどり着いたのだった。
古書の匂いが染みついた扉は、静かにそこに立っていた。
開くのがためらわれるほどに、重く、静かだ。
「ここでお待ちください。」
そう俺たちに伝えるとカインがノックして先に入室する。
「なんだか緊張してきた! 相手の親御さんに挨拶する時って、こっちでは何着ていけばいいんだろ?」
なんで今から親御さんと会う予定を考えなきゃならんのだ。
これから会うのはシリウスとかいう軍のお偉いさんだぞ?
あと、そんなことを父ちゃんに聞かないで、悲しくなるから。
しばらくの後に、扉の向こうからカインの声がする。
「お入りください」
何がというわけでもないんだけど、なんか違和感を感じる。
なんだろうか……扉に手をかけ開こうとしたところで立ち止まってしまった。
「あいた! なんだよ、父ちゃん。急に立ち止まったら危ないよ!」
そのせいでメイが俺の背中に鼻っ面をぶつけてしまう。
鎧のプレート部分なので痛そうだ。
するとレティに杖で頭をポンと叩かれた。
「ヌシは勘は働くのにほんとに魔力的なセンスがないのぅ。娘っ子もじゃ。ニナとローザを見習え」
「ん?」
オレとメイは目を合わせてローザとニナを見る。
彼女たちは明らかに戦闘態勢を取っていた。
「安心せい、ただの幻覚じゃ、悪意は感じんの。ワシらを試しとるんじゃろ。」
レティにそう言われて二人はほっと安心したように構えを解いた。
「くだらん真似はよすんじゃな」
レティは床をトンっと杖で叩くと、目に見えていた風景が塵となって崩れさり、目の前の扉は消えてなくなってしまった。
眼の前には廊下。
通路がまだ続いていて、その先に本物と思わしき扉があった。
「おぉ、幻術! そんな魔法もあるのか!」
「何を関心しとる、バカモンが。こういう系統の魔法はかかると面倒なんじゃぞ? まったく……要再教育じゃな」
レティが歩きはじめると俺達の前に立っていたカインにすれ違いざまに
「はよ、介抱してやれ。カウンターマジックが強めに入ってしもうた」
そう伝えた。
カインはハッとした表情を浮かべ、エルフリーデ嬢のもとへ走る。
彼女は今にも倒れんばかりにふらついていてたのだ。
「精神系統の魔法は返されると自分に返ってくるんじゃ。これがあるからの、リスクは高い」
ローザとニナは真剣な眼差しをレティに向けて、深く頷いてその後を追った。
「ヌシも含めて今後はそういうのも鍛えてやらんといかんな」
サラリと言い放ち、堂々と通路を突き進むレティ。
むぅ、カッコいい。
「そういうとこだよ、父ちゃん!」
「あなたもでしょが!」
小走りにさらに後を追うメイに突っ込んだ後、頭をかいて恥じる気持ちを誤魔化す。
「大丈夫? 行く先は本当にあの扉でいいのかい?」
心配そうに妹を介抱するカインに問いかける。
「あぁ……はい」
カインは凄くショックだったのか、自失しておぼろげな返事しか出来ていない。
「レティのことだからエルフリーデ嬢は大丈夫だよ。 あいつ、こういうことに限っては手抜かりはないからさ。」
ポンポンと肩を叩き俺も扉の方へと走り出す。
いく先の扉の前でレティが両手を前に突き出し、どんと力強く扉を開け放つ。
「レティちゃんの登場じゃ!」
胸の前で腕を組み、身体を反らす。
カカカと高笑いをあげて、扉の先、魔導書が積み上げられた古い机の後ろにいる人物へと向き合う。
流石、礼儀をケツを拭く紙と一緒にトイレに流したやつだ!
無礼だとか、そんなちゃちなもんじゃねぇぜ!
とりあえずさっきカッコいいと思った気持ちは回収させてもらいますね、いつもすいません。
室内には金髪ロン毛碧眼の美男子がいた。
ヘルクスハイン兄妹も絶世といっても過言ではないほどの美形だったが、この人もそれを超えるほどのもの。
すげぇな、魔法使いの能力って顔立ちに比例してんのか?
チラリとメイに視線を向ける。
普通だ。
普通に楽しそうにしているだけ。
カインとそんなに違いを感じないんだが、そこまで差が出る意味がビタイチわからん。
「元気な方ですね。あなたがフェイ推薦のレティですか。私はシリウス・フォン・ヴァイゼンリートです」
「ワシの事はレティちゃんと呼ぶが良い!」
いつものように自己紹介を終え、レティはシリウスと向かい合う。
するとレティは顔に指を当て、何やら考え込むように彼を覗き込む。
「んん? なんか見たことあるような無いような……」
良くあるナンパの初手の様なセリフだな。
シリウスの方も微笑をたたえてはいるものの、同じようにレティに視線を合わせる。
見つめ合う2人……
身長差が大きいものの、二人とも整った見た目なので中々絵になる感じ。
別にイラっとはしていない。
本当なんだからね!




