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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第五十八話 赤きタイラント×サドンデス黒幕

 「ヴァンよ、何を隠している?」


 ――【タイラント】が跳躍すれば直ちにヴァンドリックと【ロード】を殺しうる距離まで近づくと、【赤斧帝】は足をぴたりと止めた。

己のこの息子は、憎らしいくらいに頭が良い。

「奇妙だと考えているのだよ」

加えて、余裕綽々な態度なのも、妙に引っかかる。

「奇妙?何がだ?」

「この一連の【神の血】事件の黒幕は――本当にそこの私の異母妹並びに、今、消滅せしめた【精霊】だったのか?」

「何を――」

「【神の血】を解析させた結果、幾つか分かった事がある」

ヴァンドリックは【タイラント】を指さした。


 「所詮、【神の血】は命令権能を付与した【精霊】へと魔力を集約させる道具に過ぎない。その過程で【虚魂獣】を生み出して【固有魔法】を一つ追加するが、本質的には『そう』だ。されど――【精霊】に魔力を集める道具にしては、あまりにも非効率的だとは思わなかったのか?」


 【精霊】は莫大な魔力を元々保有している。

 どれ程大勢の人間から魔力をかき集めても、彼らにとっては一食分にさえ満たないだろう。


 「それがどうした。【神の血】で集められた魔力は確かに私と【タイラント】を癒やしたぞ?」

「……質問を変えよう。誰が最初に【神の血】の製法を生み出したのだ?」


 「誰?」【赤斧帝】はこの時初めて考えた。「それは、【スレイブ】が――」

言いながら彼は僅かに違和感を覚えている。


 【スレイブ】が『かつて生きていた世界の知識』で【神の血】を構築したなんて、一言も聞いていない。

大した『知識』も【スキル】も持っていないと判断したから彼は【スレイブ】を盾にする決断を下したのであって――。


 いや、所詮は敵の言った事だ。

 信用はおろか考えるにも値しない。

 つまらぬ時間稼ぎが目的に違いない!


 「それで私達の足止めのつもりか?徒労だったな!――【タイラント】、行け!」

飛びかかった【精霊】の巨躯が、出現した光の壁に弾き飛ばされる。

もう一度挑みかかろうとした時、ヴァンドリックは告げた。


 「私の敵は『お前』如きでは無い。【奈落蝗王】が放たれ【精霊】が消失した今、『貴様』が求める【瘴体】がここには溢れんばかりに存在しているのだぞ?」


 「――ぐげえええええええええええええええええええええっ!?」

うずくまっていたロウがいきなり嘔吐を始めた。

その吐瀉物の中には、でっぷりと肥え太ったあの『呪詛』の芋虫が一匹蠢いていた。

芋虫は辺りに漂う莫大な量の【瘴体】を貪り食べ、見る間に人間大の大きさになる。

「……げぼっ……」

ロウはそのまま前のめりに倒れて、動かなくなった。


 『――っ!!!』

袋の中で【パーシーバー】が暴れた。

『私の、大事な……私のロウが!お願い、側に、側に!!!!』

『もう少しだけ待ってくれ!様子がおかしい!』


 「ケヒッ、ケヒヒヒヒヒヒ……」

倒れていたロウが、下手な操り人形の様に歪な動きを始めた。

あれだけ大事に抱えていた杖が、音を立てて落ちる。

くるり、くるりと道化師の様に滑稽な動きをしつつ、ロウは喋った。

「其方は賢いのう?愚かなケンの息子とは思えぬ程に賢いのう?――しかし、いつ朕の存在に気付いたのじゃ?」

ロウの声じゃない!

嗄れた老人特有の声――。

ヴァンドリックはそれでも冷静だった。

「アニグトラーンの話で可能性を疑った。【精霊】の【スキル】が此の世の法則を書き換えるものだと仮定しても、逸脱して恣意的では無いか、と」

「ふむ、ふむ。ケヒヒヒ、あの時にアニグトラーンの身体を乗っ取り損ねたのが痛恨の極みであったか……」

「疑った理由は他にもある。【神の血】の存在だ」

「ケヒヒヒ……何故じゃ?」

「あれの根本的な仕組みは【精霊】に魔力を集めるものだ。しかし元々から莫大な魔力を持つ【精霊】に、何のためにそれ以上の魔力を集約する必要性があるのかを考えた。――むしろ、【精霊】が大量の魔力を使用した時に生まれる【瘴体】が目的だったのだろう?」

「流石じゃのう、我が直孫よ。ケヒヒヒ、然様(さよう)である。果てたかの地より【精霊】と【精霊】を従える者に宿り宿ってどうにかこの【太極殿】へと戻ったのであるぞよ」

その間に、芋虫は真っ黒な蛹になり――。


 「平伏せよ、朕こそ【精霊パペティアー】を従える正統なる皇帝モルガドリック・コロソス・ガルヴァリーノス!民草は朕を【乱詛帝】と畏怖した!」




 羽化した。




 『モルガ、モルガ!やっと戻れたよォ……!』

黒い蛹を引き裂いて現れた【精霊パペティアー】が身体を大きく伸ばし、それから嗤った。

『ギャーハハハハハハハハハハハハハハハッ!やっと戻れたよォ……!』


 「何故、何故だ!?」

【赤斧帝】が戦慄いた。

「貴様らは確かに、あの地で私達が討ったはずだ!」

『おまえらが!いきていては!ぜったいに!いけないんだ!』

【タイラント】が有無を言わせずに【パペティアー】に襲いかかる。


 「――確かに【乱詛帝】と【精霊パペティアー】は、一度は忌々しきアニグトラーンと【精霊タイラント】に討たれた。しかし物事には順序と言うものがあってのう?――最初に朕がアニグトラーンに討たれた時――」

その時、問答無用とばかりに【タイラント】の拳が【パペティアー】を跡形も無く打ち砕いた。

しかし、飛散した【パペティアー】の残骸がスライムのように集合を始める。


 『その瞬間にモルガとワタシは命を共有した』

 「【パペティアー】を殺さぬと朕は死なぬ」

 『されど殺せばワタシ達は『呪詛』の形でこの通り【瘴体】へと飛散する』

 「我ら、その後は再び【瘴体】を集め、何度だろうと寄生先を求めるのみよ!」


 産声のごとく、【呪いの傀儡師】は高笑いした。


 「まさか」

咄嗟に【タイラント】を見つめ、それから己の両手を見つめた【赤斧帝】はしゃがみ込んで己の頭を掻きむしった。

「いつからだ!?いつから貴様らは私達をも『呪詛』していた!?」

「貴様の十二番目の子が産まれる直前に、貴様が高熱を発して倒れた事があったじゃろう?あの時に、貴様と【タイラント】の三分の一は()ろうたわ。されど、恨めしきは貴様らの強靱さよ。まだ十分の一は残っておる……」

「私は!私の意志による決断で臣下臣民(彼ら)を処刑したのだと――!」


 【パペティアー】の残骸はロウの体を覆った。

「『その意志を左右したのは我らぞ、ケン?貴様はあの時から我らの傀儡の一つになり下がるのみであったのだ』」


 ――【タイラント】が戦慄いた。

『ぼく……いつからメルのこと、わすれてた……?』




 あんなにだいすきだったのに。




 【赤斧帝】と【タイラント】が雄叫びを上げて【呪いの傀儡師】に飛び掛かった。

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