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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第五十二話 危険因子の覚醒×因果応報タイム②

 とある事情で騒がしくなっている帝国城の中。

たまたま【峻霜】が通りがかった時、素っ裸に近い格好でギルガンドが帝国城の広場にある広大な池に飛び込んだものだから、彼はさてはギルガンドが何かの【固有魔法】による攻撃を受けたのか、もしくは池の中に敵がいるのかのどちらかだと思って、抜剣しつつ最大限に警戒して近寄ったのだった。

「…………敵は、何処だ?」

「違う!敵では無い!」

ざぶざぶと水をかき分けながらギルガンドは池から這い上がってきた。

「もっと忌々しいものだ!」

取りあえず手を貸してやりながら、【峻霜】は彼らしくもなく首をかしげる。

「…………は?」

「あんなに忌々しい生物が地上に存在するとは知らなかった!……おい、臭くないか?」

「……臭いも、何も……」

幾ら整備されているとは言え、池に落ちた所為で非常に生臭いのだが……。

「丁度良い、風呂に付き合ってくれ」

そこにやって来た女官達が半裸のギルガンドを見て、黄色い悲鳴を上げた。

それぞれ顔は手で覆っているが、こっそりと指の間から舐めるような視線でギルガンドを見つめている。

「…………分かった」




 武官の訓練場に併設された大浴場で神経質なくらいに身体を洗って身体を湯船に沈めると、ようやくギルガンドは落ち着いた顔をした。

「明日も、あの悪臭が待っているのか……」

「…………何が、あった?」

驕慢で強烈な性格をしたこの男が、ここまで耐えた事があったのだ。

「見合いだ」

「…………誰と?」

「『娘』だ。命令で――」

「…………」

【峻霜】は全ての事情を悟った。

彼がブラデガルディースの妾の娘――【神の血】に積極的に関与したのみならず、【赤斧帝】が潜伏している先として監視されている家の『娘』と見合いの名目で接触するよう命じられたのは、【峻霜】も知っている。

「…………よく、耐えたな」

ギルガンドは【峻霜】を見て、深々と嘆息した。

「潜入調査員や【草】の者に、生まれて初めて尊敬の念を抱いた。まだ泥の中を這いずりながら不眠不休で敵軍を待ち伏せしていた方が楽しかった。私は、二度と詐欺師の真似はしない……」

徹底的に驕慢なこの男が珍しく本心を打ち明けている。

帝国最強の男同士、気心が知れているのかも知れない。

【峻霜】は少しだけ笑って、

「…………お前は、決して多情な男では無い。唯一(ひとり)の女人にのみ……その真心を、打ち明けるのだろう」

「唯一、か……」

ギルガンドの顔が一気に赤くなった。

彼の脳裏には、生意気で口煩くてずば抜けて頭が良くて、人をこれでもかと侮辱したあの女の姿が――。

「…………誰だ?」

【峻霜】は驚くと同時に戸惑う。

「いない!!!!」

ざばりとギルガンドは音を立てて湯船の中から上がった。


 絶対に違う。

そうであってたまるか。

そうだ、これはあくまでも彼を侮辱したあの女への怨恨と憤怒である。

決して、恋慕などでは無い!!!


 「…………そう、か」

やや残念そうな【峻霜】に指を突きつけてギルガンドは宣告した。

「これは他言無用だ!」




*******************

 母ヌルベカの寝室から今夜も大きな嬌声と激しい物音が聞こえる、その隣を過ぎてサティジャは『犬』の様子を見に行った。

『犬』達のかつての名前はサロフ、ウビノ、セメネア、マビスと言った。

――ブラデガルディース家の当主、正妻、長女、跡取り息子であり、サティジャからすれば父、継母、異母姉、異母兄にあたる。

つい先日までは人間であったが、既に改良済みの【神の血】を打ち込まれて彼女達に忠実な奴隷となっていた。


 「はい、餌の時間よ」

貧民街から召使いにすると言う名目で拾ってきた子供を放り投げると、彼らはその魂を貪り始めた。

「そうそう。脳髄には手を出さないで頂戴ね。『美容薬』の素材として必要なのだから」

艶やかな微笑みを浮かべつつ、サティジャはこれからの事を考えている。


 ニテロドはもう要らない。

 皇太子に近づく必要性も消えた。

 邪魔者は皆殺しに出来る武力【精霊タイラント】も手に入れた。

 今ああやって母が『もてなしている』【赤斧帝】の皇后の座に、邪魔者を全て片付けた後でサティジャが腰掛ければ良い。


 なのに。

いつしかサティジャの微笑みは消えていて、頬に涙が伝っていた。


 ああ。

 ――確かに今日までは、その決定に何の不満も意義も無かったはずだった。


 「……ギルガンド様」

顔を思い浮かべるたびに声を思い出すたびにあの瞳を心の中で抱きしめるたびに、彼女の心臓は確かに悲鳴を上げるのだ。




 ――人生最初の恋が、こんなにも辛く苦しくて痛いものだなんて。




*******************

 「……何と」

【東太宮】の寝所で事情を聞いたヴァンドリックは思わずため息を吐いてしまった。


 あの鮮烈で驕慢な男にとっては、最悪の相性の任務と言っても良いだろう。


 「本気で好いたらどうするつもりだったのだ……」

「なりませんよ?」とミマナは至極それが当然のような顔をして言った。「彼が、アニグトラーンの財産目当ての女に散々に追い回されていた事はご存じでしょう?」

「しかし……」

人の心がどれ程ままならないものかは、よく知っているだろう。

知っていますよ、とミマナは彼の腕枕に甘えつつ、

「それより殿下、【奈落蝗王】の急速魔力充填についてですが――」

「【ロード】が全力で今も行っている。後、およそ二日と言った所らしい。叔父上達の副都への避難もつつがない様だと報告が来ている」


 【善良帝】やレーシャナ、キアラカに彼の小さな娘達から成る主要な皇族や官僚、貴族達は既に安全圏に退避させたが、彼らは帝都に残らねばならない。

【奈落蝗王】のような【兵器(リーサルウエポン)】の急速魔力充填には、【精霊】を従える彼らが帝国城に残っている事が欠かせないからだ。


 「とすれば、ギルガンドが如何に女(たら)しとして振る舞えるかに成功がかかっておりますわね」


 正真正銘の冗談である。

仮にギルガンドが失敗したとしても【赤斧帝】と【精霊タイラント】が【奈落蝗王】の起動させるまでに動けないようにするため、彼らは既に十重二十重の包囲網を結成してあるのだった。


 「冗談でも言ってやるな、可哀想だ」

「可哀想は可哀想ですけれども、ニテロドよりは可哀想ではありませんでしょう?」

苦心惨憺して【赤斧帝】を別荘に匿っていたのに、一方的に捨てられた挙げ句、当主を殺された。

「……。そろそろ【緑毒の悪女】が泣きついてくる頃だ。君の好きなようにしてくれて構わない」

ヴァンドリックは静かに目を閉じる。

彼の唇にミマナは甘く接吻をして、

「ただ無能なだけだったら……他の【寵臣達】のように生かしておいてやっても良かったのですけれども……」


 慈悲を与えても、幾度となく噛みついてきたのだ。

族滅は妥当かつ当然である。


 「君は怖い。けれど私は君から離れられない」ヴァンドリックは穏やかに囁く。「余所者に君を奪われるくらいならば、私は何もかも滅ぼしてしまうだろうよ」

たまらなくなって、ミマナはもう一度接吻をした。

その唇の熱に火傷しそうで、ヴァンドリックはそのままミマナを抱きしめる。

「私だって。私だって殿下を奪われるくらいならば、国の一つや二つ、この手にかけて滅ぼしてご覧に入れますわ。――ずっとずっと、初めてお目にかかった瞬間より、真心からお慕いしております……」

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