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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第五十三話 危険因子の覚醒×因果応報タイム③

 「ロウさーん、ベリサちゃーん……あれ?」

ゲイブンに成りすまして【よろず屋アウルガ】を訪れたオレ達だったが、二人とも不在にしていたので首をかしげる。

「折角お菓子を買ってきたのに……」

躾がなっていない野獣同然で、我が儘でどうしようもなくても子供だから、喜ぶと思ったんだけれどな。

今夜にはオレ達も訳あって帝都から離れなきゃいけなくなるので、その前に一度会っておこうと思っていたのに……残念だな。

「……うん?」

――【よろず屋アウルガ】の一室を占拠しているガラクタの中から物音がした。

「鼠……?」

追いかけ回すのも面倒なんだけど、とか思いつつ、何気なくそちらを見たオレ達は驚愕する。

「――【パーシーバー】なのか!!!?」


 原形を留めぬほどに全身を『呪詛』に食い荒らされた【精霊】がいた。




 だが、彼女(【パーシーバー】)はまだ存在している。

意識を失っても、そう簡単には死なないのが【精霊】だ。

オレ達はガラクタをかき分けて【パーシーバー】に近づくと、死体を食ったウジ虫のように丸々と肥え太った『呪詛』を手当たり次第に踏み潰した。

『キイイイィ……』

気味の悪い断末魔をあげて消失していく『呪詛』に、トドメとして【スキル:ジョーカー】を使うと、やっと全滅させる事が出来た。

「おい!」

【精霊クラウン】の魔力を注いで、ようやく【パーシーバー】は意識を取り戻した。

でも、本当に酷い有様だった。

彼女が人間だったら尊厳のために安楽死を勧めるくらいの段階――。

『……が、ひゅ……』

『喋るな!』

けれどパーシーバーは動いて、辛うじて復元した指先で、ガリガリと魔力で文字を書いた。


 ベリサが【V】

 【精霊スレイブ】を従えている

 ロウが連れて行かれた


 「……分かった。必ずロウは連れ戻す。それまで休んでいろ」


 オレ達は【パーシーバー】をロウの匂いの残っている寝床に寝かせると、【よろず屋アウルガ】に『休み』の看板を下げて出て行った。




*******************

 アーリヤカ皇太后がアルドリックだけを連れて、一族郎党をも見捨てて帝国城にやって来たのは真夜中だった。

彼女達が幾ら騒いでも、帝国城の門が定刻を迎えるまで開かれる事は無かった。

夜が明けてどうにか城の中に入った時、彼女達は絶句する。

皇太后である彼女が戻ったのに、官僚や女官、宦官の一人に至るまで、誰一人出迎えが無かったのだ。

それが意味する所を彼女は誰よりも良く知っていた。


 今まで、何度もこうやって追い詰めてきたから、知っていたのだ。


 直後、彼女達は近衛兵に囲まれた。




 「何処に!何処に連れて行くのじゃ!?」

アーリヤカはアルドリックを抱きしめて叫ぶが、護送用の馬車の窓が開かれる事は無かった。

この時、彼女は人生最大の失態を犯している。

毒ならいつも携帯していたのだから、アルドリック共々、今の内に飲み下すべきだったのだ。


 彼女達が運ばれたのは、既にニテロドの一族郎党が並べられている処刑場であった。

立ちこめる死臭にアルドリックがひとたまりもなく嘔吐した、その吐瀉物にまみれながらアーリヤカはその場にへたり込む事さえ出来なかった。

抵抗むなしくアルドリックと引き離され、処刑人達に鎖で繋がれた手足を引きずられる。

行き先にあるのは磔刑のための――。

アーリヤカは絶叫した。

「わ、妾は!皇太后じゃぞ!?無礼者!控えよ!控えよ!」

処刑人が彼女に告げる。

「……【善良帝】と皇太子殿下は不要な殺戮を好まれない御方だ。どのような犯罪者にも裁判を受けさせる。ましてや冤罪で人を殺す、楽しんで人を殺す事など決してあってはならぬ事だと仰って、我ら処刑人にも仕事前に『遊ぶ』事を固く禁じられたのに……貴様は、その慈悲の指からも拒まれたのだ」

四人がかりで暴れるアーリヤカを拘束してから、その処刑人は被り物を取った。

あどけなささえ残る、若い青年であった。

「僕の顔に見覚えは無いか、アーリヤカ」

「知らぬ!下賤の者の顔なぞ――!」

そうか、と頷いてその青年は再び被り物で顔を隠した。

「僕の顔は、叔母上や第十二皇子殿下とよく似ていると言われていたのだがな」

「……!!!」アーリヤカはここでようやく気付いた。「まさか、貴様は――!」

「十年前。【赤斧帝】の愚かな戦争を止めようとして正にこの場で族滅されたネロキーア公家が一子カイセール・グヴィケルス・ネロキーア。貴様が散々に虐待した挙げ句に世俗と縁を切らせたメルディーニア様の甥に当たる」

そう言いながら処刑人は立て札にアーリヤカの罪状を書き連ねていく。

「――キアラカ皇太子妃様へ執拗に毒を盛ろうとした。【神の血】事件に関与した。この二つは大々的に書くとして――」

「ま、待て!幾らじゃ、幾ら欲しいのじゃ!金なら幾らでも!」

「何も要らない。もう僕の家族も一族も帰っては来ないから。――いや、一つだけ欲しいものがある」

アーリヤカは蜘蛛の糸に縋り付いた。

「何じゃ!?」

縋り付いたのは毒蜘蛛の糸であった。

「貴様の断末魔だ」

喚くアーリヤカに猿ぐつわを噛ませた上で、つらつらと立て札に罪状を書いていたカイセールだったが、舌打ちした。

「……普通は立て札一つに罪状が収まるのに。とても、今ある分の立て札では足りないぞ……」

そうこうしている間に民衆が集まってきた。

「――本当だ!本当に【緑毒の悪女】がいるぞ!」




 「かつてネロキーア公家がこの刑に処された時、石を投げる民衆は一人もいなかった。貴族の処刑なんて民衆にとっては最高の娯楽なのだから、普通は罵声と石礫がたえず飛ぶものなのだがな。しかしあの時、民衆は誰も彼もがすすり泣いていた。何とお労しい事だと泣いていた。結局、誰も石を投げないものだから、仕方なく父から処刑人によって首を落とされたのだ……」

うー、うーと呻くしか出来ないアーリヤカの側でカイセールはそう呟くと、右手を挙げた。

部下の処刑人が大声で罪状を読み上げる。

「この女アーリヤカは!貴族ニテロドの家に生まれ!皇太后の地位にありながら!キアラカ皇太子妃殿下に毒を盛る計画を企てるのみならず!この立て札に書かれた!全ての罪を犯したのである!」

そこで待ちきれなくなった民衆の中から大きな石が飛んだ。


 「早く殺しちまえ!」

「そうだ!殺せ!」

「ニテロドの男にうちの娘は殺されたんだ!」

「俺のたった一人の妹は女官になれたのに!毒を盛られた!」

「私の母はニテロドの馬車にひき殺された!」

「うちの商品を強盗したのに何の処罰も無かった!」

「私達が家族を失って泣いていた時!」

「ニテロドは嗤っていた!」

「やっと処刑されるのか!」

「ざまあみろだ!」

「ニテロドの罪?」

「存在そのものが罪だ!」

「生きている事が許せない!」

「お前だけは!お前達だけは!」




 いつしか側にカイセールの姿も無く、たった一人、石の雨にアーリヤカは打たれていたのだった。

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