10話
翌朝、ミルズ達が寝泊まりしているギルドの大部屋では初心者冒険者達が忙しそうに装備のチェックや予定の確認などを行っている。
ミルズとメイも出発の準備を終えて朝飯をどこに食べに行こうか相談していたところ、レティがいつもとは違った様子で話し始める。
「ヌシらってこのまま三人パーティーのままのつもりかの?」
「いや別に予定とかそんなのは考えてなかったけど」
「うん。 アクセル君は騎士団にはいっちゃったしね。先に誘っとけば良かったかも!」
「となると、別に増えても構わんのじゃな」
「なんだよ、いきなり。 別に俺は良いけど当てなんてあったっけ?今んとこパーティーの誘いすら受けたことなかったじゃん、俺たち」
「一日中、戦ってばっかだから変なやつ扱いだしね!」
朝早くに依頼を受注して、飯食って戦って、弁当食べて戦って、帰ってギルドに報告して飯食って寝る。
俺たちの様にストイックにずっと戦っているやつの方はわりと、少数派だ。
酒飲んで娼館行ったり、物欲に任せて買い物したりと貯蓄なんてくそ食らえだぜっていうスタイルの冒険者の方が多い。
他の冒険者に戦ってばっかりで何が楽しいのかと揶揄されるぐらいだ。
「これからスカウトしにいくんじゃ」
「誰を?」
「昨日のデカ女じゃ」
「噴水の?」
「うむ」
「けどあの人、目が見えないんじゃないの? 包帯巻いてたし! 冒険者にはむかないんじゃないかな!」
「確かに目は見えとらんけど、別の方法で見とる。 さらに言うと多分耳も聞こえとらん」
「はぁ?」
「ちゃんと喋ってたじゃんか。父ちゃんと話もしてるし」
目が見えているのは何となくわかったけど耳も?
「多分、魔法で目と耳を作っとる。 神聖と水、それと風魔法の応用なのかのぅ。 アレをこのままあの噴水の下で放っておくには惜しい才能じゃ」
騎士団の団長ですらまだまだだと偉そうに扱き下ろしていたレティが惜しむ才能、それは本当に凄い人なんじゃないか。
レティに人を素直に称賛できる心を持っていたことにも驚きだがね。
それに彼女がどういう経緯で帝国に来たのか気になる。
帝国ではあまり見かけないヒュランだ、何か訳ありなのかも知れない。
「個人的には確かに興味を引かれる人だね」
「あ、出ました、カスみたいな発言!」
「たかが脂肪の塊に心奪われよって、何が引かれるじゃ。 こっちがドン引きじゃわ」
「おじさん、興味があるって言っただけなんですけど……」
とは言うものの、下心が無いわけでもない。
だってあれは暴力だもの。
大型新人ルーキーとして是非とも我が軍に加えたい。
ドラフト一位指名だ。
「とりあえずお話してみよう! こっちだけの希望が通るわけじゃないからね!」
「じゃのぅ。 昨日の場所におるのかのぅ」
朝飯の後、件の彼女を探しに獅子の泉へと俺たちは足を運ぶ。
すると彼女は昨日の場所で寝ていた。
ワット・ローカヤースッター・スタイルだ。
いわゆる、寝仏というやつ。
しっかし、えらい堂々としてんな……
「もしもし」
「おーい」
話しかけても反応は無い。
ピクリともしない。
わりと大きめの声なのに……
埒が明かないので肩を叩こうとすると、レティに止められた。
「おい、この痴漢やろう。 何どさくさに紛れて触ろうとしとるんじゃ」
えぇ……コイツ、どうしてやろうか。
他に方法があるのかよ。
「父ちゃん、現代では女性にAEDを使う使わないで問題になるんだよ。 寝ている女性に触るなんてとんでもない」
「白昼堂々と痴漢なんてするか!」
「夜中におずおずとすれば良いと言うもんでもなかろうに」
「なんで痴漢する事が前提なんだよ、失礼が過ぎる!」
これだけ騒いでも目の前の寝仏は起きる気配を見せない。
身動きひとつしないので見た目の美しさも相まって本当にそういうオブジェかと思ってしまいそう。
ここは獅子と美女の泉に改名だな。
「おい、起きるんじゃ。」
レティが肩を揺らすと今まで動きすらしなかったのに急にビクッとして飛び起きた。
彼女は状況が解っていない様子で後退り、噴水の縁に頭をぶつけて悶絶していた。
「いたたたたた……」
痛みが覚醒を促したのか、彼女はキョロキョロと回りを確認して自分の置かれた状況の把握に努めた様子。
目の前にいる三人を視界に納めると彼女は姿勢を正した。
「おはようございます」
「おはようだよ! 熟睡だったね! 」
「その様ですね。 昨日ここに来たばかりで疲れていたのかも知れません。 ところで皆様、今日はどの様なご用件で?」
「まずは自己紹介! ウチの名前はメイ、こっちは父ちゃん! それからレティ。」
「それだとトウ・チャンていう名前の謎の中国人になるだろうが! 俺はミルズって言います」
「チウゴク……ジン?」
「あぁ、それは気にしなくていいです」
ここには中華人民共和国なんてないからな。
異世界ボケにツッコミを期待するのは無理がある。
「ワシの名はレティシア。 レティちゃんと呼ぶが良い」
「レティ・チャン?」
おい、また新たな中国人が産まれただろが。
語尾にアルを着けて変なキャラ付けしてやろうか?
「いきなり話しかけてごめんね、このちんちくりんはレティって言うんだ」
俺も痴漢に間違われるのは嫌だ。
レティを蔑みながら、努めて優しい声色で彼女に話しかける。
「ご丁寧にご紹介頂きありがとうございます。 私は……ローザライン。 ローザとお呼びください」
ローザはそう自己紹介を終えると、より詳細な自分の状態の説明として、ぐぅううっと大きくお腹の音を鳴らす。
包帯の下の頬が真っ赤に染まりローザは恥ずかしそうにうつ向く。
「すいません、ここにたどり着くのにすべてのお金を使ってしまって……しばらく何も口にしていないものですから……」
「俺たち、ローザさんに話があってきたんだけど。 どうだろう、御近づきのしるしに朝食でも食べながら……もちろんこちらのおごりで!」
俺たちはさっき朝飯食べたところだけど、噴水前で立ち話ってのもなんだしな。
ローザは俺たち三人の顔色を伺う。
「何も気にする必要は無い。 奢りだからと言って何かを強制する様なことはせんから安心するがよい」
「父ちゃんが変なことしようとしたら、股座を蹴り飛ばしていいよ!」
「誤解と偏見を産むような事を言うな。 さぁ、行こう」
しれっとローザの白磁のような美しい手を取り立ち上がらせる。
先ほどのお腹の音が余程恥ずかしかったのか未だに頬は紅潮したままだ。
手を繋いだままエスコートする俺に対して物言いが入る。
「何が誤解と偏見だよ、その手を離せ、この破廉恥野郎。」
「あなた、ところどころ表現が古いな。破廉恥なんて言われたことなかったわ。 彼女は目が見えないだろ? 安全の為にはこうする他なかったんだよ。」
「よくもまぁ、そんなことが言えたの。 ヌシに説明したじゃろが、コヤツはちゃんと見えとるって」
「それが真実ならな。 本当にそうかわからないんだから手を取ってエスコートするのは当然の事!」
あくまで「おそらく」見えているのだ。
そうでなかったら危ないからね、手を貸すのは人として当然なのだよ。
「大丈夫ですよ、慣れておりますので手を離していただいても」
流石に本人にそう言われては仕方がない。
名残惜しみながら手を離そうとするががっちりと恋人繋ぎになり絡んだ指は離れない。
いや、俺じゃないよ!
違うって、ローザが!
「嫌がっとるじゃろが! はよ手を離さんか!」
俺の頭を叩くレティに俺は繋がれたままの手を見せた。
自分の指をしっかりと開いて、俺が手を離していないのではないと証明する。
うつむき加減で頬を紅く染めながらもガッツリ握り込んで離さないローザさん。
「あら? あらら? 不思議ですこと! 指が言うことをきいてくれませんわ」
「確かに不思議な事もあるもんですね。 仕方ない、このまま行きましょうか」
ローザは可愛らしくうんうんと首を縦に振り手を繋いだままローザとミルズは歩き出す。
「何が不思議じゃ、この浮気もんがぁ!」
レティの怒号と共に放たれる風魔法は俺がもといた場所を通り過ぎて当たらなかった。
なぜなら今、俺がいる場所はローザの腕の中だからだ。
レティの魔法の着弾より早く、彼女は俺の腕を引き抱き止めたのだ。
「お、おぉ。 なんて魔法を人に向けて打ちやがる… ありがとうございます、ローザさん」
「いえ、役得でした。」
役得? それは俺のセリフでわ?
ローザさん?




