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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第一章『王命』

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1話「その日」

とある日の昼下がり。

王都から離れた、辺境の町の警察署で、それは始まった。

のどかだが、ただの田舎町では無い。

近隣の一帯の中心地であり、駅も商店も主要施設も整っている。


街中の中心地には役場や消防署、病院と主要施設が立ち並び、その中の一つ警察署の中で事は始まった。


警察署内の最上階、廊下の突き当たり。『署長室』と札の掛けられた扉が数回叩かれ、中から入室を促す声が聞こえる。

「……しつれーしまーす」

やや間延びした声で、この部屋に呼ばれた張本人が部屋に入る。

執務机に座っていた初老の男は何か言いたそうなのを飲み込み、「まあ、座りなさい」と顎でしゃくるようにしてソファへの着席を促した。

室内には二人。妙な緊張感からしんとした室内に、革張りのソファが軋む音が二人分静かに響いて次いで紙の擦れる音が重なった。


「……じ、辞令?」

封筒の表書きには『辞令』とだけ記載されているので、中を見ずとも内容については把握出来た。

「え、俺異動?警察学校出て配属されたばっかだけど」

机の上に無言で差し出された封筒を受け取って、ガーネがやや素っ頓狂な声を上げて正面に腰を下ろした、伯父でありこの町の警察署署長の男に目を向けた。

伯父は言いにくそうに視線を僅かに揺らすと足を組んでその膝の上で指先を組んだ。

「……まぁ、辞令は表向きだ。私も詳細は知らん、まずは見てみろ」

言われるままにご丁寧に糊付けされた封筒を開くと、中から更に封筒が出てきた。ガーネは怪訝そうな顔で封筒を取り出すと、表には手書きで『特命収集令状』と書かれていて、裏面は深紅の封蝋で封をされている。────この封蝋の印章は、紛れもなくこの国の紋章であり、それが国からの書状である事を意味していた。中身を見る前から言いようのない緊張を覚えガーネは喉を鳴らして唾を飲み込み、助けを求めるように伯父に目を向けた。

どうやら伯父も本当に内容は知らないらしく、ガーネはふう、と短くため息を漏らして意を決して封蝋に指を掛けた。

ぱきっと封蝋の割れる軽い音が鳴り、少し厚みのある手触りからして上質そうなことが伺える封筒を開く。中には一枚の紙が、封筒と同じように明らかに素材の良い手触りで収まっていた。


『────特命収集令状

ガーネ・ディーム・ロット 殿


女王陛下の名において、貴殿を特別任務の遂行者に選定した。 本状の受領をもって、貴殿の現行の職務は一時凍結される。


直ちに王城へ出頭せよ。


本件は最優先事項である。


ヴェルーティン王国 女王 ディアマント・クレイス・ウェルト』


端的に言ってしまえば、今の警察としての仕事はさておき直ちに城に来いお前に拒否権は無い。そういう内容の書状である事は伯父にもガーネ本人にも理解は出来た。

「え…、……なんで俺?」

「知らん、────が。お前は真面目さと勤勉さは人並み以上だからなぁ…口と頭は悪いけど」

「頭はこれでも警察官採用試験受かってんだよ!ってそうじゃなくて!」

どういう任務なのか、はたまた任務とは表向きなのか。とにかく、どういった理由で自分に白羽の矢が立ったのか皆目見当がつかずにガーネはくしゃりと自らの赤毛を掻き上げた。

「ともあれ、その勅令を持ってきたのは女王の側近のヘルソニア女史だ。どういう事かはわかるな?」

女王の側近である人間がわざわざこの田舎町に出向いてきた、という事の理由が察せない程、ガーネは馬鹿ではなかった。

理由など考えるまでもない。ガーネは短く息を吐いた。


何をするのかわからない不安や、逆に何かしてしまったが故に呼びつけられたのかという不安に押しつぶされそうになる。伯父である彼は何と言葉を掛けて良いかわからず、ガーネの肩を軽く叩くとゆっくり立ち上がる。

「まぁ、この書状だけでは要件まではわからん。今の職務も凍結せよとの事だ。ヘルソニア様からも、『表向きは王都の署に転勤という扱いにしろ』との指示だけ受けている。今日は午後から上がって構わんから、明日の朝一には登城できるようにすぐに支度しなさい」

「……わーったよ」


自分が選ばれる理由など思い当たらない。

不安だけが胸の奥に沈んでいく。

ガーネは家に帰るととりあえずの着替えや荷物、王城に行く事を考慮して正装となる衣服を用意して駅に向かった。他に不足があれば王都で調達すれば良いかと、やり場のない感情を誤魔化すように急ぎ足で駅に向かう。夜行列車に乗れば、早朝には王都に入れるだろう。

ガーネは機械的に汽車に乗り込むと、駅の売店で買い込んだサンドイッチを頬張りながら車窓の向こうで流れる景色を眺め、簡易的なベッドに横になって無理矢理目を瞑った。



『いいか、俺がお前らの全部の責任を負ってやる。それは俺にしか出来ない俺の役目だ、なぁ、そうだろ?俺の言う通りにしてりゃ、お前は不幸にならないんだから────…』

────背中の後ろには、この世の全ての不幸を背負ったかのような絶望した少女の顔。少女、ということはわかるが、顔の造形まではよくわからなかった。

これは断片的かつ日によって場面は異なるが、物心ついた頃からよくガーネが見る夢。


世界を嘆くような、恨む様な悲痛な少女の眼差しと、それを『守る』正義のヒーローのような自分。

うっすらではあるが、夢の中の自分は『赤坂ミナト』という名前で、夢のせいなのか妙な既視感が働いており…これは前世、とでも呼ぶのだろうか。


妙にリアルで生々しい感覚を残した明晰夢のようなものを見て、ガーネは疲労感たっぷりに目を覚ました。

車窓の向こうの景色は遠くの方が白んで来ており、明け方が近い事を知る。

「んーっ…、……まぁたあの夢か…」

この夢を見た後は異常に疲弊し、そして異様な高揚感に似た何かを残していて、ひどく気持ち悪かった。欠伸混じりに大きく伸びをしながら立ち上がると、荷物から持参したタオルと洗面道具を持って車両内の洗面台に向かう。

夢の中と鏡に映る『自分』。容姿は似て非なるモノなのに、あれは自分だという変な確信のようなものがあった。

別段、悪い夢ではなかったような気はするが、酷くくたびれたような顔の自分を上書きするようにガーネは蛇口を捻って冷たい水で顔を洗った。

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