17話
本日の依頼の報告を終えアーシェとアインは「初めての依頼」の実績を解除した。
お祝いにご飯を奢るっていう話になったので、俺達の行きつけの店である「欠けた錨亭」へと向かう。
豆と肉が美味しいお店で夜は街の人や冒険者で賑わう。
アーシェにお城に帰らないのか聞いたんだけど「しばらくはパーティーメンバーなんだから一緒にいるのが当たり前でしょ」などと大変ありがたいお言葉を頂いた。
帰ってほしいな、にっこり。
皆には先に欠けた錨亭へと向かってもらい、俺は一人路地へと向かう。
物陰からこちらを見張る怪しげな人物に接触する為だ。
俺は全身を黒いローブでつつみフードまでかぶった純度100%の不審者に話しかける。
「あんた達はいいの? 姫様、一緒の宿に泊まるとか言ってるよ?」
「姫様にご満足頂ける為だ。宿の周りの警備は任せてもらって構わない」
「あんな露骨に草集めの依頼ばっか残してさ……毎日草ばっか集めても満足出来ないでしょ。 一般の冒険者もいい迷惑だろうし」
「それは確かに、そうだな……」
「もうちょっとさ冒険感を煽るやつを仕込んで、一気にお腹いっぱいにするほうが良くない?」
問題の早期解決に向けて連絡役に提案してみる。
姫様の身の安全と天秤にかけて連絡役は考える。
「城に持ち帰って検討する」
今日の俺達の戦いっぷりを鑑みて、天秤はどちらかに傾いたと思われる。
「一大スペクタクルを期待してるよ」
姫様的にも草ばっか集めても冒険者を体験したとは思えないだろうしね。
お国の力を挙げてイベント作りに励んでもらいたい。
まぁ、今日のところはとりあえずメシだな。
お腹が減ったので早足で店へと戻る。
途中、獅子の泉には丸耳のエルフィニアはいなかった。
「毎日練習してるわけじゃないのか……」
俺はそんな事を思いながら夜風にのる歌声を思い出すのだった。
「初依頼達成にーーー」
「カンパーーイ!」
「うぇーーい!」
並々と注がれたジョッキを掲げる。
何度目か定かではない乾杯が続く。
こちらの世界ではお酒は二十歳から何ていう法律があるわけもなく、今夜は無礼講ということで全員で飲んでいた。
「薬草集めとはいえ依頼は依頼! この一歩が未来の冒険に繋がるのじゃ!」
「うぇーーい!」
「皆、今日はありがとう! 私のデビュー戦を勝利で飾る事が出来たわ!」
「ただの草集めじゃろがーー」
「うぇーーい!」
割としっかり出来上がっている俺達は、明日の事に目をつむって全力で楽しんでいたのだった。
「それにしてもあなた達強いわね! 草集めすら出来ないんだもの、呆れを通り越してゴミを見る目で見るところだったわ!」
「ぶっちゃけすぎじゃろ! まぁ、草とキノコを間違えるのはゴミ扱いされても文句は言えんのぅ!」
「ウチ達、最強を目指してっからね!」
「だからキノコと薬草の違いなんて気にすんな!」
「そこを間違えるのは人として何かが欠落しています。 突き刺してみてその身で違いを覚えましょう。」
ケツを見るのをやめろ!
どこに刺すつもりだよ!
ローザってちょっとサディスティックなところがあって怖ぇよ。
「私も明日は戦いたいわ! ルーキーの相手といえば角つきうさぎよね!」
アーシェは戦いの興奮が冷めやらぬ様子で明日が待ち切れないのだろう。
一方でアインはもうぐでんぐでんに酔っ払っている。
さっきからローザの杖にずっと同じ話を繰り返し話している。
たまに聞いているのか!っと杖に向かって怒りだすんだけど当然ただの杖なので返事はない。
「あたしだって、ほんとは他にやりたいことはあるんだよ……けどさ、そういうわけにはいかないじゃん……グスッ」
怒っていたと思ったら次は泣き出した。
杖が不憫でならない。
しかし、妙に艶っぽいな……こいつ。
「あ〜もう! 知らない! あたしには歌と踊りがある……んだから……」
アインは急に立ち上がったと思ったらそのまま座り込んで動かなくなってしまった。
すーすーという寝息が聞こえる。
真面目そうなタイプだから色々と溜め込んでいるのかもな。
「ふふ、今日はお開きですね」
酔い潰れたアインを見てローザが呟く。
「そうじゃの。明日も早いからのぅ、ちょうどえぇ」
「じゃ、宿に戻るか! 父ちゃんアインをよろしく!」
「ん? あぁ。 アインの宿泊先なんて知らんしなぁ。 とりあえず俺の部屋に寝かせるか……」
座りこんで寝ているアインをおぶって店を出る。
欠けた錨亭の夜はまだまだこれから、俺達はその喧騒の中、帰路につくのだった。
賑やかだった声も少しずつ落ち着き、足音だけが夜の舗道に響いていた。
同じ宿へと歩く背中に、それぞれの余韻が静かに揺れている。
「今日も色々と楽しかったね……」
メイが満足そうに呟く。
夜風に揺れる髪、月明かりに照らされた街並み――雰囲気に酔ってるのはたぶん本人も自覚している。
その気持ちはわからなくもない。
けれど……
俺は、それどころじゃなかった。
だってさ――
アイン、なんか、やたら柔らかいんだよ!
おぶってる俺の両手は自然と太腿や腰のあたりに触れるんだけど、そこにあるのは硬い筋肉の奥に感じる、不思議なやわらかさ。
しっかり鍛えられてるのに、どこかふんわりしてて、妙に……女性的というか……
「……お、俺は男だぞ。男色の気なんて、ない……はずだ……」
頭の中で全否定の声がこだまする。
だが背中から伝わる温もりが俺の理性をぶっ叩く。
「う、うぅん……」
耳元に、アインの甘い吐息がかかる。
お酒で火照った体温と熱のこもった息が、うなじに触れて……
――うちゅうのほうそくがみだれる――
「うお〜っ、なんかションベンしたくなってきた! ちょっと先行ってるわ!」
思いついた最も適当な言い訳を叫びながら、アインをおぶったまま全力で駆け出す。
舗道を叩く足音がやけに大きい。
「うおーー漏れるぅーー!」
この動揺、絶対に悟られてはならない!
特に……レティには!
その危機感は俺に人生で一番の力を与え、過去一のダッシュを見せるのだった。
「間に合うといいね……父ちゃん……」
月光に照らされた獅子の泉の前で、メイがぽつりと呟いた。
「あぁ、お客さん、おかえり。 今日はおそか……」
「オヤジさんただいま――あぁぁぁん」
宿屋の親父に挨拶でドップラー効果を与える。
どたどたと階段を駆け上がり、乱暴に部屋の扉を開けベッドにタッチダウン。
寝かされたアインを窓から月の光が照らす。
心臓が俺の胸を強く叩く。
本当に冒険者かという白い肌が情欲をかき立てるのだ。
――ミルズはこんらんしている――
「しあわっせはーあるいってこないー」
――ミルズはたてをじぶんのあたまになんどもたたきつけた――
「いっちにっちいっぽぉおおーー」
数度目の打撃のあと意識が遠くなっていく。
床に近付く視線が最後に捉えたのは、どこかで見覚えのある女の子。
あぁ、確かに似ているのかも。
あの噴水の少女に……
――チュンチュン――
鳥の鳴き声が聞こえる。
いつの間にか寝ちゃってたみたい。
昨日は少し飲みすぎちゃった。
寝ぼけた頭を朝日が覚醒させる。
床にミルズが寝ている。
「あぁ、昨日運んでくれたんだっけ……」
うっすらと記憶にある昨日の出来事。
頬が紅くなるのを自覚する。
流石にバレちゃったかな?
けど僕は家の為、おじいちゃんの為にも強くならなくちゃならない。
だから女の子に戻るわけにはいかない。
そうだ!この人たちに鍛えて貰おう。
弟子入りだ。
僕があげられるものなんて無いけれど、身の回りのお世話ぐらい出来る。
少しだけでもこの人たちみたいに強くなれたら……もう一度騎士を目指せるかもしれない。
アインの瞳は決意に燃えている。
これが本当に自分の行く道だと信じ、突き進むのだった。




