序章『希望の瞬き』
パチパチと火が燃え燻る音が、静寂の中に静かに響いていた。
時折、からんと何かが崩れるような音が混じる。黒く焦げた煙が夜空に高く立ち昇っていく。
────ぱきん!
少し高い、何かが爆ぜる乾いた音が響く。
火に焚べられていた元は白かった骨は、少しくすんで亀裂が入っていた。
手入れの行き届いた白く細い指先が恭しく骨を拾い上げる。焚き火の炎に照らされた口元が、妖艶に弧を描いた。
占術の結果は、かつて無いほどの吉兆を示していて、予知とも寸分違わず合致する。
「お呼びでしょうか、ディアマント様」
「ヘルソニアよ、吉報じゃ。これを見よ」
数刻の後、人払いをした玉座ですらりとした足を組んで肘掛けに凭れるように頬杖をついた女王ディアマントは、呼びつけた人物に向かって亀裂の入った鹿の肩甲骨を投げて寄越す。
投げられた骨は、床に落下せずにふわりと空中で留まった。
ヘルソニアは指先でそれを手繰り寄せるような動作をすると、見えない糸で引かれるようにゆっくりと手元に引き寄せられていった。
「…私が呼ばれた、と言うことは、いよいよと判断してよろしいでしょうか」
「そのつもりじゃ。働きに期待しておるぞヘルソニア。妾に、妾の最上の願いを献上せよ」
「承知いたしました」
占いでは、吉の結果。
ディアマントは満足そうに笑みを携えながら、琥珀色に輝く酒の入ったグラスをゆっくりと傾ける。
中の液体が揺れると芳醇な香りが鼻を擽り、ゆっくりと満たすように鼻腔から香りが抜けていく。透明なガラスの酒器を口元に寄せ、紅の引かれた唇を濡らすように酒の香りと味を堪能する。こくりと喉が小さく鳴ると、改めて側近のヘルソニアへと視線を向け直す。
「妾の神託の予知によると、────次の新月に、『最後の駒』が揃う」
「完全に全て揃うのは今回が初めてでございますね。しかし…本格的な開始までは二十年程待つ事になりましょうか」
「…今さらそのような些細な月日、気にする必要などない。妾にとっては瞬きに等しい。────よいかヘルソニアよ。最高の宴として舞台を揃えよ、これはお前も知っての通り妾の『希望』そのものじゃ」
「御意に。念入りに準備を整えます」
彼女の受けた『神託の予知』、一の月のとある新月。
女王ディアマントが4000年待ち望んだある種の『希望』が世界に導かれた。
────物語が動くのは、今から約十九年後のとある日のことだった。




