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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二章『余興』

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8話「お気に入りのしるし」

『事件』が起きるのは、夜。

予知と言っても完全に時間までは正確ではないらしく、多少の前後はあるが『事が起きるのは日が落ちてから』とのことだった。

とりあえずの目的地は王都から馬車を飛ばしても半日かかるかかからないか程度の宿場町で、まだ午前中の早い時間である為ゆっくり行っても夕方には到着出来るだろうか、といったところである。

王城を出たところで、門番の兵士がガーネの身なりを見て早速敬礼をする。ガーネ自身も警察官という立場で、敬礼はするしされることもあるが、今回受ける敬礼は意味合いが全く異なるため思わず苦笑いが出る。

場違いのような、身分不相応のような、なんとも言えない居心地の悪さ。このか官服を着ている以上はそれにも慣れねばならないだろうし、だからこそヘルソニアの言っていた『身分を隠す必要が生じる』のもそういったことだろうと時間差でその言葉を反芻する。

制服を着ていなくても、指輪があれば身分提示は事足りる。しかし、『女王直属の配下』である以上、自分が舐められることは即ち女王が舐められるという事。王室の威厳と権威のためにも、舐められない『見た目』は必要だろう。


城下町を歩くガーネに向けられる視線が刺さるようだった。

学生時代に調子に乗ってやらかして冷ややかな視線を向けられた時以来だと独りごち、「いやあのスベったのとはちょっと種類が違うか」とセルフでツッコミを入れて無理矢理自分自身を誤魔化す。

好奇、畏怖、不審、敬慕、懸念、畏敬──── そして僅かな警戒と困惑。

それらを見ないフリをしながら、国で一番大きな主要駅へと向かう。駅前のロータリーには馬車の停留所があり、特に待っている人間もいなかったためそのまま乗り込んで目的地を告げる。

やはりというかなんと言うか、御者はガーネの姿を見て大層畏れ多いような態度を取っていた。少しずつ慣れないとな、と堅苦しい束縛感に肩を竦め、背凭れに深く寄りかかった。



途中何度か休憩を挟み、目的地である宿場町へと到着したのは丁度深く黄昏に染まる頃合いだった。

馬車を降りて、しれっと王城へ請求が行くようにサインをして凝り固まった身体を伸ばすように腰を捻り、乗り物酔いで優れない気分を誤魔化そうと夕方の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

「あー、くたびれた……こんなサインひとつで済むなら次からもっとフカフカソファの高級馬車乗ったろ」

関節を鳴らしながら疲労感たっぷりに誰に向けた訳でもない独り言を漏らし、改めて降り立った街並みを見回す。人通りは王都ほどはさすがに多くないにせよ、王都に程近い宿場町らしくそこそこに栄えているようだった。改めて道行く人間から向けられる好奇その他の視線に何度目かわからない深すぎる溜息を吐き出して、目に止まった宿屋へと足を向けた。

ロビーにはそれなりに繁盛しているらしい人数が談笑していたが、例の視線を掻い潜って受付へとまっすぐに向かう。

「予約してないんだけど、部屋取れる?」

新聞を読んでいた受付の店主が、ガーネの雑な物言いに眉間に皺を寄せながら顔を上げる。次いで、すぐにはっとしたように上から下までを舐めるように見てなんとも言えないような表情で言葉を選びながら新聞を置いた。

「ええと、取れるには取れますが……女王陛下のご側近の方が泊まるような大層な部屋は生憎とウチには無くて……」

「構わねーよ、寝れればなんでもいい。迷惑ってんなら他当たる」

「め、滅相もございません!」

店主は慌てて宿泊管理簿を取り出し、台帳をガーネに差し出す。

宿泊と請求に関してのサインをそれぞれ施し、部屋の鍵を渡された。

「今空いている部屋で一番いいお部屋をご用意させていただきましたので、はい」

突然へりくだるような態度に何となく胸糞の悪さを感じつつも、「どーも」と鍵を受け取って階段を登る。

そこまで大きくない、三階の一番奥の部屋。鍵を差し込んで中に入ると、ダブルサイズのベッドとそれなりにセンスの良い調度品が鎮座していた。一番いい部屋、というのもあながち嘘ではないだろう。寝れればなんでも良かったガーネはやりづらさの象徴である上衣を脱ぐと、ハンガーに掛けて備え付けのクローゼットにしまい込んだ。ひらりと紙切れのようなものが落ち、どこからくっついてきたのかとそのままつまみ上げてゴミ箱に入れるとホルスターのベルトを外してベッドに転がった。

僅かに鼻腔を擽る埃臭さが、まだほんの一週間足らずなのに妙に懐かしい。

馬車の揺れで寝るに寝れずに過ごしていた分、王城でのよく分からない重圧からの解放もあって猛烈な眠気に襲われる。少し仮眠をしようと、ゆっくりと瞼を伏せるとすぐにでも夢の深淵に落ちそうな独特の浮遊感にも似た微睡みを覚えた。


「──── ……ッ…!?」

何か、猛烈に嫌な感覚がして飛び起きる。ドクドクと心臓が血液を送り出す音が生々しく体内に響き、不整脈のような嫌な拍動を感じる。

時計を見ても、部屋に入ってベッドに転がってからものの数分しか経過していない。


ガーネは警戒がちにベッドから降りると壁伝いに窓の外を見遣る。

特に怪しげなものはない。

次いで、入口のドアを確認した。施錠は間違いなく出来ていて、不審な点も特にない。

ドアにそっと耳を当てるも、音も人の気配も感じられない。

嫌な胸騒ぎにも似た何かに、ガーネはこれが女王の予知に関連するものかと思案を巡らせる。特に魔法の力や霊力なども無いため、この町に来た目的と照らし合わせても何となくそうなのかと結論をつけるしかない。

拳銃と警棒を身につけて、私服のジャケットを羽織ってそれらの装備を隠す。

ともかく、自分に出来ることをするしかない。

そう言い聞かせながら、宿屋を後にして街の大通りに出た。

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