第五十九話 縺れゆく呪詛×狂おしい暴力
「『んん?』」
襲いかかったはずの【赤斧帝】が例のアザにまみれて倒れ、【タイラント】に至っては体中をあの『呪詛』の寄生虫が食い破った。
「『獅子を倒すに武器は要らぬ、寄生虫で十分に殺せる。そうであろう、ケン?』」
這いずりながら【赤斧帝】は呻く。
「――何が、何が貴様らの目的なのだ……!」
「『朕はあの時しかと言ったであろう?貴様もその耳で聞いたであろう?』」
徹頭徹尾これだけじゃよ、と【呪いの傀儡師】は告げる。
「『此の世に呪怨の尽きぬ日は無し。朕は必ず蘇り、全てを呪い滅ぼして見せようぞ』」
「――それが聞きたかった」
皇太子ヴァンドリックが呟くなり、【ロード】が【スキル:レイン】を発動させる。
「それさえ聞けば、遠慮無く滅せると言うものだ」
光の壁が【呪いの傀儡師】を包囲していく……。
「『【奈落蝗王】は一度しか放てぬはず、何を考えておる……?』」
――マズい!
「そうだ、確かにアレは一度しか放てぬ仕組みだ。だからもう一つ用意した。元より【奈落蝗王】だけで【精霊】数体を屠れると最初から思ってはおらぬ」
ヴァンドリックは右手を掲げた。それで皇帝座の空中に浮かんだ、コンソールを素早く叩く。
すると皇帝座が――巨大な砲台へと変形した。
「『【蒼天霆雨】か!』」
ロウの身体から【呪いの傀儡師】が離脱した。
目指すのは【赤斧帝】と【タイラント】だ。
糸が切れた人形のように、ロウの身体が床に倒れる。
(テオ……オレが限界だ。ロウが死ぬぞ!)
(頼む、十だけ数えてくれ!)
「止めろ!貴様だけは、貴様だけは!」
『くるな、くるな!あっちにいけ!』
――叫んでいた【赤斧帝】達が怒濤の『呪詛』に飲み込まれて沈黙する。
やがて巨大さを一気に増した【呪いの傀儡師】が起き上がった。
ニンマリと嗤いながら、
「『ヴァンよ、我らが孫よ……いつでも【蒼天霆雨】を使っても良いのだぞ?使った直後に生み出された【瘴体】を媒体にし、我らはこの帝国城をも一口で併呑するであろうがな……』」
ここに至ってもヴァンドリックは冷静だった。
「……困った。実に困った」
発車直前の【蒼天霆雨】のコンソールから手を離し、腕組みをする。
「大々的に叔父上達を避難させ、ニテロドを族滅し、帝国城をがら空きにした上に時間を稼いだのだから、流石に勘づいて来てくれると思ったのだが……」
(……まさか)
(そうだ、トオル。【滅廟】で僕達は【閃翔】の『呪詛』を根切りにした)
(だが、幾ら何でも――!)
(……現時点で『呪詛』の対抗策を所有しているのは僕達だけだ)
(だからって、ここまでやるか!?家をがら空きにして殺人鬼達を招くようなモンだろうが!)
(まだ分かっていないのか、トオル。兄上は……『怪物』だ)
「『……はあ?』」
面食らった様子の【呪いの傀儡師】を面倒そうに見やりながら、
「何でも無い、こちらの事情だ。しかし困った。……いや、帝国城はとても広いから道に迷っているのかも知れぬ。とすれば花火を打ち上げて場所を知らせるしか無かろうな」
いきなり【蒼天霆雨】が天井目がけて放たれた。
――瓦礫と粉塵が立ちこめる中、【呪いの傀儡師】が怯んだ一瞬をついて、オレ達はロウの元に駆け寄る。
『私の!私の、大事な……!』
袋の中から【パーシーバー】が手を伸ばして瓦礫に埋もれるロウの顔に触れた。
「……う、うう」
そうやって呻いたロウを抱きしめて、完全に復活した【パーシーバー】は涙を流した。
『貴方が生きていて、本当に良かった……!』
オレ達は瓦礫からロウを引っ張り出すと愛用の杖を抱えさせ、後は彼女に任せた。
――粉塵が収まってきたと同時に、皇太子ヴァンドリックの拍手が鳴った。
「やっと来てくれたか!待ちわびていたぞ、『シャドウ』!」
――天井の大穴から月光が差し染めて、オレ達を照らす。
【呪いの傀儡師】が大きく目を見開いて見詰める、オレ達を。
「『貴様は!――貴様は何奴ぞ!』」
聞かれたら応えてやろう。
それがオレ達の流儀だからな!
「誰と聞かれたら応えてやろう」
「ガン=カタを愛する者として!」
「――ガン=カタForm.7『チャリオット』!」
オレ達は真正面から【呪いの傀儡師】と殴り合った。
放つ魔弾に【スキル:ジョーカー】を込め、弾幕を張る。
「『おぐぇっ!?』」
奇妙な悲鳴を上げたのは【呪いの傀儡師】の右腕だった。
「『我らの、「呪詛」が……また、消えていく!?』」
魔弾の雨がその全身に蔓延る『呪詛』を強引に削り取っていく。
「『おのれ!おのれおのれおのれおのれえええええええええええええええ!!!』」
頭上を通り過ぎる拳を身体をひねって避けながら、魔弾を撃つ。
続いて繰り出されたのは蹴りだった。
ひらりと避けたオレ達の代わりに直撃した先の瓦礫が粉砕される。
オレ達は高く飛んで相手の頭上を一回転し、背後を取った。
場所取りに成功したオレ達は2丁拳銃『シルバー&ゴースト』を空へと放り投げた。
空になった両手を【呪いの傀儡師】の背中に押し当て、
「『終われ!【スキル:ジョーカー】!!!』」
それまでぬるま湯だと思っていた環境が灼熱地獄に一瞬で変貌したようなものだった。
「『――ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』」
凄まじい断末魔をあげて【呪いの傀儡師】は悶絶し、のたうち回り、そして――。
「『――ア、アア……ヤット、ココニ、モドッテキタノニィ……』」
消失した。




