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【毎晩22時更新!】ガン=カタ皇子、夜に踊る――無気力な第十二皇子は影で悪と戦っています――【リメイク版】  作者: 2626


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第五十一話 危険因子の覚醒×因果応報タイム①

 「私が……見合い?ブラデガルディースの妾の娘と?」


 この時のギルガンドの露骨に嫌そうな顔は実に見物であったと後にレーシャナは語る。


 「潜入調査及び、【奈落蝗王】の魔力充填が完了するまでの時間稼ぎをして欲しいのだ」

レーシャナが執務の傍らに命じると、ギルガンドはしばらく固まっていた。

「精々甘い言葉を吐いて口説いてくれ。ただ、本気になるなよ」

「……どうして」

この私なのですか!と問いかけたギルガンドよりもレーシャナは先手を打った。

「では聞くが。家柄と潜入調査も出来る力量と何より見た目を兼ね備えた男が他にいるか?」

「たかが顔如きに何の価値があると仰るのか!?」

この場にテオドリックがいたら、『それは貴様が言って良い台詞ではない』『台詞の説得力をその顔面が完全に殺している』と冷静に指摘しただろう。

が、レーシャナは面白半分だと言う本心を上手に隠して、

「甘い言葉の威力が数百倍に増大する。それとも【閃翔】はまた我らの命令を受け付けぬと言うのか?」

ぐっ――!と息を詰まらせてギルガンドは黙った。

不満だ!と全ての文句を露骨に書いてある顔つきをして、

「……承知」




*******************

 クノハルは本を愛している。

とにかく本が大好きで、本に囲まれた生活を夢見るくらいに愛している。

故に、大変に立腹した。

生きたまま火刑に処して苦しんでいる所に石を投げつけてやろうかと思わず考えてしまうくらいに、帝国城の地下図書庫で、本の頁を引きちぎらんばかりに乱暴にめくっている男に対して怒りが収まらなかった。


 「何をやっているのですか」

「……」

無視された。

だからクノハルは近寄って叱った。

「帝国城の蔵書は全て貴重な書籍です。扱いは丁寧に!」

「私は仕事をしている。邪魔をするな」


 ――仕事?

急ぎで何かの資料を探していたのだろうかと、その本の頁の文章に目を落としたクノハルは反射的に後ずさった。

彼女は既に帝国城の全ての蔵書を読破した上で、全て暗記していた。

だから、その頁の文章の一文を読んだだけでその本が何の本なのか、分かったのだ。

かつて皇族出身の女文筆家が書いて三回も発禁処分を受けた、煽情的な官能小説の八巻目――。


 「……畜生にも劣る……!」

そうだ。

この男は散々に下手くそな言い訳をしていたが、彼女を強姦しようとしたし、それを庇った兄を暴行した上に――そもそも貴族と言う生き物は、変態と鬼畜と金太りした畜生ばかりなのである。

よって、この男が仕事を怠けて神聖な図書庫で官能小説を読むくらいの豚野郎だとしても、何もおかしくは無い。


 「何だと?」

耳聡いギルガンドの形相が歪む。

「いえ、特務武官様はとてもお時間に余裕がある様で……」

「貴様ァ!」

「ああ、嫌だ。本当に悍ましい……」

酷く醒めた顔を向けてクノハルがそのまま後方へ下がって距離を取った時、図書庫に顔を出したのは第十二皇子の婚約者だった。

「クノハル、どうしたの?トラセルチアの第二公用語の慣用句の使用例についての本はもう見つかったかしら?」

クノハルは全速力で駆け寄って彼女の目を覆う。

「ユルルア様、アレを見てはいけません!穢れます!呪われます!」

当然、婚約者は混乱した。

「えっ?えっ?どうしたの!――何がいるの!?」

「悍ましい生き物がいるのです」

「ひっ!――蜘蛛!?蜘蛛なの!?」

「蜘蛛なんぞよりも遙かに悍ましい存在です、どうかこのまま目を閉じていて下さい!」

戸惑う彼女を抱きかかえるようにして庇いながら、クノハルは地上へと連れて行った。


 「……」

しばらく黙った末に、ギルガンドは誰にも聞こえないように呟いた。

「……知らない事を本で学んで、何が悪い……」




*******************

 何て。

 何て『美しい』(ひと)


 サティジャ・ブラデガルディースがギルガンド・アニグトラーンと初めて出逢った時の感動は、その言葉に尽きる。




 確かに、我が儘で暴れるしか能の無いアルドリックに()んでいたけれど。

 心の底から、卑猥な視線しか送ってこない男共にも飽きていたけれど。


 ――噂には聞いていた。

呪われたアニグトラーンの最後の一員。

【帝国十三神将】が一人――帝国最強の一角、【閃翔】。

【破斧の戦い】で、父祖の名に恥じぬ凄まじい戦いぶりを見せた男。


 聞いていたはずなのに――。

噂では確かに聞いていたはずなのに!


 (一切の余剰と不足の無い完璧な体躯)

 (筋肉質なのに優美な、まるで刀のよう)

 (色素の薄い肌は滑らかでシミ一つ無くて、羨ましいくらい)

 (かと言ってなよなよしているとはほど遠い、凜々しいお顔立ち)

 (特に、目。まるで猛禽の如く威圧的で鋭いのに、為す術無く見とれてしまう、目)


 この人が熱情的に己に恋をして溺れて、何も彼もを棄てて己に縋ってくれたらどれ程の幸せを感じるだろう。

サティジャはその美貌を最も活かせる微笑みを浮かべて、優雅に一礼しながら挨拶をした。

「ようこそ、ブラデガルディースの館へお越し下さいました。当主の父が病のためお出迎え出来ませぬ事をお詫び申し上げます」

「……特務武官ギルガンド・アニグトラーンだ」


 (声!)

サティジャは思わず聞き惚れてしまった。

聞いているだけで胸がときめいて肌が粟立つような素敵な響きの声。

欲しい、と思った。

――この声が悲痛で甘い情熱の響きを帯びて『君しかいないのだ』と言ってくれたら、それは――。


 「……。サティジャ嬢、どうされた?」

ハッと彼女は我に返って、我知らず顔を赤く染めた。

「も、申し訳ございませぬ。どうぞこちらへ――庭の四阿に席を用意してございますわ」

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