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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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13/22

13話

見渡す限りの草原が、穏やかな風に波打っていた。

 

ここは標高の高い地に広がるラティアル高原。

かつては野生馬の群れが駆ける姿で知られていたが、今では大羊の放牧地として、羊飼いたちの静かな営みが根づいている。


草原を縦横に走るのは、いくつもの地裂。

大地のひび割れのような深い溝だ。

雨上がりにはその谷に虹がかかり、空と地を結ぶ橋のように輝くことから、この地は『虹の高原』とも呼ばれていた。


その幻想的な風景のなかを、男がひとり、必死の形相で駆けていた。


ミルズ。

 

彼は肩で息をしながらも、振り返ることなく地裂を飛び越えていく。

 

追っているのは、異様に大きな雄羊――通常の倍はあろうかという巨体に、鋭く黒光りした大きな角。

 

グリムランボックと呼ばれるその巨大な雄羊は冒険者にとって非常に魅力のあるモンスターの代表だ。

その角や毛皮は非常に人気が高く、武器や防具、工芸品など様々な用途で使用されるため高額で取引される。


しかし、冒険者として一人前だと言われるレベルでないと非常に危険な相手だ。

その名の通り破城槌のような角で、一攫千金を狙う冒険者を串刺しにしてきた。 


ミルズはちらっと視線だけを背後に送りラストスパートをかける。


「やっとこのマラソンも終わりか。 昔からラントレは嫌いだったんだよなぁ」

ミルズはうんざりといった表情で、目前に広がるひときわ深い地裂を軽やかに飛び越えた。

人間にとっては落ちれば命にかかわるほどの落差があるが、あの巨躯にとっては、さながら段差のようなものにすぎない。


グリムランボックもまた、それに続くように巨大な蹄を地面から蹴り上げる。


だが、次の瞬間――

着地と同時に、巨体がぐらりと揺れ、その場に崩れ落ちた。

腹部から血を噴き出し、苦悶の声を漏らす。


溝の底には、メイ、レティ、ローザの三人が待ち構えていたのだ。

三方向から放たれた風の刃が、宙を舞うその巨獣の腹を切り裂き骨にも届く。


無防備に受けた攻撃と着地の失敗で、グリムランボックの傷は致命的なものとなった。

しかしグリムランボックは立ち上がる。


燃える様な赤い瞳に宿った闘志は消えていない。

その毛皮と草原を血で染めながら目の前の相手を貫くべく突貫する。


「おっしゃ、こいやぁあ!」

ミルズが叫ぶ。

相手は獣とは言え、最後まで戦う姿勢に敬意を表したのか彼は巨羊と向かい合う。 

ミルズは堅牢な城の城門さえ貫く破城槌の一撃を盾を構えて迎え撃つ。

 

「ローザ!」

「お任せください!」


レティの指示に合わせ防御力強化魔法を放つ。

淡い光がミルズを包み、その身を守る結界となる。


迫り来る角の軌道を読み、ミルズは盾で受け止めつつも、僅かに角の向きをずらしてやる。

雄羊の巨体は、力の向きをそらされて完全な突撃体勢を取ることができずにバランスを崩す。


その瞬間を逃さず――


「アィイイイ!」


メイが雄羊の頭上へと飛び乗る。

振り下ろされた一撃が、頭蓋を砕く。

腹を裂かれ、そして頭部への致命のダメージを負ったグリムランボックは、ついに沈黙した。

メイはグリムランボックから拳を引き抜くと残心を取る。

「ヨシ!」

勝利の拳を天に突き上げ勝利の余韻に浸るのだった。


――  

「四人での戦いも様になってきたのぅ。 ローザが入って強化も回復もあるからバランスがえぇわい」

「御指導の賜物です」

「ウチらもそれぞれランクアップして一人前って感じ!」

 ローザの加入から3ヶ月、俺とメイ、そしてレティはランク3に、ローザが2になった。

異例の速さでランクを上げているらしい俺たちは未だにバトル中心の生活を続けている。


娘が気付いているか定かではないが、既に俺たちは元の世界の人間の範囲には収まらないレベルになっている。

3メートル以上も落下すれば、普通なら骨折は免れない。

ダンプカーのような巨獣の突進を真正面から受け止めるなど、もはや人間の所業ではない。

 

俺は自分が強くなっている実感に興奮する。

もっと強くなりたい……


この世界の一般的な冒険者の最終的なゴールはランク3と言われている。

この辺りから強さの成長曲線が鈍っていくらしいが、俺はそれも必ず乗り越えてみせる!


「今日はこれぐらいで帰るとするか。」

「そうですね、お風呂に入らないといけません」

ローザと出会った時に臭うと言われたことを気にしているのか、もともとお風呂好きなのか、彼女は毎日の入浴を欠かさない。


「オルティナの宿のお風呂、広くて好き!」

「ヌシも一緒に入りたかろう」

どこかでみたグラビアアイドルの様に胸を強調しながら腰をくねらせるレティ。

俺はゴクリと唾を飲み込む。


俺の視線に気付いたローザは頬を赤く染める。

「誰を見とるんじゃ!」

「代わり映えのない平地を見るのは楽しくないだろう?」

「あぁん? 命の終焉を見せてやってもえぇんじゃぞ?」

バチバチとはじけるような魔力の炸裂音がレティの手のひらへと集まる。

脅しというには少し過剰な程の威力を感じるが、煽りあいで負けないのさ。


「やだやだ、感情の起伏がどこだかと同じぐらいなだらかだったら良かったのにな。」

「犬でも主人の感情を読み取るというのに畜生以下だったとはのぅ。」

「もう二人とも暗くなる前に帰るよ!」

メイもローザも慣れっこなのか、俺たちの喧嘩を無視して帰路につく。


しばらく歩くと目的地が見えてくる。

そこはオルティナの町。


町の中心には、ひときわ目を引く緑色の輝きがあった。

人の背丈を優に超えるゲートクリスタルが広場に静かに立ち、その周囲には石畳の円形広場が広がっている。

光を目印にするかのように、旅人たちは自然とこの場所に集まっていた。


広場の周囲には、宿屋や食堂、道具屋に加えて、各地の特産品を並べた露店が軒を連ねている。

呼び込みの声、串焼きの香り、駆けまわる子どもたちの笑い声──町はいつも、どこか浮き立つような賑やかさに包まれていた。


この町には地図にない国の言葉が飛び交い、見たことのない衣装や魔道具が持ち込まれる。

理由はひとつ。ここがゲートクリスタルによって各地と繋がった、“旅の交差点”だからだ。


移動の拠点としてこの町を訪れる者は後を絶たず、滞在のつもりがいつの間にか住み着いた、という話も珍しくない。

遠く離れた土地から来た者同士が偶然出会い、酒を酌み交わす風景は、この町の日常の一部だった。

 

「ゲートクリスタル」

人の背丈ほどもある半透明の結晶体で、うっすらと緑色に発光しているこの構造物は、かつて長らく正体不明の“遺物”とされていた。


しかし、今から数百年前、ある時代に現れたひとりの魔導士が、その性質を解き明かした。

彼女は、魔法によってこの結晶と空間を結びつける術式を確立し、離れたポイント間を瞬時に行き来する“転移魔法”として実用化したのだ。


ただし、誰もが自由に使えるわけではない。

ゲートクリスタルを利用するには、最初に一度その表面に触れ、魔力の同調を行う必要がある。

そうすることで、その者の魔力が結晶に“登録”され、次回以降の転移が可能となる。


今では各国がそれぞれのゲートを管理し、高ランクの冒険者や軍属にのみ通行を許可しているが、そもそもこの技術の起源や“結晶が誰によって設置されたのか”は、長い間謎とされていたのだった。

 

俺たちがランク3となりこの移動装置の使用を認められ、初めてゲートクリスタルを見た時は感動した。

人の手によるものかすら定かでないのに、あまりにも美しくて、しばらく息をするのを忘れたぐらいだ。


「あ、これ、懐かしいのぅ。 これ、ワシがかくれんぼする時に色んな所に作っておいたんじゃ。 当時小うるさい下っぱがおってのぅ。 仕事しろとか言うてくるから、これ使って逃げ回ってたんじゃ」

とかレティが言いだした。

 

歴史的遺物が想像以上に下らない理由で設置されていたということを知ってしまう。

あまり知りたくはなかったな、かくれんぼの為に作られたなんて浪漫が無さすぎる。


そんなわけで、実はこのゲートクリスタル、俺たちの思いのままに使うことができる。

なんならバストンやウィンダミアにだって国の管理から外れて行き来できる。

バレたときに面倒になりそうなので基本的にはルールに従う事にしているけども。


今日はこのままオルティナで一泊して明日は帝国の首都まで戻る。

 

第五騎士団の団長様からお呼び出しがかかったからだ。 

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